ノイズ(2022 日本)

監督:廣木隆一

脚本:片岡翔

原作:筒井哲也

製作:北島直明、里吉優也

製作総指揮:伊藤響

撮影:鍋島淳裕

編集:野本稔

音楽:大友良英

出演:藤原竜也、松山ケンイチ、神木隆之介、黒木華、伊藤歩、渡辺大知、酒向芳、迫田孝也、鶴田真由、波岡一喜、寺島進、余貴美子、柄本明、永瀬正敏

①意外とシリアス、不穏なムード

伊勢湾に浮かぶ離島・猪狩島で、泉圭太(藤原竜也)は妻・加奈(黒木華)と娘と共に、島の名産品にするべくイチジクを育てていました。島の人々は、圭太のイチジクを島を救う救世主と考えていました。ある日、殺人で服役していた小御坂陸雄(渡辺大和)が島へ入り込み、圭太は親友の純(松山ケンイチ)、島の駐在の真一郎(神木隆之介)と共に、小御坂を殺してしまいます。島の将来を守るため、圭太たちは死体を隠すことを決めます…。

 

漫画が原作のサスペンス。原作漫画は未読です。

アクシデントから人を殺してしまうけど、隠蔽しようとしてかえってトラブルが拡大して、どんどん窮地に追い込まれていく。死体を巡って右往左往。ヒッチコックやコーエン兄弟を思わせるプロットですね。

島に暮らす3人の若者たちの関係と、島ならではの排他性や親密すぎる人間関係を絡めて、なかなか気の悪い(褒め言葉)サスペンスになっていたと思います。

 

もっとドタバタのコメディ風味なのかな…と思ったら意外とシリアス。終始シリアスなムードでした。

不穏なムードを掻き立てる、「あまちゃん」の大友良英の音楽が良かった。

平穏な日常が壊れていく怖さが、十分に表現されていたと思います。

②若者たちを閉じ込める島の呪い

圭太、純、真一郎の3人の関係性が良かったです。

過疎化&高齢化して寂れた離島で、若者であるというだけで、島の未来を背負ってしまってる。

 

圭太の屈託のない主人公感と、その裏返しの無神経さ。

の気のいいあんちゃん感と、それと共にある底知れない暗さ、不気味さ。

真一郎のいい人感、真面目さと弱さ。

それぞれが藤原竜也、松山ケンイチ、神木隆之介のキャラクターを上手く活かしていて。きれいにハマっていましたね。

 

彼らの過去の描き方も、シンプルでスムーズでした。くどくどと説明し過ぎないのがいい。

災害で親を失い、島に育てられた圭太と純、それに加奈は、まるで呪いのように島に捕らえられてしまってる。

圭太は島の未来を担う救世主とまで持ち上げられて、加奈と共に島中から愛され、ちやほやされて。

幸せそうに見えれば見えるほど、島から逃れられない怖さがじわじわと感じられてきます。

 

みんな表面上ニコニコしながら、自主的に頑張ってるはずのものが、殺人と引き換えにしても守らねばならないことが暴露されて、呪いであることがバレていく。

「過疎地を救う若者の美談」みたいなものに冷や水をぶっかけ、老人たちが子泣き爺みたいに若者におぶさってる現状を曝け出す。

現代日本の縮図…ですね。このシニカルな視点は、とても面白かったと思います。

 

③クセの強い周囲の人々

3人の若者を取り囲む大人たちに、クセの強い俳優たちが配置されて、3人を食う存在感を発揮しています。

 

町長の余貴美子は、「このハゲ〜」の議員の人のモノマネしてる?

なんか全体がシリアスな中で、町長のところだけ明らかに浮いてたんですけど。面白いけど。

 

冒頭でイノシシをはねるじいさんの柄本明も、全体のトーンからは離れた独自の存在感を放ってましたね。

そういう、浮いてる同士の町長とじいさんが、ナタとスタンガンを武器に殺し合うシーンが、めちゃ面白かったですね。

全体の物語からは、明らかに脱線なんだけど。

 

脱線と言えば、3人を追い詰める刑事の永瀬正敏も、ハードボイルドでカッコいいけど、なんか微妙にトーンが違ってる気がするんですよね…。

面白いんだけど。イチジクもらって食わないシーンとか、最高でしたね。

 

いろんなキャストがなかなか本領発揮していて、存在感もあって、面白い。

でもリアリティラインとかトーンという点では、どうも微妙に人ごとのズレがある。そこでシリアスなストーリーの中に、コメディっぽさが紛れ込んでいて、全体のストーリーを軽妙にしているように感じました。

藤原竜也のスライディング土下座とかね。真面目なんだけど、おかしい。なかなか絶妙なラインになっていて、面白い作りだったと思います。

④いろいろと無理のある展開も…

いろいろと詰めの甘い…というか、無理を感じる部分は少なくはなかったです。

そもそもの発端の殺人ですが、あまりにも故意がなくてアクシデントなので。

ちょっと隠すのが無理のある選択に思えちゃいましたね。死体ごと隠すより、「足を滑らせて頭打って死んだ」と主張する方が遥かに簡単に思えます。

 

たまたま身寄りのない男だったので、発覚が遅れたし島の人も協力してくれる展開になったけど。

彼らはあの男のことを何も知らないわけで。連れがいたかもしれないし、それこそ島の誰かの親戚とかかもしれないじゃないですか。

「誰も探しに来ないよ」って思うことこそ、何の根拠もない。普通は探しに来るからね。

発端の大事なところだけど、既にプロットの都合が先行している感はありました。

 

じいさんvs町長のバトルはこの映画でいちばん面白いところだったけど、筋としては破綻してますね。

じいさんはなんで町長を殺そうと思ったの? 町長が純たちを犠牲にしようとしたから? そんな優しい人の描写だったっけ。

島を守ることがじいさんの願いなら、むしろ町長の側についた方が得策なのでは。死体のことを町長にチクったのもじいさんだし、どうも行動が一貫しない。

 

純が町長にトドメをさしたのは、酷いことを言われたから?

ここ、圭太たちが町長の言い分を呑む必要なんて何もなくて。自首することが町長への脅迫になるわけだからね。

ここはむしろ、町長を味方につけて島ぐるみで事件を隠蔽するチャンスだよね。

町長がやけにエキセントリックな誇張された人物に描かれていたのは、この辺りの不自然をごまかすため…でしょうか。

 

終盤、純が圭太をハメるために事件を発覚させるのだけど、小御坂はともかく、町長を殺したのは明確に純であるわけで。

圭太が1人で罪を被ってくれない限り、いちばん重い罪に問われそうなのは純。それなのに自分から犯罪を発覚させにいく。

これはいくらなんでも、危ない橋すぎるんじゃないでしょうか…。

 

「死体がイチジクの下に埋まっている」ことを知ってるのは、圭太の他には純だけ。というか純がそこに埋めようと言い出した言い出しっぺ。

裏切り者が純であることは、少なくとも圭太には一目瞭然のはず。

それでもまあ、親友だったわけだし加奈をめぐるアレコレもあるし、真一郎への罪滅ぼしもあるから、一緒に罪を受け入れるよ…というなら、まだ分かるけど。

承知の上で圭太が一人で罪を被り、純に奥さんと子供を任せるというのは、なんぼなんでも無理ですね。

小御坂だけならまだしも、町長を(純が)殺したことで罪が重くなり過ぎてるから。

二人殺してることになるからね。これ普通に死刑もあるよね。

⑤ひまわりの絵日記の意味は?

…と、まあ、全体のプロットで粗は多くて、結構肝心な部分に無理があるのは否めないのですが。

それでも総じて楽しくは観れたのですよね。映画の時間の流れの中では、無理もそれほど引っかかってこなくて。

主人公たちに感情移入して観ていくことは出来たので、悪くない映画だったと思います。

 

僕は日本映画のもったいぶって大仰なところが苦手なので、そういう部分があまりなくて、クールなタッチでサクサク進むのは良かったです。洋画っぽい見せ方だったと思う。

だから、藤原竜也の「熱演」も正直苦手な部類なんですけどね。本作はそれも控えめ。

風景を写し込んだ引きの構図が多く、全体を通して島の空間の広がりを感じる撮影になってるのも、好みでした。

 

終盤、ネタを割った後も若干話が続いて、そこの部分がちょっと分かりにくいんですが。

ここは、加奈のしたたかさを描きたかったのかな…と思いました。

純が状況を利用して立ち回ったように、加奈も状況を利用して自らの望みを叶えた。

 

終盤、加奈は純には「圭太を待つ」と言い、圭太には「もう島に縛られない」と言います。

どっちやねん!と言いたくなりますが、これはつまり、加奈が圭太と純、両方との関係を断ち切ったことを意味するんじゃないか。

 

中学生の頃に「加奈を守る」と宣言し、その言葉通りにずっと加奈を守ってきた圭太。

加奈が圭太と結婚してもなお、従順に側に居続ける純。

二人の愛情はしかし、加奈にとっては彼女を島に閉じ込めて自由を奪う呪いに感じられていたのでしょう。

 

娘の「朝起きたらひまわりが咲いていたので皆で遊園地に行きました」という絵日記を、加奈が圭太に見せる。

遊園地のところの絵には、圭太と純も描かれていました。

最後の「暑かったのでアイスクリームを食べました。美味しかったです」というところの絵は、観客は見せてもらえないのですが。

たぶん、そこには圭太と純は描かれていなかったんじゃないですかね。

 

そもそも、島には遊園地なんてない。農作業に必死の圭太が家族を本土の遊園地に連れて行くとは思えない。

この絵日記は事実ではなく、願望でしょうね。島を出たいという願望

絵日記を通して、圭太はそれを思い知らされた。それがラストの涙の意味なんじゃないかと思ったのですが、どうでしょう。