Birds of Prey (and the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn)(2020 アメリカ)

監督:キャシー・ヤン

脚本:クリスティーナ・ホドソン

原作:チャック・ディクソン、ゲイリー・フランク

製作:マーゴット・ロビー、ブライアン・アンケレス、スー・クロール

製作総指揮:デヴィッド・エアー、ウォルター・ハマダ、ジェフ・ジョンズ、ハンス・リッター、ゲイレン・ヴェイスマン

撮影:マシュー・リバティーク

編集:ジェイ・キャシディ、エヴァン・シフ

音楽:ダニエル・ペンバートン

出演:マーゴット・ロビー、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジャーニー・スモレット=ベル、ロージー・ペレス、クリス・メッシーナ、エラ・ジェイ・バスコ、アリ・ウォン、ユアン・マクレガー

 

①「スーサイド・スクワッド」の観る前の期待値通りの映画!

観る前の期待値は、決して高くはなかったんですよ。うーん…とあんまり信用してない感じだったんだけど、コロナのせいで封切りが極端に少なくなっちゃって、じゃあコレでも観るか…って雰囲気で。

いや〜いい意味で、予想を裏切ってくれました。とても面白かったです! ナメてて失礼しました。

 

期待値が低かったのは、「スーサイド・スクワッド」個人的に期待外れだったから。予告編とか、観る前に高まってた期待とまるっきり違う映画だった。

残虐非道な悪役たちが集まって、ヒーローには倫理的にできないようなぶっ飛んだアクションで、ポップでアナーキーな“ヴィラン映画”を見せてくれると期待したんですが。

なんかね。全然悪くない…全然ポップでもない…ボンクラたちが演歌みたいなウェットなムードで、世界を救うため魔物と戦う、中途半端なゴーストバスターズみたいな映画だったのでした。

 

またそんなんだったらガッカリだなあ…と思ってたんですが。違いました!

明るくテンポの良い、スピーディーな展開

ハーレイ・クインがちゃんと悪くて、イカれてる。ヒーローではなく、ヴィランとしての描写。

つまり、ポップでアナーキーなヴィラン映画前に期待した通りの映画、だったのでした!

②ふさわしいプロットで描かれる女たちの”覚醒”

ジョーカーと別れたハーレイ・クインは傷心を乗り越え、自立して生きることを決意します。しかし、後ろ盾を失ったハーレイは恨みを買っていた悪党たちに次々と命を狙われることになります。そんな中、マフィアの隠し財産のキーとなるダイヤをスリとった少女カサンドラを巡って、ゴッサムシティを牛耳るブラックマスクことローマン・シオニス、彼に雇われる歌姫ブラックキャナリーことダイナ、マフィアの娘で家族の復讐を誓うハントレス、市警のレニー・モントーヤ刑事、そしてハーレイが争奪戦を繰り広げていきます…。

 

まずは、このプロットが良かったですね。シンプルな、マクガフィンの奪い合い。

やっぱりスーパーヒーローじゃなくてヴィランだから。自分を犠牲にして世界を救うなんて目的は似合わない。

ルパン三世的な、お宝の争奪戦の方が似つかわしいですね。

 

同じものを追いながら、悪党とハーレイたちとで、その意味が違ってくるのもポイントで。

ローマンがダイヤと、その先にある財産を狙っているのに対して、ハーレイや女たちはやがて、カサンドラを助けることが目的になっていく。ダイヤとか財産とかは、本当にどうでもいいもの、文字通りのマクガフィンになっていくんですね。

 

そして味方と敵が、女と男でパキッと分かれていく。正義と悪じゃなくてね。女性と男性。

ジョーカーに捨てられ、男に依存して生きることから覚醒するハーレイ

ローマンに生活を握られているダイナ

上司である男の警官に手柄を盗まれたレニー

男たちに家族を皆殺しにされたハントレス

そんな、それぞれの形で男の抑圧を受ける女たちが、もっとも暴力的で抑圧的な男であるローマンに挑んでいく。

 

そういう意味でこれは明確に、女性の自立と逆襲を描く、現代のポリコレに則った映画になってます。

でも、決して説教臭くはない。あくまでもエンタメに徹して、スカッと胸の空く展開になっています。

ローマンの邪悪さがしっかり描かれているのがいいですね。皮剥ぎ魔と呼ばれる極悪人なんだけどそれだけでもなく、女の客をねちこく虐めるクソ野郎。

そこがやっぱり、本作が正義と悪の構図じゃないところなんですね。悪事をするからではなくて、女を虐めるクソ野郎だからこそ、ローマンが宿敵なわけです。

 

ローマンの側近のザーズがまた、いい味出してます。

これまた残酷なサディストなんだけど、たぶんこいつはローマンのことを愛していて。

嫉妬心があるから、女にこそ厳しいんですね。このキャラも、ユニークな女対男の構図に貢献しています。

 

興味深いのは、強い女性たちを描きつつ、様々な依存関係を描いていくこと。

ジョーカーの情婦として、彼に生死までも委ねてしまっていたハーレイや、ローマンに恩義を感じて彼が悪と分かっていても離れられないダイナ。

愛情だったり、仁義だったり、それ自体は決して否定される感情じゃないんですよね。でもその対象がイカれていると、それは歪んだ依存関係になってしまう。

そんなしがらみから、女たちが「華麗なる覚醒」をしていく。そういう映画なわけです。

③キャラクターの魅力と、それを活かすアメコミらしさ

そして何よりも、キャラクターの魅力

マーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインは、微妙だった「スーサイド・スクワッド」でも一人突出して魅力的でしたからね。だからこそ単独映画になったわけだけど。

 

マーゴット・ロビーはもう、確実に信用できる女優になってます。

「アイ,トーニャ」から「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」「スキャンダル」と、見るたびに素晴らしい存在感を見せてます。

評価されやすい作品が続く中、あえて自らプロデュースも買って出て、好評とは言えなかった「スーサイド・スクワッド」の落とし前をつけてくれる…なんていい奴なんだ!

 

実際、ハーレイ・クインって、かなり難しい役だと思うのです。

アメコミの中でも、かなりマンガっぽいキャラですからね。下手にやると、ただただ現実離れした、幼稚なコスプレになってしまう。

そこを絶妙なバランスで、ギリギリのところで成立させてる。エキセントリックだけどうるさ過ぎず、暴力的だけどキュートでもあって、おバカだけど感情移入させる。

このキャラを成立させられるのは、世界でもマーゴット・ロビーか深田恭子かくらいなんじゃないか…とか。

 

もちろん、全体の演出のポップさが、ハーレイのキャラを上手く浮かないようにしてる…というのも大きいです。

ハーレイの一人称で、ガンガン“第4の壁”を超えてくる、リアリティを度外視した語り口。

「デッドプール」的な…ではあるんだけど、今回それ以上に、「アメコミらしさ」を強く感じました。

キャラクターに饒舌に喋らせつつ、グラフィカルに描いていくこの感じ。

また、何度も時制を行ったり来たりさせて、あえて錯綜した構成になっているのも、アメコミ読んでる時の感覚に近いな…と感じました。

何て言うんですかね。ただ分かりやすいだけよりも、絵的な美学を優先する作りと言うか。

ハーレイというキャラの何かと過剰なイメージが、アメコミらしさを再現した演出で上手く世界観に馴染んでいる。だから、とても観やすく感じたのです。

④ちゃんと悪くてイカれてるフリーク!

それから、「ちゃんと悪い」のが良かったです

ヴィランだと言っても、主人公に配置されちゃうと、多くの人々の親しみを得やすくなるように、急にずいぶん丸いキャラクターにされちゃったりします。

親しみが持てるのはいいんだけど、そうなると結局普通のヒーローと見分けがつかない。

ただ、世間に支持されないだけの不遇なヒーロー…みたいに見えちゃったりするんですよね。「ヴェノム」とか。

 

ハーレイ・クインは主役になったからって、急にいい子になったりしない。ちゃんと悪いし、やることメチャクチャです。

男の両足に飛び乗って足を折るとかね。ハイエナに食わせるとか。やることエグい。

でも陰惨じゃないし、相手がゲス野郎であることは確かだし、とにかく明るくあっけらかんとしてるので憎めない。ただただ、爽快です。

今回、ジョーカーという後ろ盾を失って、復讐されたり狙われるリスクも自分でがっつり受け止めるキャラになったので、はちゃめちゃやっても好感度は下がらないんですよね。むしろカッコいい。

 

ハーレイはでも、同時に結構弱みを見せるキャラでもあって。

冷静に考えて悪を行うタイプじゃない。ただ、感情の赴くままに動いているだけだから。

感情の振れ幅が大きいし、すぐ落ち込んだり、折れたりもする。

考えの足りない行動を取ってしまったりして、すぐに後悔したりする。

その辺の人間臭さも魅力だと思います。

 

ハーレイ・クインって、ジョーカーと同じフリークでもあるんですよね。ジョーカーに魅了され、狂気に堕ちた精神科医。ジョーカーと同じく、工場の廃液に落ちて肌は脱色され、ピエロのメイクのようになっている。

健常な社会から疎外されるフリークとして、ある種の影を背負ったキャラクターでもある。

本作では、あくまでもエンタメに徹してそんな「影」の部分は最小限ではあるけれど、それでも、わずかながらでも感じさせるところはあって、それがうまい具合にスパイスになってます。

マンガ的なキャラクターにちょっとした奥行きをもたらしていて、そしてますますハーレイを好きにさせるようになっている。マーゴット・ロビーの塩梅も見事だし、演出も確かだと思います。

⑤熱い仲間たちと、反省しない気持ち良さ!

そして、ハーレイ・クインを取り巻く仲間たち。

みんな個性的で、魅力的。結構キャラが厚いんですよね。ステレオタイプなキャラがいなくてそれぞれに楽しい。

 

全体の中では真っ当な考え方をする立ち位置で、観客とハーレイの橋渡しをするようなダイナ/ブラックキャナリー。アクションも正統派で、ブラックスプロイテーション映画的な魅力があります。

それだけに、声で相手を倒す超能力?は別になくても良かった気がしますが。

 

復讐の鬼ハントレス「キル・ビル」的なケレン味を担当していて、出てくる時のBGMも「キル・ビル」風なんだけど、名乗りの練習する面白キャラでもあります。

かなり悲壮な過去を持っているんだけど、本作の中ではコメディリリーフ的なキャラ。これも、必要以上に映画を重くしない、上手いバランスです。

 

モントーヤ刑事は女たちの中では一人だけ年上で、あえて若い美女だけで固めない意思を感じますね。

本人が何ども言ってるような、80年代刑事ドラマ的な泥臭い魅力。

 

とても良かったのは、カサンドラ・ケイン息をするようにスリや万引きをする、天性の万引き少女。

彼女も孤児で、里親が最悪で、いろいろ不幸な身の上なんだけど、全然ウェットなところがない。終始カラッと乾いていて、前向きに楽しく生きている。

全体にわたって、この湿り気のなさが貫かれているのが、本作のいいところだと思います。かと言って、辛さが無視されているわけではなくてね。ちゃんと描かれているんだけど、みんなめげない。メソメソしない。常に前を向いて、自力で力強く進んでいく。

 

そうはいってもカサンドラは子供だから、保護者が必要…ってなるんだけど、それがハーレイですからね。

ハーレイとカサンドラが、一緒にスーパーのレジを突破するシーンが爽快です。倫理性ゼロ、なんだけど、迷いがなくて気持ちがいい。

本作は最後まで迷いがなくて。最後までハーレイは変わらないし、カサンドラも変わらない。誰も反省しない、万引き家族のまま。コンプライアンスだ何だとウルサイこの頃では珍しく、突き抜けた気持ち良さで最後まで突っ走ってくれます。

 

コロナで何かと気が滅入るこの頃…ですよね。新作映画も次々公開延期されてしまって、映画館も寂しい限りです。

そんな中で、公開時期をズラさずに公開してくれた本作はエラい! ヒットして欲しい!……と言って、むやみに混んじゃっても困るわけですが。

難しいこと考えず、滅入る気分を吹き飛ばしてくれる、爽快な映画だと思います。映画館に行かれる際は、席の間隔は十分空けてどうぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーレイ・クイン登場作。

 

 

 

マーゴット・ロビーがトーニャ・ハーディング。これはオススメ!