The Meg(2018 アメリカ、中国)

監督:ジョン・タートルトーブ

脚本:ディーン・ジョーガリス、ジョン・ホーバー、エリック・ホーバー

原作:スティーヴ・アルトン『Meg: A Novel of Deep Terror』

製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、コリン・ウィルソン、ベル・エイブリー

音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ

撮影:トム・スターン

編集:スティーヴン・ケンパー

出演:ジェイソン・ステイサム、リー・ビンビン、レイン・ウィルソン、ルビー・ローズ、ウィンストン・チャオ、クリフ・カーティス

 

①サメと人との直接対決

すごい好みのサメ映画でした!

サメ映画もいろいろあって。元祖のジョーズは別格として、そこそこ面白い作品もあるんだけど、最近では出オチのような悪ふざけ低予算映画も大量に作られていて。

大量のクズの中から、まともな映画に時たま出会えたらラッキー…という状況だったりするんですけど。

 

本作はまともでした。シナリオが練られていて、若干甘いところはあれど、ふざけたところはないです。

サメ映画の定石、怪獣映画の定石、動物パニック映画の定石を踏まえて、次々と展開していくテンポのいい物語を作っています。

 

もっとも良かったのは、人とサメとが真っ向から直接ぶつかり合う、ダイレクトな対決を描いている点。

CGのサメと人間が別フレームにいて、間接的に戦ってるように見せるんじゃなくてね。

本当にサメと一緒に海に飛び込んで、サメの体にモリを突き立て、血を流させて、体を張って戦う。その辺りは本当、ジェイソン・ステイサムが生きていて。

 

これまで意外とありそうでなかった、サメと人との直接対決映画。

とても見応えのあるサメ映画でした。

 

 

②メガロドン出現という基本部分の説得力

もちろんね、大味なところも多々あるんですよ。

設定がゆるいところはいくつもあって、それは目につく。

でも、あんまりそういうところをあげつらうより、大きな基本設定の部分に説得力があったので、総じて良かった印象になっています。

 

大きな…というのは、大昔に滅んだはずの古代生物メガロドンが、現代の海に生き残っていた! そして襲いかかってくる!というところ。

クジラよりでかいサメ体長20メートル以上でしかも肉食の生き物が現代の海に生き残っていて、それが突如人間の脅威になる…って、初期設定として相当難しいじゃないですか。

そんなでかい奴がこれまで誰にも見つからずに生きていたというのも、それだけ見つからなかったものが急に人間を襲い出すというのも無理がある。

 

でも本作では、フィリピン海溝の底に温度の違う海水層があって、隔絶された温水の世界が深海底に存在した…という設定になっています。

そこは温かな水があるんだけど、層より上は冷たい深海なので、その中の生物は外には出て行けず、独自の生態系となっている。

外からは見つからず、中からは出て行けないロストワールドなんだけど、でも温度の違いで隔てられているだけだから、人間の潜水艦は出入りすることができる

そして潜水艦の緊急浮上によって温水の通り道が一時的に出来て、そこを通ってメガロドンがやって来た。そういう設定なんですね。

 

これ、なかなか上手いなあと思って。よく地底の世界とかに設定されるロストワールドを深海底に置くことで、隔絶されているけど場合によっては行き来できる、都合のいい未知の世界になっています。

温水の通り道は一時的なものなので、メガロドンが深海に帰ることもできない。浅い海で暴れることにも不自然なく繋がっていくんですね。

 

この辺の設定、上手く導入の探検シーンとそこからの遭難、救出シーンを通して映像で示されていくので、とてもわかりやすいです。

語り方、見せ方も上手だと感じました。

 

…と言いつつ、雑なところも多々あって。

深海底で光はないはずだけど、メガロドンが普通の視覚を持ってて光に寄ってくるのはどうなのかな?とか。

そう言えば、メガロドンが温水層から出られないなら、冒頭で原子力潜水艦が襲われてたのはどういうこと?とか。

 

一人乗りの軽量っぽい潜水艦で、深海用の潜水艦と同じ深さまで潜れちゃっていいの?とか。

メガロドンが潜れる海水浴場、どんだけ深いねん!とか。

 

原作があるので、そこにある部分は詰められてるけど、ない部分の設定は雑になってる…ということなのかな。

その辺のアバウトな部分が、もうちょい丁寧だったらな…とは思いました。

 

メガロドンが潜れる海水浴場

③豪快な肉弾戦の面白さ

ともかく、楽しかったのは、ジンベエザメより大きい人食いザメを相手にしながら、ジェイソン・ステイサム演じるジョナスが体を張って戦いを挑むところ。

サメの背びれが見えてる海に平気で飛び込んでいって、泳いで近づいて毒薬を撃ち込む、とかね。無茶な行動が続出します。

彼だけじゃない。ヒロインのスーインも、自ら檻に入ってサメと同じ海に入る。お父さんがボスで、少なくとも彼女がそれをやらなくてもいいだろうと思えるんですけどね。率先して危険に飛び込んでいく。

 

そういうところ、リアリティがないという見方もできて、まあ実際その通りとは思うんですが。

でも、観てて気持ちがいいんですよね。怯えてビビって逃げ回るだけより、恐れず体を張って立ち向かっていく姿を見る方が、ずっと気持ちがいい。

 

この辺りのテイストでふと思い出すのが、元祖サメ映画の「ジョーズ」です。

「ジョーズ」も、海に出た男3人が体を張ってサメに立ち向かい、戦う映画なんですよね。前半の守勢から中盤で海に出て反撃に転じ、恐れながらも逃げずに立ち向かって、最後は文字通り肉弾戦で勝負する。

そこが「ジョーズ」の燃えるところで。それを継承しているように感じたのです。

 

サメ映画のバトルの面白さって、相手は海の中、人間は海の上にいて、基本的には同じ土俵に立てないところ。

こっちは海の上が圧倒的有利、向こうは海の中が圧倒的有利で、互いに相手の領域に入っちゃったら圧倒的不利。

そのせめぎ合いが、スリルになっていくわけです。

 

本作ではそこで、あえて人の方からどんどんサメに近づいていく豪快な面白さで貫かれていました。

その上で、最後のトドメを刺すのは人間でなく多数の(小さな)サメたち、というのも良かったですね。

④米中合作は懐かしい香り

本作の舞台は中国の海洋研究ステーション。キャストの多くは中国人で、ジェイソン・ステイサムの相手役となるヒロインも中国女優のリー・ビンビンです。

メガロドンが襲撃する海水浴場も中国のリゾート地で、逃げまどう人々もみんな中国人。

主題歌は中国語ポップスです。

最近多い中国資本の入ったハリウッド映画ですが、その中でも中国市場向けの作りが露骨な映画ではあります。

 

そこで色眼鏡で見たり、アレルギー反応を示す人ももしかしたらいるかもですが。

それはもったいないと思いますよ。ヒロインきれいだし、彼女の娘の女の子もかわいいし。

香港映画っぽい大味さは否めないけれど、決して雑な作りではないです。

きちんと正統なハリウッドの流儀で作られた、良質な娯楽映画に仕上がっています。

 

アジアを舞台とした、アメリカ人ヒーローとアジア人ヒロインの物語という点では、どこか懐かしいムードもあって。

昔の東宝特撮映画の、日本を舞台にしながらメインキャストにアメリカ人の入ってる、あの雰囲気を思い出すところもありました。

そういう意味での、怪獣映画の香りもあるんですね。そこはかとなく…ではありますが。

 

潜水艦が未確認生物に襲われる導入も、モロ怪獣映画ぽいですね。

⑤グロ要素は皆無

この映画、グロ要素は皆無です。

サメ映画に求めるものは血しぶきだ! 手足ちぎれ飛び内臓垂れ流す血みどろショックシーンだ!っていう人は、たぶん期待はずれだと思います。

 

これはたぶん、中国のレーティングに合わせたのかな。

イモの子を洗う海水浴場にメガロドンがやって来て、まさに入れ食い状態になるんですが、それでも手足一つ、血しぶきの一滴も飛ばない。

これはまさにファミリー向けサメ映画。小さなお子さんも安心して観られるサメ映画です。

 

でも、僕はそれで全然良かったです。

もはや好みの問題ですが、どうだ悪趣味だろう!と言わんばかりのこれ見よがしのグロシーンは、僕はあんまり好きじゃないんですよ。

「ジョーズ」だって別に残酷シーンが売りの映画じゃなかったわけで。海中からやって来るものに食われる恐怖は、別に血を見せなくたって伝わるはず。

巨大生物の恐怖や戦いのダイナミズムがあれば、残酷な人体損壊シーンは別になくていい、というのが僕の感覚なので。まったく不満は感じませんでした。

 

なのでね。いろいろな面で、好みの分かれる要素があるので。

人によって、面白いかつまらないか、大きく分かれる映画かもしれないですね。

それぞれの人が求めるものによって、感想は違って来ると思います。

とりあえず、僕はとても好みの映画でした!

 

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