岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023 日本)

監督:渡辺一貴

脚本:小林靖子

原作:荒木飛呂彦

製作:土橋圭介、井手陽子、ハンサングン

製作総指揮:豊島雅郎

撮影:山本周平、田島茂

編集:鈴木翔

音楽:菊地成孔

出演:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信、美波、池田良、前原滉、中村まこと、増田朋弥、白石加代子、木村文乃

①「2017年実写版」の話

荒木飛呂彦漫画作品の実写化といえば、三池崇史監督による「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」がありました。

2017年公開。東方仗助に山崎賢人。広瀬康一に神木隆之介。空条承太郎に伊勢谷友介というヒット当て込みキャストで、シリーズ化を前提に、ストイックに原作の序盤だけを映画化した作品でしたが、大コケ

結局「第二章」が登場することはなく、すっかり「なかったこと」になっている感があります。

 

僕はこの映画、映画館で観ましたが!

悪くない映画だった…と思うのですよね。結構白けず、楽しみました。

舞台は日本なのに、わざわざスペインでロケしていて、スペインの街に日本語の看板とかついてる違和感をあえて出すことで、荒木飛呂彦の「奇妙な」世界観を再現してる。

変なこだわりで、めっちゃ手間のかかることをやっていて。そういうのもすごく好感が持てたのです。

 

アクションシーンも、CGによるスタンドの再現も、決して悪くなかったと思う。(ハリウッドを凌駕する凄さだった…とまでは言えないのが悲しいところだけど)

よくコスプレと揶揄されるキャラクターに関しても、実際に物語の中で動いてるところを見ると、決して失笑するようなものではなかった…と思うんですよ。

ただその辺、実際に観ないとあまり伝わらない。写真や予告編などの限られた紹介の中だと、どうしてもコスプレに見えちゃって、滑稽に思えてしまうのが歯がゆいところでした。

 

あと、やっぱりいくら正攻法でも、本当に序盤だけで1本の映画にするのは無理があったなあ…と思います。

本当に原作通りに徹していて長期連載の序盤だから、まだ人気キャラクターもほとんど出てこない。吉良吉影は出てこないし、億泰は味方じゃないし、山岸由花子も出てきただけだし、それこそ岸辺露伴も出てこない

物語的にも全然盛り上がっていないという。このハンデを超えられると見込んだ自信はいったい何だったのだろう。

②ジョジョを実写にするという取り組み

長々と6年前の映画について書いてますが。なんかあまりにも失敗作扱いされるので、不憫に思えて。

…というのも、割と挑戦作だと思うんですよね。わざわざ手間も金もかかる外国ロケとか、作品への強いこだわりがないとやらないじゃないですか。

あえて盛り上がるところを全部諦めても原作通りの順番にこだわるとか、都合よく原作改変しちゃいがちな中で、大した原作へのリスペクトだと思う。

 

それだけに、盛大にコケたのは極めて残念でしたね。

どっちかというと、観た人よりむしろ「観もせずに貶す人」におもちゃにされちゃったような気もする。

 

実写はともかくアニメに関しては、2012年から始まった原作第1部からの忠実なアニメ化が非常に高評価で。

第4部も2016年から放送されて好評だったので、アニメでは既に手法は確立していたと言えます。

このアニメシリーズでシリーズ構成を担当した小林靖子が脚本を手がけたのが、高橋一生主演のNHKドラマ「岸辺露伴は動かない」ということになります。

ここに来てようやく、懸案だった「荒木飛呂彦世界の実写化」は一つの回答を得た…という印象がありますね。

 

「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ連作短編である本シリーズですが、ドラマでは「ジョジョ」要素は注意深く切り離し、「スタンド」という呼称も「ギフト」などと言い換え。

何より、漫画的な一番の見せ場である異形のスタンドを登場させず、リアルな世界観に徹することで、実写として無理のない世界観にアレンジしています。

そう言えば、「ジョジョ立ち」もないですね。

 

その意味では、上記実写映画と比べても、原作への忠実度はそこまで高くない。

でもその一方で、キャストが上手くハマっていて。

物腰やセリフ回し、存在感が非常に再現度高いんですよね。高橋一生版の岸辺露伴として、違和感がない。

やみくもにルックスを漫画通りにしなくても、再現度は上げられるということを、見事に示していたと思います。

 

③ようやく今回の映画の話

というわけで、2021年と2022年に放送されたドラマ版を受けての、映画版ということになります。やっと来た。

原作は、2005年からルーブル美術館が推進してきた「BD(バンド・デシネ)プロジェクト」の一環として、2009年に発表された読み切り作品です。

つまり、ルーブル美術館との公式なコラボ作品。

それを受けて、映画でもルーブル美術館で全面的なロケ撮影が行われています。

 

原作は中編のボリュームなので、特に前半にオリジナルの展開が付け足されています。

そこも、無理なく追加されていましたね。

高橋一生の岸辺露伴はすっかり安定感があるし、原作にはない泉京香(飯豊まりえ)も上手く見せ場を作って物語に馴染んでいました。

回想シーンもフランスも違和感なく、きれいに構成されていたと思います。

安定感があって、そつがない

 

そつがない…それが本当に、最大の感想でした。

破綻なく安定感があるのはいいことだけど。

ただ、ここまで徹底して「そつがない」と、なんか物足りなくなるんですよね〜。

破天荒でビザールなはずのジョジョ世界、荒木飛呂彦世界の映画としては、もうちょいぶっ飛んだところがあっても良かったんじゃないかって…。

ワガママなもんですね。

④破綻はないけれど…

この「岸辺露伴」シリーズ、ドラマという枠の中だと、リアル志向であってもやっぱりかなりぶっ飛んだ印象になるんですよ。NHKだしね。

でもそれが映画という形になってしまうと、ずいぶんおとなしい印象になってしまう。

「ジョジョ」を実写で成立させるための様々な気遣いが、今回はちょっと裏目に出てしまってるんじゃないか…なんてことを思ってしまいました。

 

ドラマには原作の特異な「ジョジョ立ち」がないのですが、本作の原作では、クライマックスのルーブル地下での人体破壊描写に、いわゆるジョジョ立ち的な、荒木飛呂彦独特のポージングの面白さが反映されてるように感じました。

そうでなくても、原作は結構スプラッタなんですよね。

原作における、階段から過去の亡霊が現れるシーンは、僕はスティーヴン・キングの「イット」(原作版)給水塔シーンの引用じゃないかと思うのですが、そういうホラー要素も映画では希薄でした。

 

その辺の作者独特のこだわり、過剰な人体のねじれとかオマージュとかいったものが省略され、淡々とストーリーを追うことに徹したのが映画版ですね。

なので、確かに破綻はない。そつなく、わかりやすい。

でもなんか、うーんなんか大事なところが足りない気がする…。

 

というわけで、がむしゃらに漫画に寄せていった結果コケてしまった、成功作ではなかったけれど確かに挑戦作ではあった、不幸なジョジョ実写版を思い出してしまったのでした。

本作はリアルで雰囲気もあって良いとは思うのだけれど、ジョジョとしては何かしらの「奇妙な冒険」があって欲しいと思ってしまう。

ワガママですみません。我ながら因果なもの…ですね。

 

 

 

 

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