「あの、私こういうの初めてで、慣れてなくて…」
突然二人になった事に慌てて、思わず青木さんにそう言ってしまいました。
すると、意外なことに青木さんも少し慌てたように。
「僕もなんです、初めてで…」
と返してきました。
同じ初めてだったみたいで、安心すると同時に、本当か?とも思いました。
当時二十代後半だった私よりも4つ程年上だった彼、お見合いはいくつかこなしてそうな年齢です。
また、見た目や立ち振る舞いからこれまで彼女がいなかったようには見えませんでした。
なので、私に気を使って合わせてくれているのかもしれないと思いました。
さて、彼の車に乗ってランチに出かけます。
初対面の男性の車にいきなり乗りこむ事に驚かれる方もいるかもしれませんが、
私が行っていた家同士のお見合いではこれが普通でした。
恐らくお互いの素性が仲人さんを通して筒抜けである事と、何より田舎過ぎて車に乗らないと何も無いんですね…。
私もネットでの婚活であれば、良く知らない相手の車には絶対に乗り込まなかっただろうと思います。
というわけで、私の婚活は直ぐに車に乗り込む事が多いです。
彼の車は国産のコンパクトカーでした(車に興味なさすぎてこれ位の情報しか覚えてません
)
乗った瞬間、かすかにタバコの匂いがしました。
私の年代は20歳頃まではタバコ=格好いいみたいな風潮があって、また私の父が今でこそタバコを吸っていませんが幼少のころによく喫煙していた思い出があるため、当時の私はタバコに対する拒否感はもっていませんでした。
私自身は吸っていないけど、吸いたい人は吸うよね位な感じ。
なので、本当に何気なく言いました。
「あれ、タバコ吸ってる?」
「え、ううん、吸ってないよ」
少し驚いたように彼が答えました。
え?吸ってないんだ。でも確かにタバコの匂いがするけどな。友達でも載せた時に、その人が吸ってたのかな?
と思いましたが、何気ない会話のつもりだったので、そのまま流しました。
さあ、ランチどこに行く?
今もですが、当時から地味に生きてきた私は目ぼしいランチができる店など知らず、また経験が浅い故に調べておくという気の利いた事すらしていませんでした。
すると彼は、新聞の取材で美味しいお店をいくつか知っているんだと言って、街角にある個人で営むイタリアンに連れて行ってくれました…!
十年の婚活を経て思うのですが、こうやってスムーズにお店を提案してくれる男の人って本当に貴重なんですね。
私と同じで何も考えていなかったり、それどころか当たり前のように店探しを丸投げしてきたりする人が半分を占めるので。
彼が紹介してくれたお店は、知る人ぞ知るといった感じの名店で、雰囲気もよく、出されたピザとパスタもとっても美味しかったです。
生まれて初めて男性と二人きりで食べるランチでした。
話もそこそこ弾んだように思います。
帰りに車の中でメール(当時ラインはそこまで普及していませんでした)を聞かれ、このまま交際してみる事になりました。
これまで、お付き合いをした事もなかった自分が、こんな事になっているのが信じられませんでした。
ただ、お見合いとは言え、夢にまで見た男の人とランチを過ごして交際をするという状況になっても――全く喜んでもいなければ、ときめきも持っていない自分がそこにいました。
ただ気を使っているだけ、相手に気に入られようとしているだけ。
無理をしていました。
そして、彼に会えば会う程、態度にこそ出していませんが、彼に苛立ったり違和感を覚えていく事になります。