Till Death(2021 アメリカ)

監督:S・K・デール

脚本:ジェイソン・カーヴィ

製作:ジェフリー・グリーンスタイン、デヴィッド・レスリー・ジョンソン、ジェイナ・カレイヴァノヴァ、ヤリフ・ラーナー、タナー・モブリー、レス・ウェルドン、ジョナサン・ヤンガー

撮影:ジェイミー・カーニー

編集:アレックス・フェン、シルヴィ・ランドラ

音楽:ヴァルター・マイア

出演:ミーガン・フォックス、カラン・マルヴェイ、オーエン・マッケン、アムル・アミーン、ジャック・ロス

①ぶっ飛んだ発想!

エマ(ミーガン・フォックス)は夫であるマーク(オーエン・マッケン)との結婚生活に疲れ、夫の会社の従業員であるトム(アムル・アミーン)と不倫をしていました。結婚記念日の夜、マークはサプライズと称して、雪に閉ざされた湖畔の別荘へエマを連れて行きます。

翌朝、ベッドで目覚めたエマは、自分とマークが手錠でつながれていることに気付きます。エマの目の前で、マークは拳銃自殺。これは不倫に気付いていたマークの復讐でした。マークの死体を引きずりながら、エマは別荘からの脱出を目指します…。

 

なかなかぶっ飛んだ発想のサスペンス。

攻撃対象の自由を奪う…拘束する…重しをつける…という発想のスリラーはこれまでもあった気がしますが、その重しが「自分の死体」というのは初めて見ましたね。

夫の死体が腕にくっついてるのだけど、何をするにも70kg? 80kg?の重しを必死で引きずっていかないといけないわけだから、夫の死体は一瞬で、文字通りジャマなだけの障害物に。

悪態と共に引きずり回され、階段から滑り落ちたり、パンツいっちょで雪の中を引きずられたりすることになります。

 

復讐なのに自分の死体を粗末に扱わせるのはいいのか?って思いますけど。

まあ、どうせ死んでるんだからいいのか。なんか不思議な復讐。

 

つーか、この夫役の人の苦労たるや…という。

これほどに俳優が大変そうな映画、そうそうないんじゃないかな。

観てる間中ずっと、大変だなあ…と同情してしまいました。

②斬新な死体引きずりサスペンス

というわけで前半は、旦那が生前に用意していた様々な嫌がらせ(携帯水没、道具全没収、車のガソリン抜き取りなどなど)に、妻がその旦那の死体を引きずりながら直面させられていく…という展開になります。

飾られていたウェディングドレスを使って、死体を引きずっていくのがいいですね。ウェディングドレスの斬新な使い道!

 

階段とか、地下室に降りてまた登るとか、雪の外に出てガレージに行くとか、死体と一緒じゃ大変な場面のいろいろを、丁寧に描写していくんですね。

だからエマの大変さは伝わるんだけど。マーク役の人の大変さも伝わって、なおかつシチュエーションが奇妙なので、笑えもする。

いったい何を見ているんだ…という気持ちにもなってきます。

 

どこまでこれやるんだ…とそろそろ思い始めたところで、トムがやって来て局面が変わります。

マークの偽メールで呼び出されたトムは、続いてやって来た男ボビー(カラン・マルヴェイ)にあっさり刺殺されてしまいます。

ボビーは、かつてエマを襲って逮捕された男でした。ボビーのエマへの逆恨みを、マークは妻への復讐に利用したのでした。

 

ここから映画は、ボビーとその弟ジミーと、エマとの追いかけっこという次のフェイズに入って行きます。

2対1で、雪の中に閉ざされた狭い別荘の中で、なおかつエマには夫の死体というハンデ付きですからね。一瞬で見つかりそうなもんですが。

見つからないんだなこれが!

ここからはもう、ツッコミ前提としか思えないような、無理のある強引な追いかけっこが展開することになります。

 

③斬新な雪密室かくれんぼ!

死体を引きずったままも限界あるので、ここらでハンデを外して、夫の死体を切り離して身軽になります。

それでも2対1の状況は変わらないし、逃げ回る範囲も狭いので、それほど長くは続かないと思えるのだけど。

 

それでも、本当にシンプルな、「鬼に見つからないように車の下にもぐる」とか、「鬼に見えないように反対側に隠れて、鬼の動きに合わせて移動する」とかのプリミティブな方法で、かくれんぼが展開していきます。

シンプルというか、原始的すぎてむしろ斬新。

雪の戸外で見つかりそうなところで、とっさにその場に倒れて雪に隠れる!という斬新さに、目が点になりました!

相手がトコトコ歩いていくその横で、ただ伏せてるだけですからね。こんなスリラー初めて見た!

 

何というか、ビックリするくらい大ざっぱなんだけど、そこだけって訳じゃなくて、全体がそうなので。

ギリギリ絶対にあり得ないとは言い切れない…かな…というくらいのリアリティラインで、全体の統一は逆にとれちゃってる。

だから、観てるとこれはこれでアリのような気がしてきちゃうんですよね。不思議と。

 

いやいやムリだろ!とツッコミ入れつつ、破綻してるとまでは言えないし、しらける前に次の局面へと移っていくので、とりあえず飽きずに楽しく観れてしまう。

これはこれで、実はすごく計算されているのかもしれない…なんて気がだんだんしてきたりもするのです。

④テーマは意外にしっかり!

本作のメインの仕掛けである死体の重しが割とあっさり離れちゃうので、あれれ…と思っていたのですが。

しっかり、最後にもう一回手錠でつないで、活躍してくれます。死体役の人、まだ頑張る。

 

マークの仕掛けは、最後にもう一捻り。序盤でプレゼントされたネックレスと、レストランでのエピソードが伏線として効いてきます。

結婚11年目の鋼鉄婚式(ってあるんですね!)のサプライズ、鉄のネックレスはあからさまに「首輪」で。

ダイヤモンドをプレゼントされた若い女性にエマは「アドバイス」して無視されるんだけど、実はエマも既にダイヤをプレゼントされちゃってるんですね。最悪の形で、だけど。

 

男性による女性の支配というジェンダー的な寓意も見え隠れします。

そもそも全体が、夫というものは文字通りのジャマな重しでしかない…という強烈な皮肉ではありますね。

その重しを「捨てる」ことが決着になるのは、だからテーマ的にも必然です。意外と…と言っては何だけど、テーマ的な構築はしっかりしてるのです。

⑤斬新なブルガリア産アメリカ映画?

ミーガン・フォックス血を浴びても殴られても崩れない化粧は濃いかったですが、寒そうな中で頑張ってたんじゃないでしょうか。

個人的に頑張ったで賞はマーク役のオーエン・マッケンにあげたいですね。パンツいっちょで最後まで、大変そうでした。

 

S・K・デール監督はこれが長編デビュー作。

何のデータもない人ですが、なかなか個性的な映画を撮る力のある人な気がします。今後に期待。

 

本作でちょっとびっくりしたのは、エンドクレジットで流れるスタッフの名前がほぼアメリカ人ではない感じ…なんですね。

えっ東欧映画だった? それともロシア?とか思ったんですが、れっきとしたアメリカ映画。

本作の撮影はブルガリアで行われたとのことなので、現地スタッフなのかな。

いずれにせよあんまりないパターンの作られ方な気がしました。情報がないのでよく分からないのだけど。いろいろと不思議で気になる映画。今後に注目です。

 

 

 

ポスタービジュアルが大いにネタバレしてるのも豪快だったり。