La Casa Lobo(2018 チリ)

監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ

脚本:ホアキン・コシーニャ、クリストバル・レオン、アレハンドラ・モファット

製作:カタリーナ・ベルガラ、ホアキン・コシーニャ

製作総指揮:ニレス・アタラー

出演:アマリア・カッサイ、ライナー・クラウゼ

①感動さえする斬新なアニメーション手法

チリのストップモーション・アニメ作品。

アートアニメに分類される作品になると思いますが、これは凄い。とんがった表現の好きな人は、一見の価値ありです。

 

表現手法が凄い。アートアニメ作品もいろんなものを観てきたけど、観たことのない映像。

主人公が逃げ込んだ「家」が全編の舞台になるのだけど、アニメーションは基本的に、この「家」の全面に描かれた絵が動いていくことで表現されます。

つまり、家の中の壁、床、天井、家具まで含めたすべてをキャンバスとして、その上に絵を描く。

絵を描いてコマ撮りして、一旦全部消して、微妙にズラした位置にまた描いて。

これ、とてつもない作業だと思うんですけどね。本当にその手法で長編を作ってしまってる。

 

壁画だから基本的には二次元だけど、窓やドアやテーブルなんかも気にせず描くので、二次元でありながら三次元でもある、ユニークな表現になっています。

そこに更に、モデルアニメーションによる立体的な手法も織り交ぜて見せていく。

だからもう、毎秒ごとに次にどんな表現が出て来るか予想がつかない。

 

ムードとしてはヤン・シュヴァンクマイエルを連想するけど、表現技法は本当にオリジナル度が高い。

ある種のアウトサイダーアートとか、アングラな悪趣味アートの匂いが濃厚だけど、ユーモアもある。

手作りアニメの分野でも、まだこんな斬新な表現があるんだ…というね。本当に、感動させられました。

 

②コロニア・ディグニダの恐怖(どこかで聞いたような)

ストーリーは、ある宗教的共同体のコロニーから逃げ出した女性が、一軒の家に逃げ込み、そこに身を潜めて家族を構築するけれど、やがて破滅して、元のコロニーに戻っていく…というものです。

このコロニーのモデルになっているのが、実在のカルト宗教コミューンであるコロニア・ディグニダ。

これ、僕は知らずに観たので、後で調べてようやくストーリーの意味がわかるところが多々あったのだけど。

あらかじめ多少の知識を持っていた方が、よりわかりやすく楽しめるかもです。

 

コロニア・ディグニダは、元ナチス党員のドイツ人パウル・シェーファーによって、1961年にチリで始められたドイツ人入植者の共同体です。

シェーファーは厳格なキリスト教の戒律に基づき、構成員たちを支配しました。家族はバラバラにされて繋がりを断ち切られ、無償の強制労働が課せられ、違反者には電気ショックなどの厳しい体罰が与えられました。

更に、シェーファーは元々ドイツで少年に対する性的暴行で起訴され、チリに逃亡してきた人物でした。シェーファーはコミューンの絶対的権力を利用して、長年に渡って大量の少年たちに性的暴行を行い続けたと言います。

 

コロニア・ディグニダは内部的には地獄のような組織でしたが、その反共主義から当時のチリの軍事政権に保護されていました。逃げ出した人たちは軍や警察、果てはドイツ大使館によって、コロニーに送り返されたそうです。

コロニア・ディグニダが調査を受けたのは、軍事政権崩壊後の1990年代になってから。

シェーファーは1997年に性的暴行の罪で起訴され、2010年に死亡しています。

 

小児性愛者が権力を持ち、閉鎖された環境で絶対的に君臨し続けたことによって、大量の児童への性的暴行を引き起こし、しかし公権力と癒着することで、長年に渡って隠蔽され続けてきた。

ジャニーズ事務所やん!

…と、一回だけ言っておきます。

 

ともあれ、本作はそういうチリの歴史上の恥、暗部と言えるところに焦点を当てた作品です。

でも、それを単純に被害者の立場から、悪を糾弾する論調で描くのではなく。

本作は全体が、コロニー側のプロパガンダ・フィルムという体裁になっているんですね。

逃げ出した女性が、オオカミに屈服し、自らコロニーの「保護」の元に戻っていく様を描き、だからコロニーがいかに素晴らしいかを語るという。

 

それもなんちゃら事務所と一緒ですね。被害者である構成員自身が、声を合わせて加害者を擁護し出すという。

ここにありありと描かれるのは、閉ざされた環境で洗脳され、虐待されることによって、自分の被害に気づくことすらできなくなるという最悪の恐怖

虐待が、いかに人の人格を捻じ曲げてしまうかということ。

 

いやあ…まさかこんなところでリンクするとは思わなかったですが。

自国の暗黒面とも言えるそんな問題を、あえてここまで独創的な表現に昇華するのが素晴らしいと思います。日本でも、そんな表現はいずれ現れるでしょうか?

③音響も魅力的!

映像の上で革新的な本作ですが、音響も素晴らしい!ということを付け加えておきます。

映像が立体的であるのと同様に、恐怖と不安を掻き立てる不穏な音が、常に立体的に展開していきます。

これは、映画館でしか体験できないんじゃないでしょうか。チャンスがあるなら、映画館で観ておくことをオススメします。

 

映画館では、「ミッドサマー」アリ・アスター製作総指揮による最新の短編「骨」が同時上映になります。これもなかなか気持ち悪くてイイです!

監督のレオン&コシーニャはアリ・アスターの新作Beau Is Afraidの「アニメパート」を担当したということで、それも楽しみ!ですね。

 

 

こちらは特撮の重鎮フィル・ティペットの悪夢世界。

 

こちらは日本人がコツコツ一人で作ったSFアニメ。