Remember(2015 カナダ、ドイツ)
監督:アトム・エゴヤン
脚本:ベンジャミン・オーガスト
製作:ロバート・ラントス、アリ・ラントス
撮影:ポール・サロシー
編集:クリストファー・ドナルドソン
音楽:マイケル・ダナ
出演:クリストファー・プラマー、ブルーノ・ガンツ、ユルゲン・プロホノフ、ハインツ・リーフェン、ヘンリー・ツェニー、ディーン・ノリス、マーティン・ランドー
①おじいちゃんが主人公の異色サスペンス
「スウィートヒアアフター」のアダム・エゴヤン監督作品。日本公開は2016年。
ニューヨークの介護施設で暮らすゼヴ(クリストファー・プラマー)は90歳。認知症が進行し、最愛の妻の死さえも忘れる日々を送っています。
ある日、ゼヴは友人のマックス(マーティン・ランドー)から手紙を託されます。かつてアウシュヴィッツで彼らの家族を殺したナチス将校が名前を変えて暮らしていること、その容疑者が4人に絞られたことを知ったゼヴは、体が不自由なマックスの代わりに復讐を果たすため、4人の容疑者を訪ねる旅に出ます。
ホロコーストの生き残りが、身を隠しているナチスを追い詰めて復讐する…というプロットは珍しいものではないですが。
本作のユニークなのは、その主体が90歳のおじいちゃんである、というところですね。
何しろ90歳だから、普通に旅するだけでも「大丈夫か?」ってなります。自力で駅まで歩いて行って切符を買って列車に乗るだけでも、一苦労。
更に認知症ですからね。すぐに目的を忘れてしまうし、迷子にもなってしまう。だから「自分は忘れても手紙は憶えている」手紙が頼り。
復讐以前に、主人公がおじいちゃんであることで、普通の映画にはないハラハラドキドキが生じてくるんですね。
90歳で認知症のゼヴは「最弱の主人公」と言えるけど、そのメリットもちゃんとあって。
ヨボヨボのおじいちゃんだから、周りの人は基本的に親切。何かと手を差し伸べ、助けてくれることになります。
また、復讐の容疑者に近づいていくにあたっても、相手が油断してくれる。まさか90歳のおじいちゃんが復讐者だとは思いませんからね。
だから、上手い具合にバランスが取れていて、独特なサスペンス状況が成立しています。
そして、認知症であるということは、ゼヴは「信頼できない語り手」でもあって。
それが、物語全体をひっくり返す大きなどんでん返しにもつながっていくんですね。
②そしてダークなどんでん返し
本作は実はミステリ。最後の最後にどんでん返しのある、ネタバレ厳禁ミステリです。
主人公がおじいちゃんであること、彼に感情移入させて、人情もののように描いてきたこと、それらすべてがミスリードとなって、見えている世界がひっくり返る。
どこかほのぼのしたところもあった「おじいちゃんの世界」が反転して、想像以上のダークな結末に突き落とされることになります。
反転は最後に来るんだけど、途中にもしっかりと段階はあって。
「4人の復讐候補者」を訪ねて回るうちに、ゼヴは非常にハードな状況に立たされてしまうことになります。
まあ、最初から復讐って言ってるんだから、復讐というのは相手を殺すということだから、ハードなのはわかってたことではあるんですけどね。
でも、上記のようにおじいちゃんの一生懸命な旅を追いかけてきているから。急にハードな状況を突きつけられると、ついつい意外に感じてしまう。
当たり前と思っていた世界が、ふとしたきっかけで全然別のものに変わってしまう。寄って立つ世界の頼りなさに、突然直面させられることになるんですね。
それがうまく、終盤の転換への助走になっている。
終わってみれば、後味の近い映画は「セブン」でしょうか。
あの映画に似た、パズルのピースがハマる爽快さと、非情な結末のやり切れなさが、同時に胸に刻まれる。なんとも言えない複雑な感情にさせられます。
「セブン」の「あの感じ」が好きな人は、ハマる映画になるんじゃないかな。
結構前の映画なので、あちこちネタバレもあふれているので。未見の方は、ぜひネタバレ食らう前に観ましょう。
驚きとともに、深く考えさせてくれる映画になると思います。