クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園(2021 日本)
監督:髙橋渉
脚本:うえのきみこ
原作:臼井儀人
製作:シンエイ動画
主題歌:マカロニえんぴつ
出演:小林由美子、真柴摩利、林玉緒、一龍斎貞友、佐藤智恵、仲里依紗、フワちゃん、長田庄平、松尾駿
①今年は特に傑作!
毎年、ドラえもんと共に春の風物詩だったクレしん映画ですが、コロナによってすっかり調子が狂ってしまいました。
去年に続いて今年も延期を重ね、ようやくの公開です。
一方のドラえもんの方は、どうやら今年の公開は諦めたようです。ともかくも、クレしんは公開してくれるだけありがたい。
…というところで、緊急事態宣言。うーん…
映画館は安全なのでね。皆さん負けずに観に行って、ヒットして欲しいですね。
オリンピックできるんだから映画なんて余裕だ!
毎年いろんな趣向を凝らして、バラエティに富んだ世界を見せてくれるクレしん映画。今回は学園モノです!
幼稚園児であるしんちゃんたちが学園モノ…って、その時点でおかしいんですが。
毎回、それぞれに違った面白さのあるクレしん映画ですが、今回、特に面白かったです!
ここのところの数作では…面白くはあるんだけど。でも、何かしらマイナスに感じる部分も否めない…という感想ではあったんですよね。
前作「ラクガキングダム」は…面白かったんだけど…若干ウェットな間延び感が。
前々作「新婚旅行ハリケーン」は…面白かったんだけど…ひろしとみさえが前に出過ぎてしんちゃんが添え物みたいでした。
その前の「爆盛!カンフーボーイズ」は…面白かったんだけど…ギスギスした暗い展開が長いのと、「ジェンカで解決」はさすがにシュール過ぎて引いちゃいました。
今回、そういうマイナス要素がない!
全体のシナリオがよくできていて、破綻がなく、意外性もあり、大勢のゲストキャラクターもみんな魅力的で、そしてテンポがいい。
ダレる部分がほとんどなくて、最後まであっという間。
歴代クレしん映画の中でも、傑作の部類に入るんじゃないかと思います!
それだけに!ヒットして欲しいんですよね…。
②学園モノの面白さ
私立天下統一カスカベ学園、通称天カス学園に、体験入学することになったしんのすけたち。そこではAIによって生徒たちのエリートポイントが計られ、教室から給食まですべてが差をつけられる階級社会でした。みんなと一緒に天カス学園に入学することを目指す風間くんは、足を引っ張るしんのすけに怒って寮を飛び出してしまいます。謎の吸ケツ鬼に襲われた風間くんはおバカになってしまい、しんのすけたちはカスカベ探偵倶楽部を結成。事件の真相に迫ります…。
前半は、学園モノの面白さ。
クレヨンしんちゃんは基本が幼稚園児なんでね。学園モノになることはこれまでなかったわけです。当たり前だけど。
なので、学園モノの「あるある」を思う存分、惜しげなくぶっ込んであります。
熱血の生徒会長。
傲慢な学園長。
エリートクラスと落ちこぼれクラス。
不良たちと番長。
焼きそばパンの争奪戦。
噂される学校の怪談。
寮生活の楽しさである、枕投げ。
そして、次々に登場する新しいキャラクターたち。これがみんな魅力的なんですね。
元気、エリート、ギャル、番長…など、学園モノあるある的な分かりやすいキャラクターなんだけど、それだけでもなくて。
みんなそれぞれ、意外性や内面を持っていて、すぐに好きになっていくんですよね。
そして、いい感じにしんのすけたちと関わっていきます。
今回特徴的なのは、悪役がいないこと。いつものような、皆の怒りと憎しみを集めるような、根っからの悪人がいない。
天カス学園も、エリートシステムで抑圧的な…と思いきや、割と話の分かる感じで、自由度は悪くないんですよね。ここでの学園生活も結構、楽しそうなのです。
悪人へのストレスが溜まらない作りで、観ていて純粋に楽しい映画になっています。
③本格的なミステリー
中盤はミステリー。これまた定番の、学園ミステリーになります。
風間くんのお尻に噛み付いておバカにした吸ケツ鬼の正体を巡って、謎解きの展開になっていきます。
手がかりは、風間くんが書き残したダイイングメッセージ(死んでないけど)。
容疑者は、前半に出揃った生徒や教師など、学園内の関係者全員。
結構本格的なミステリーが展開されるんですね。誰が犯人なのかはなかなか読めない。
明確な悪役がいない設定が、ここでのミステリーを上手く機能させてます。ちゃんと、全員が犯人であり得るように見えてくる。
ミスリードもあるし、手がかりも事前に明示されていて、謎解きもきちんとフェアです。
最後には関係者全員が集まった場所で謎解き、と古典的ミステリーの定石もバッチリ踏まえています。
捜査の過程で、しんのすけ以外のメンバーにもスポットが当たっていくのもいいですね。
というか、マサオくんいじりが激しい。今回もギャグパートを一身に担ってくれてます。
ボーちゃんもイイですね! 学園モノの定番の一つである恋愛を担当するのが意外にボーちゃん!という。
④風間くんの物語
最後は、ドラマは風間くんとしんのすけに集約されていきます。
これも、非常にスムーズでした。今回は序盤から一貫して、風間くんの話だったと言えるので。
中盤に「おバカになる」ことで一旦風間くんを退場させて、他のキャラの活躍の場を作った上で、最後にまた風間くんに戻ってくる。この作劇も、巧みでした。
今回は風間くんが主役と言っていい話。
そして、テーマになるのは幼稚園を卒園して、小学校に行く近い未来のこと。
風間くんは私立受験を考えてるから、しんのすけたちとは離れ離れになっちゃうんですよね。
(現実でも、幼稚園や保育園って小学校の校区と違うことが多いので、仲良くなった友達とも小学校ではお別れ…ということも結構多いのですが)
いつもしんのすけたちを馬鹿にしている風間くんだけど、実は人一倍みんなと離れたくないと思っていて、それが天カス学園体験入学の動機にもなっています。
そんな風間くんのツンデレがかわいくて、本作の見どころになってますね。
「クレヨンしんちゃん」は時間の経過しない世界、永遠の5歳児の世界なので、進学問題はこれまで触れないお約束だったわけですが。
でも、しんちゃんたちは5歳だから、小学校はすぐ目の前ですからね、本来は。幼稚園モノあるあるとも言えるのです。
今回、学園モノにすることで、そこに踏み込んで、なかなか切実なドラマを描いていますね。
⑤ラストが最高!
クライマックスはしんのすけたちと風間くんが「走る」という…。
「戦う」のではなく、「走る」。これも、映画クレヨンしんちゃんではお馴染みの伝統的クライマックスと言えますね。
今回、良かったのはラスト! ラストの切れ味が最高でした。
余韻をダラダラ引っ張らずに、いいところでスパッ!と終わる。とても気持ちいいのです。
それと、しんのすけvs風間くんの結末もね。
クレしん映画では、初めてじゃないか!という結末ですが。
でも本当に、素晴らしい結末の付け方だなあ…と思ったのです。ここはぜひ、映画館で確認してみてください!