前欄「徒然草@やすら殿といふ者を知りて」に続き古典文学関係です。
宇治拾遺物語(巻五 九)・・・一乗寺僧正の事
それに呪師小院といふ童を愛せられけり。鳥羽の田植に見つきしたりけり。さきざきは、くひにのりつつ、みつきをしけるを、この田植ゑに、僧正言ひあはせて、この頃するやうに、扇に立ち立ちして、こははより出でたりければ、おほかた見る者も、驚き驚きしあひたりけり。この童あまりに寵愛して、「よしなし。法師になりて、夜昼離れず付きてあれ」とありけるを、童、「いかが候ふべからん。今しばし、かくて候はばや」と言ひけるを、僧正なほいとほしさに、「ただなれ」とありければ、童、しぶしぶに法師になりにけり。
さて過ぐるほどに、春雨打ちそそぎて、つれづれなりけるに、僧正、人を呼びて、「あの僧の装束はあるか」と問はれければ、この僧、「納殿にいまだ候ふ」と申しければ、「取りて来」と言はれけり。持て来たりけるを、「これを着よ」と言はれければ、呪師小院、「みぐるしう候ひなん」といなみけるを、「ただ着よ」と、せめ宣ひければ、かた方へ行きて、さうぞきて、かぶとして出できたり。つゆ昔にかはらず、僧正、うちみて、かいを作られけり。小院、また面がはりして立てりけるに、僧正、「未だ走り出はおぼゆや」とありければ、「覚えさぶらはず。ただし、かたささはのてうぞ、よくしつけて候ひし事なれば、少し覚え候ふ」と言ひて、せうのなかわりて通るほどを走りて飛ぶ。兜持ちて、一拍子に渡りけるに、僧正、声を放ちて泣かれけり。さて、「こち来よ」と呼びよせて、打ちなでつつ、「なにしに出家をせさせけん」とて泣かれければ、小院も、「さればこそ、いましばしと申し候ひしものを」と言ひ、装束ぬがせて、障子の内へ具して入られにけり。その後はいかなる事かありけん、しらず。
現代語訳は
こちら ※梅色夜話
僧正に抱きかかえられて連れ込まれた障子の内ではいったい何があったのでしょうか?(笑)
※次欄「稚児の悲恋@古今著聞集」へと続きます。