昨年末からなんとなく延期し続けていた電話会合が終わって、公演について残っていた最後の不確定事項が決まってしまった。とても尊敬している人からありがたすぎる言葉の数々をもらって、わかりやすく有頂天になって友人に不気味がられた後、例に違わぬ自己嫌悪でさめざめと泣くなどしている。脚本を書かねばならない。

 

 いつかラプンツェルをオマージュしたものを書きたいと数年前の自分が考えていたので、今回はそれを拝借する。ディズニーのものが定着しつつあるが、模倣するのはグリム童話の方。初めて読んだときのことを思い出す。

 グリム童話のラプンツェルは性的描写が過激だということで初版から何度か改訂されているけれど、私は初期の物語展開がわりと好きだったりもする。グリム童話は文章を謳って飾るタイプの文学作品ではないから字面や状況そのものが額面に出やすくてそういう印象が強まってしまうのだろうけど、けれども彼女の心情に思いを馳せた時、一番思考が歩き出すのは初期のものであると思う。

 

 幽閉されて囲われた世界で暮らしていた彼女は、唯一の“窓“からの男との邂逅を侵入と感じたのだろうか、降臨と感じたのだろうか。男をみとめた時のその一瞬。肌感というものを想像する。初めて「彼」と対話したとき、初めて彼の視線が、男特有のそれが自らの纏う空気を簡単に切り裂いて胸に届いたとき、そして肌を合わせ男を受け入れたとき。

何を思っていたのだろうか。男の瞳に何を見たのだろうか。それに映る自分を見て、他人の息遣いを耳元で感じて。

 変わった世界にどんな顔を向けたのか、もしくは変わらなかった世界に何を見たのか。原作では逢瀬を重ねるうちに子を授かったと記されていて、それが発覚して荒野に追放されたとある。その過程やそれを選び取っていった彼女の心を想って、私はそれがたまらなく美しいと思った。知りたいと思った。どんなに彼女を追いかけても、どんなに考え尽くしてもちっとも追いつけない気がして、知ることができないと分かるたびに酷く鮮烈に美しく感じて堪らなかった。当時私がした解釈も、いま考える解釈もここにはのせないでおく。ただひとがなにかを選び取っていくこと、望みとは別に揉まれていってしまうこと、どこかで辿ることを受け入れたこと、それによって、世界の温度や色が変わっていくことに気付くこと。まだ言えるさよならを言えぬと判断すること。

 美しいという感情はこのためのものかと錯覚するほど幼い頃の私にとって衝撃的な出会いだったことは、これからもきっと忘れることはないけれど、それでもやはり今ではただ懐かしむだけの産物でしかないのだと思う。瞬間的な感傷のひらめきに、懐古が勝てる由もないのであって、だから私は演劇が好きなのかもしれない。それと知っていて負け犬面で懐古するのも結局嫌いではないのだ。もしこの文章を他人が読んだら、気味が悪いと思われるのだろうか。現に自分でもそう思うからどうしようもないのだけど、いつかちゃんと、それの理由に日本語を付けたいと思う。

 

 この話を昔、縁のあった人になんとなく零したことがある。寝る前だったからか当時の精神状態によるものなのか、いささか悲哀性を押し出した切り口で語ってしまった記憶があるけれど、彼は黙ってそれを聞いてくれていた。私が語り終わって暫くたったのち、「知ってる、その話」と返してきた。それからまたしばらくは、でもそうか、なるほどね、と考え込まれてしまって、待っているうちに私は眠ってしまったのだけれど、翌朝それを咎めながらもお返しとばかりに随分とまとまった所懐を披露されたのを覚えている。好いていたからという理由以外で、彼の言葉が私にとって魔力をもつ瞬間が、偶にあった。「自分は彼女を女と呼称するという行為に躊躇いがある」という言葉から始まったその日の議論もそれだった。最終的には王子への飛び火が始まって、彼の軽妙な野次に面白くなってしまった私が悪ノリで返してもう高尚な思想論争のていは崩れ去っていたのだけれど、それでも他人の頭の中を覗けた気がして楽しかった。

 かつてに比べて気の置けない関係がとんと減ってしまった気がする。作り方を忘れてしまったのかもしれない。

 

 

 さすがに初版ほど過激にやるわけにもいかないし、ほかに混ぜ合わせたい要素もいくらか見つけたので結局初版とは全く関係のないストーリーが出来上がりそうです。関係のない話をつらつらと書きすぎてしまった。だけどきっとこの先「ラプンツェル」に紐づく思い出は変わっていってしまうだろうから、備忘録として、足跡として遺しておいても良いかなと思います。だけど私が初めて頭の中で彼女を追いかけたように、心ごと雲渡りのような旅に出れる作品にしたいです。がんばろー!!

 

 

 

 

 

 

最近見た映画とか。

・雲の向こう、約束の場所 ……君の名は。みを感じた。天気の子もいたような気がする。この人の原点は変わっていないのだなぁと感じる。熱量のある作品は良い。

 

・リズと青い鳥 ……足元と目元のカットが秀逸。女性同士の恋愛ものだとする人と友情ものだとする人が言い争いをしているのを見て笑ってしまった。そこがせめぎ合う(物理でも)不安定さが良い。

 

・HEROES ……海外ドラマ。超能力を持った少年少女、時々大人たちがひっちゃかめっちゃかにやりあう。額をレーザーで真っ二つにして脳を攫っていく連続殺人鬼をやっつけようという王道サスペンスながらも群像ドラマの様相を呈していて、主人公と視点がころころと変わっていくのが小気味よい。父とワーキャー言いながらものすごいスピードで見てますが、なかなか終わりません。長い。

 

 

 

 ヨルシカの新曲が出た。「晴る」。タイトル候補だったので気まずい。考え直さなければいけない。この歌よ凪げ、という歌詞がとても好きでした。朝日を浴びながら聞いたらさぞ心地よいだろうという感じの曲で、早起きを習慣化させる良いチャンスなので頑張ろうと思う。 

 

 おせちをあっという間に食べきってしまってさみしい。