①感想文は「私がどう変わったか」

映画館で観たけれどこのブログで記事にしていない映画が結構溜まってきてまして。

リバイバル上映のいくつか…「ブンミおじさんの森」「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」「アポロ13」あたりは、新作を優先してるうちについついそのままに。

新作では「パリ13区」「私は最悪。」の2本が、かなり前に観たままになっていました。

 

映画自体の評価とは別のところで、書きやすい作品と書きにくい作品があるんですよね。

バツン!とハマった作品は、もう観て帰る電車の中で書き始めてしまうし。

面白くなかった作品も、ツッコミどころが多いと非常に書きやすいので、早々に書けてしまいます。

 

ブログを書いてて、あらためて思い知ったのは、映画レビューといえども結局のところは、書いているのは自分のことだということ。

完全に客観的な文章なんてものはあり得なくて、映画について書きつつも、結局は自分との接点を書いている。

 

三谷幸喜のコラムで読書感想文について、「どう思ったか」ではなく「自分がどう変わったか」書くと書きやすい、ということを言っていました。

書きやすいというか、たぶん感想文ってそうなんですよね。自分がどう変わったか、しか書けない。

たぶんこのブログのどの文章も、多かれ少なかれ、その物語を経て自分の内面や考え方がどう変わったかを書いている。

あ、プロの評論家であれば、違うのだろうと思いますが。

 

新作だけど書けてない2本…「パリ13区」と「私は最悪。」はどちらも女性が主役の恋愛映画。

どちらも面白くは観たのだけれど、自分との接点という点では希薄なんですよね。自分のこととしては、観られない。

ネットのレビューを見てると多くの女性が「深く共感した」「自分のようだった」という書き方をしていて、そういう共感ができないと、自分は変わらないのだと思います。

②「パリ13区」

Les Olympiades(2021 フランス)

監督:ジャック・オーディアール

脚本:ジャック・オーディアール、セリーヌ・シアマ、レア・ミシウス

製作:バレリー・シェアマン

原作:エイドリアン・トミネ

撮影:ポール・ギローム

編集:ジュリエット・ウェルフラン

音楽:ローン

出演:ルーシー・チャン、マキタ・サンバ、ノエミ・メルラン、ジェニー・ベス

 

 

パリ13区に暮らす台湾系のエミリー(ルーシー・チャン)は、ルームシェアを希望して訪れたアフリカ系の教師カミーユ(マキタ・サンバ)とセックスする仲になりますが、恋人にはなりません。一方、大学に復学したノラ(ノエミ・メルラン)はパーティーで金髪ウィッグをかぶったことでネット上でセックス相談をするカムガールのアンバー・スウィート(ジェニー・ベス)と間違われ、学内で噂になってしまいます…。

 

スタイリッシュなモノクロ映像で描かれる、パリの先進的な恋愛/セックス事情。

軽くてインスタントなセックスを楽しむエミリー、いかにもフランス映画のキャラって感じで近くの女は誰でも口説くカミーユ、セックスをめぐる無根拠な噂で傷ついて臆病になるノラ。

三者三様の恋愛/セックスに関する生き方を、そのやんわりとした変化を追いながら描いていく、繊細な映画になっています。

 

やや類型的な3人の考え方が、じっくりと生き方を描いていく中で、少しずつ変わっていくのが印象的です。

エミリーの軽さは少し「症例的」な見え方もするし、その中ででも受け身にならずに事態をリードしていくエミリーは魅力的です。

ノラはLGBT的な多様性も引き受けつつ、「本当の私の解放」は昔ながらのテーマでもあります。

その中で、プレイボーイのカミーユだけはあんまり変わらないし、この先も頼りなさそうに見える。男性というものへのシビアな評価も現代的かもしれません。

 

都市をモノクロで捉えた映像は美しく、心情描写は繊細で、とても良くできた映画だと思います。

出会ってすぐにセックスできちゃうコミュ力の高さは個人的に共感の難しいところで、あんまり乗れなかったのは単にカミーユモテすぎ!という僻みかもしれません。

 

 

③「わたしは最悪。」

The Worst Person in the World(2021 ノルウェー、フランス、デンマーク、スウェーデン)

監督:ヨアキム・トリアー

脚本:エスキル・フォクト、ヨアキム・トリアー

製作:アンドレア・ベレンセン・オットマー、トマス・ロブサム

製作総指揮 :ダイベック・ビョルクリー・グレーバー、トム・キーセス

撮影:カスパー・アンデルセン

編集:オリビエ・ブッジ・クーテ

音楽:オーラ・フロッタム

出演:レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ハーバート・ノードラム、ハンス・オラフ・ブレンネル

 

 

成績優秀だけど決まった目的を持てずにいたユリヤ(レナーテ・レインスベ)は、グラフィックノベル作家のアクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)と付き合っていましたが、若いカフェ店員のアイヴァン(ハーバート・ノードラム)と出会って惹かれていきます…。

 

ユリヤの20代から30代への年月を、細かなチャプター形式で描いていく。ユーモアもふんだんに含まれたドラマで、客観的なナレーションも交えてスピーディーに見せていくのは「アメリ」なんかも思い出します。

 

医者を目指すことができるユリヤはもともと恵まれた境遇で、そんな彼女がコロコロと目的を変えていく、また優しいパートナーにも満足せず安易に浮気に走るのは、普遍的な共感は難しいところだと思います。「わたしは最悪。」とタイトルで言ってるところですね。

でも、まあ、分かるんですよね。そういうもんだというのも、分かる。

人間は、そう理想的に生きられない。

 

映画の中でもっとも心踊る、美しくてファンタジックな映像は、ユリヤが優しい恋人を裏切って浮気相手の男に会いに走っていく場面。最悪ですね。

分かるんですけどね。分かるけど、分かりたくもない感じ。

 

終盤、ユリヤが嘘ついて別れたアクセルが末期ガンという話になって、なんか哀れな感じになってしまう。

それに同情的に接して、夜明けに涙したりする。

分かるけどね。アクセルの方に感情移入しちゃって、うーん…って感じになりました。

 

 

 

④あらためて知る自分の弱点

面白いのは、どっちも男性監督なんですね。

フランス人のジャック・オーディアール監督は70歳。

デンマーク生まれのヨアキム・トリアー監督は48歳。

共に男性だけど、女性の観客によく共感される作品を撮っている。そこは素直に、すごいなあと思います。

 

あらためて、書けてなかった映画について書いてみたんですが。

自分の弱点というか、どういうところがあまり得意でないのかというのがよく分かった気がします。なんでも、得るものがありますね。

 

ヨアキム・トリアー監督の前作は超能力少女ものスリラー。こちらは素直に楽しみました。

 

 

ジャック・オーディアール監督のサスペンス。