BLUE GIANT(2023 日本)

監督:立川譲

脚本:NUMBER 8

原作:石塚真一

音楽:上原ひろみ

キャラクターデザイン/総作画監督:高橋裕一

メインアニメーター:小丸敏之、牧孝雄

音楽:上原ひろみ

演奏(サックス):馬場智章

演奏(ピアノ):上原ひろみ

演奏(ドラム):石若駿

アニメーション制作:NUT

出演:山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音

①上原ひろみの説得力ある音世界

仙台で一人、サックスの練習を続けてきた大(山田裕貴)は、高校卒業を機にジャズプレイヤーになるため上京、進学した同級生・玉田(岡山天音)のアパートに転がり込みます。見に行ったライブで凄腕のピアニスト・沢辺雪祈(間宮祥太朗)と出会った大はバンドに誘い、影響を受けた玉田もドラムを一から始めて参加。3人は”JASS”を結成します…。

 

人気漫画のアニメ化。ジャズをテーマにした作品で、世界的ジャズピアニストである上原ひろみが音楽を担当しています。

 

音楽をテーマにした漫画を映像化する場合、音をどう表現するかが最大のポイントになりますが。

上原ひろみというトッププレイヤーを得て、実に説得力のある音世界が実現しています。

 

上原ひろみさん、映画以前から聴いていたけど。

ジャズ初心者にも分かりやすいんですよね。速くて、激しくて。

スピード感溢れる、疾走感のあるピアノ。技巧的にも凄さが感じやすいし、気持ちいいのです。

彼女の音楽で、本作は音楽映画として非常にハイレベルなものになっていると思います。

 

②シンプルで分かりやすい王道ストーリー!

田舎から出てきた若者が「ジャズで世界一になる」という大きな夢を掲げ、一心不乱に突き進む王道のサクセスストーリー

上京から、バンドメンバーを集め、初めてのライブをして、名門ジャズクラブでの演奏を目指す。

とても分かりやすい、ストレートな展開になっています。

 

原作は仙台編から始まるとのことで、映画は導入部をかなり端折った形になってるのだけど、分かりにくいことはない。

長編漫画を、上手く映画の尺に当てはめてますね。

 

焦点は常に音楽に絞られて、余計な寄り道はない。恋愛要素もまったくないのが、潔いですね。

ストイックに、まっすぐに。音楽に突き進んでいく若者の情熱がそのまんま伝わって、観ていて本当に気持ちがいいのです。

 

仲間とバンドを組んで、練習して、初ライブに緊張して…と丁寧に追っていく、バンド活動の楽しさ

まったくの初心者からの上達の面白さを玉田を通して見せるし、上級者なりの挫折も雪祈を通して見せていく。そこはまあ、やや駆け足気味ではありましたけどね。

でも、ぎゅっと凝縮された濃厚な青春という印象になっていて、それはそれで良かった!ですね。

③音だけで感情を伝える表情豊かな音楽

そうした熱いストーリーの節目に、彼らの行動のその都度の結果としての演奏シーンがやって来る。

だから、演奏シーンがぼんやりした印象のものになってしまったら、何の説得力もない。

その場面ごとの大たちの心情を反映して、思いが感じられるものにならないといけない訳です。

 

漫画では音はない訳だから、ただ聴衆の反応とかでそれを感じさせるのだけど。

実際に音としてそれを聴かせる。しかも、何通りにも聴き分けさせるというのは、大変なハードルだと思います。

本作の音楽は、それを見事にクリアしてる。

 

雪祈の、優等生的だけどつまらないと評価される演奏と、その評価を突きつけられて悩んで、覚醒して、その先の領域に踏み込んでいく演奏。

ジャズに慣れてない素人の耳にも、その違いがちゃんと伝わる演奏になっていたし、だからこそ後者の演奏に心が震える。感動する。

 

玉田の拙いドラムが上手くなっていくのも、すごく感動的でしたね。

演奏してる人はもちろん第一人者の人なんだけど、ちゃんと素人らしい、必死のリズムキープで汗をかく様子を聴かせてくれる。

最後のライブでは非常に迫力あるプレイになるのだけど、それも不自然にテクニック的に上手くなってるのではなくてね。

気持ちがこもっているからこそのプレイに、ちゃんと聴こえる。

 

そして、大のサックス。

エネルギッシュで破天荒な「音圧の強いサックス」って、最初は良くてもワンパターンに聴こえちゃう場合もあると思うのだけど。

しっかり、段階を踏んで聴こえましたね。ちゃんとだんだん迫力を増していって、映画のクライマックスで最高潮に達する。

 

登場人物の心情が、演奏を通して伝わってくる…って、言葉にすれば簡単だけど。そうおいそれと、狙って出来ることじゃない。

本作は本当に、煽り文句はよくあるけど実際にはそう出会えないような、「気持ちがビンビン伝わってくる演奏」になっていたと思います。

④気になった点は…

音楽が良いだけに!なんですけど。

演奏シーンの映像は、音楽のクオリティにやや追いついていない感じ。

タッチが変わったり、イメージ的になったりで演奏シーンを単調に見せない工夫をしているんだけど。長くなってくると、似たようなシーンが使い回されてる印象が…。

たっぷり時間を使って曲を聴かせるのはすごく良かったのだけど、その長さに対応するには、ちょっと映像のアイデアが足りていない気がしました。

 

あと、ストーリーの面では、主人公である大の掘り下げがほぼなかったのが気になりました。

これはたぶん、原作の導入部分である仙台編をまるごと切っちゃってるせいだと思うのだけど。

今回映画で描かれたストーリーでは、大には特に挫折も葛藤もなく、人物を掘り下げるエピソードも特に見当たらず。

雪祈と玉田の方が描き込まれていて、感情移入もしやすい。大は狂言回しという印象でした。

⑤ジャズとの幸福な出会いに!

ジャズって、難しい音楽ですよね。

僕は昔から音楽はロック中心に聴いてきて、ジャズを聴くようになったのは最近のことで。

それも、いわゆる名盤と言われるCDを順番に聴いてる程度の、まるっきり浅いリスナーなのですが。

 

名盤だからと言って、必ずしもハマる訳でもない。

いろいろ聴いてみても、ピンとくるものはその中の一部でしかなかったり。

もっと分かろう…と思って踏み込んでいくと、あまりにも難しそうな膨大な理論が待ち受けていて、挫折してしまいます。

 

本当はたぶん、出会い頭にパッとライブ演奏を聴いて、何の理屈もなくただその音に感動させられて、夢中になっていく…というような出会い方ができれば、それがいちばん良いのでしょうね。

勉強しよう、じゃなくてね。評価の確定してる作品を聴いてみよう、じゃなくて。

 

映画「BLUE GIANT」は、そういうジャズとの出会い方のできる、稀有な機会なんじゃないかと思います。

ジャズを聴いたことのない人にこそ、ぴったりの映画じゃないでしょうか!