The Gentlemen(2020 イギリス、アメリカ)

監督/脚本:ガイ・リッチー

原案:ガイ・リッチー、アイヴァン・アトキンソン、マーン・デイヴィーズ

製作:ガイ・リッチー、アイヴァン・アトキンソン、ビル・ブロック

撮影:アラン・スチュワート

編集:ジェームズ・ハーバート

音楽:クリストファー・ベンステッド

出演:マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ドッカリー、エディ・マーサン、ジェレミー・ストロング、コリン・ファレル、ヒュー・グラント

①本領発揮のアウトレイジ映画

ミッキー・ピアソン(マシュー・マコノヒー)は麻薬王。莫大な富を築いた大麻の農場をアメリカ人富豪のマシュー(ジェレミー・ストロング)に売り払い、隠居しようとしていました。ある夜、若者たちがミッキーの秘密の農場に侵入、大麻を奪っていきます。若者たちにボクシングを教えるコーチ(コリン・ファレル)は、若者たちが麻薬王に手を出したと知って慌て、ミッキーの部下レイモンド(チャーリー・ハナム)に接触します。レイモンドは探偵フレッチャー(ヒュー・グラント)の訪問を受け、ミッキーのスキャンダルをネタに強請られていました…。

 

これも面白かった!

ガイ・リッチー監督、前作は「アラジン」なんですよね。それはそれで、ある意味面白かったけど。

やっぱり本領は、こっちでしょうね。

自身の脚本で描く、ゲスで陽気な犯罪アクション

「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」「スナッチ」の路線。

ダニー・ボイルやマシュー・ヴォーンらと連なる、スタイリッシュで同時に下品な、カッコいいイギリス映画の系譜。

 

今回は大麻マフィアの莫大な財産をめぐる駆け引き、騙し合い。「全員、悪人」のアウトレイジ映画です。

誰もが平然と人を殺すし、怒らせたら残酷な報復が待ってる怖いヤクザばっかりなんだけど、映画の中では魅力的で。

ただ悪辣なだけじゃなく、仁義があり、美学があるからカッコいいわけです。

「ヘロインは人を殺すから認めない、だから俺は大麻しかやらない」とか、現実的に見ればまあ、五十歩百歩ではあるんだけど。

信念を持って、矜持を持って生きる男たちはジェントルメンであるわけです。だから、しっかり感情移入して見れちゃうんですね。

 

②やや複雑な序盤から、後半へ向けて加速

本作はやや複雑な入れ子構造になっています。

冒頭でミッキーがパブで狙撃され…たのか?というシーンを見せていて、以降のシーンはそこへ向かって展開していきます。

また、映画の中の多くのシーンはフレッチャーがレイモンドに語る「ミッキーをめぐって起きたことについて、フレッチャーが調べて知ったこと」ということになっていて、それはフレッチャーが書いた映画のシナリオでもあります。

だから、フレッチャーの想像や脚色が入っている…ものでもあるんですね。

 

また、チャイニーズ・マフィアのドライ・アイ、パーティーで無視されたビッグ・デイヴ、ミッキーの妻のロザリンドも何か含みがあるふうだったりして、いろんなラインの人々の行動が怪しげなミスリードを込めて描かれていきます。

なので、結構前半はストーリーの流れを掴みづらいです。今何の話だっけ?…というのが把握しにくくて、若干集中力が必要。

 

ただ、ほとんどの要素はまさにミスリードなんですよね。

フタを開けてみるとそれほど複雑な話ではなくて、かなりシンプルなわかりやすい話だったりする。

なので、話が見えてくる中盤あたりから俄然面白くなってきます。

最初がいちばん停滞していて、終盤に向けてどんどん加速していく感がある。だから、とても後味のいい、気持ちのいい気分で映画館を出られる映画になってますね。

(それこそ、「肩をいからせて」映画館を出る、ってやつですね)

③キャラ立ち抜群のワルたちの魅力

中盤あたりからはそれぞれのキャラクターも立ってきて、ある種のキャラ映画として楽しめる映画になっていきます。

このテイストは、それこそ「仁義なき戦い」「アウトレイジ」ですね。

スター演じる多くのアウトローたちが騙し合い、殺し合いをして、それぞれのキャラの顛末を順に見せていく。

威張っていた敵キャラのたどる、工夫を凝らした残酷な運命のあれこれ。

「ヒドイ目」のバリエーションの面白さで見せるところ、まさしく「アウトレイジ」っぽいです。

 

マシュー・マコノヒー演じるミッキー・ピアソンは、堂々たる存在感。ほとんどチートと言っていいような、最強のポジションに立っています。

ヒーロー映画なら、スーパーヒーローの役回りですね。それも最強でほとんどピンチにならないスーパーマン。

それだけに、劇中何度か訪れるミッキーのピンチが緊張感をもたらします。

 

一見ソフトで、コワモテには見えない。大声出したりしないしね。

でも、愛妻家で、奥さん(ミシェル・ドッカリー)に手を出されると、キレて容赦なく怖くなる。この辺りのキャラ設定は、コミックぽいですね。

 

ミッキーの右腕レイモンド(チャーリー・ハナム)は、本作では副主人公のポジションですね。常にミッキーに忠誠を誓って、冷徹に任務を遂行する。

怖いキャラなんだけど、人間臭いんですよね。常にくたびれたようなうんざり顔で、時には下町を必死で走り回り、生意気な若者たちを追いかけて、ぜいぜい言いながら必死で頑張る。

 

そしていい味出してるのがコーチ(コリン・ファレル)

彼はカタギなんだけど、なんか実はいちばん強いんじゃないかと思わせる実力を秘めていて、若いギャングたちにも完全に信用されている。

コーチの過去とかまったく描かれないんだけど、いろいろ想像させますね。昔はワルで、いろいろ修羅場をくぐってきて度胸もあって、でもヤクザにはならなくてあくまでもカタギで。

悪いことはイヤだと言いながら、やることは結構いちばんエグい。面白いです。

 

そして、”ゲスな探偵”フレッチャー(ヒュー・グラント)

いつもの役柄とは全然違うゲスなキャラで、これも意外性に満ちていました。

④音楽も気持ちいいエンタメ映画

エンディング、絶妙なタイミングで流れ出すのはザ・ジャムの「ザッツ・エンターテインメント」

ポール・ウェラーのパンクバンドの、1980年の楽曲。タイトルからして本作を象徴するようなイイ選曲ですね。

 

ザ・ジャムに続いて、劇中のトドラーズの麻薬農場襲撃シーンで流れていたラップが流れますが、これはマンチェスター出身のラッパー、バグジー・マローン(トドラーズの一員として出演もしてます)による楽曲です。これもカッコいい。

 

終わってから振り返ってみると、テーマとか教訓とかいうものはほとんどなくて、ただひたすらケレン味ある駆け引きを楽しむ娯楽映画。

まさにザッツ・エンターテインメント!というべき、エンタメに徹した映画になっていました。コロナでうんざりした昨今にちょうどいい映画じゃないでしょうか。

 

 

 

 

ガイ・リッチー監督のデビュー作。

 

ガイ・リッチー監督のらしくない前作。でも最大ヒットだったりするという…

 

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