「もかっちさん、僕のわきの下こちょこちょしてもいいですよ!」
I君は幼児のような笑顔を私に向けて、まっすぐに腕を上げてみせた。
勤務先での一コマ。
体験入居のI君、まだ会って二日目だろうか。
お気に入りの漫画の長い題名をいくつもすらすらと紹介してくれて、
「へ~、I君凄いねぇ。」
なんて、二言三言交わしたところでの、突然のこちょこちょの申し出だった。
私はなんと返事をしたらよいのかわからず、
「そっか、でも、今日は止めておくよ。」
しどろもどろでそれだけ返すのが精いっぱいだった。
グループホームに就職して、はや一年が過ぎようとしている。
精神障がい者、と知的障がい者が対象だ。
全くの素人の私は戸惑うことも多く、先輩にいろいろと相談すると、
「普通じゃないんだもの。だからここにいるんだし。」
病気だから、普通じゃないからという言葉をよく耳にする。
その度、私は胸がズキッとなる。
私も数年前から精神病患者だから。
私も普通じゃないのかな・・・。
他人から見ると違和感があるのかな・・・。
普通って何だろう。
そんな時に胸の中に渦巻く疑問だ。