2017年前半に観た映画の中で、印象的だったSF映画3本について書きたいと思います。
3月公開の「パッセンジャー」と、7月公開の「ディストピア パンドラの少女」と「ライフ」。
どれも、昔懐かしい感のある「トワイライト・ゾーン」式のSFでした。
「トワイライト・ゾーン」式…というのは、一つのSF的発想で全体プロットが構成されていて、観客に驚きを提供することを大きな狙いにしている、アイデア型のSFのことです。
「もし…だったら?」とか、「もし…が起こったら?」というような思考実験というのは、SFの基本的な楽しみの一つ。派手なスペクタクルもいいけど、派手さはあまりなくても秀逸なアイデアでびっくりさせてくれる作品に出会うと、観ていてワクワクするし嬉しくなります。
ドゥニ・ヴィルヌーヴの「メッセージ」ももちろんアイデア型のSFだったんだけど、ちょっと重厚というか。思索的なSF小説が原作なのでちょっと難解なんですよね。
それもいいけど、ここではもう少し軽い作品。万人にわかりやすいネタがある、「ミステリー・ゾーン」というか「世にも奇妙な…」式のオチやどんでん返しを狙っている作品という意味で考えています。
どの作品も基本ネタバレはしていません(物語の核心にせまる部分やオチのネタばらしはしていません)が、途中の展開などについてはある程度書いているので、ご注意ください。
①パッセンジャー
Passenger(2016 アメリカ)
監督:モルテン・ティルドゥム
脚本;ジョン・スペイツ
ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット、マイケル・シーン、ローレンス・フィッシュバーン
目的地まで120年かかる移民宇宙船で事故があり、ジム一人だけが人工冬眠から目覚めてしまう。目的地の惑星まではまだ90年。このままでは、孤独に宇宙船の中だけで生き死んでいかねばならない。しかしそこに、最初の事故をもたらしたトラブルにより、宇宙船全体が危機に陥る。もう一人目覚めたオーロラとともに、ジムは危機に立ち向かっていく…。
…というような筋立てが、予告編では紹介されていました。
実際に観てみると、映画の中で起こることはほぼ予告編で紹介された内容のみ。最近多い次々に新しい事件が起こって事態が転がっていく忙しい作品とは違って、ほぼ一つのシチュエーションのみで最初から最後まで展開します。
とてもシンプルで、スケールは決して大きくない、小さくまとまった話と言えます。
それでいて、実際に観てみると、ちゃんと驚きがある。
全体を通してほぼ予告編で観たことしか起こらないんだけど、ある重要な一点のみが、予告編では伏せられているんですね。そのただ一点だけで、映画全体に意外性がもたらされています。
なおかつ、それが映画全体の大きなテーマになっています。
物語のトーンを決めてしまうような、結構重くてシビアなテーマなんだけど、それがネタバレ的に伏せられているので、観てみて初めて「そういうテーマの映画だったのか!」というのがわかるという。
この予告編の作り方に、感心しました。まったく嘘はついていない、ほとんど観せていて、ある一点のみが隠してあるだけなのに、それだけで映画全体から受け取る印象が大きく変わることになっていて、意外性をもって楽しむことが可能になっている。
テーマはまさにSF的なIFの世界。「もしこんな状況におかれたら、あなたならどうする?」ということを問われる状況になっています。
ただ、結構倫理的に際どいテーマになっているので、観る人によっては嫌悪感を感じたり、どうしても登場人物を許せなくなってしまう…というような問題点はあると思います。
しかもそれが事前には完全に伏せられ、観ている途中で示されることになるので、人によっては受け付けない映画になる可能性もある。
そういうリスクのある映画ではありますね。
この映画、美術がとても良かった。
最新鋭の設備に満ちた、豪華な宇宙船。ただし乗客が大勢いることを想定された上のデザインなので、そこにたった二人ぽつんといる状況は異様な不気味さをもたらしています。
印象的なロボットのバーテンダーを含め、ビジュアルイメージは「シャイニング」ですね。シャイニング的な「がらんとした豪華な建物」が好きな方にもオススメです。
あくまでも美術ね。怖いとこじゃなくて。
②ディストピア パンドラの少女
The Girl With All The Gifts(2016 イギリス)
監督:コーム・マッカーシー
脚本/原作:マイク・ケアリー
せニア・ナニュア、ジェマ・アータートン、グレン・クロース、パディ・コンシダイン
こちらはホラー映画として扱われていることが多いかな。基本ゾンビ映画ではあります。
ただ、世界の終わりを描いた終末ものSFとして観ることもできるし、その点で秀逸な作品になっていると感じました。
リチャード・マシスンの「地球最後の男」(I Am Legend)やロメロの「ゾンビ」はホラーであるとともに終末SFの傑作でもあって、終末SFとホラーの境界は曖昧です。
本作は、ゾンビ映画のフォーマットをとりつつも、人類滅亡後の世界を描くSFとして、とても見ごたえのある作品になっていたと思います。
序盤の、少年少女たちが奴隷のように拘束具につながれて、兵士たちに銃を向けられながら勉強をしている、ディストピア的な学校のイメージが印象的です。
この辺ではゾンビ映画の片鱗はなくて、状況自体を謎にして観客の興味を引っ張っていく、シチュエーションSFの作りになっています。
ずっと密室で状況を見せずに展開して、やがて舞台が屋外に移るとともにパッと視界が開けて、作品の世界観そのものが見える。それまでも悪夢のような状況が展開していたのに、それを囲む外の世界はさらに悪夢そのものの状況。序盤からこの転調までは、実に緊張感も高く印象的な作品になっていると思います。
この漫画にも似ている設定。この作品が好きな人は気に入る映画かも。
中盤は荒廃した世界を移動するロードムービーの形式になり、ある部分ゾンビ映画の定型に移ってしまう弱さもあります。
なんですが、ここでは滅亡したロンドンの街の光景がとても魅力的です。
コンクリートの隙間から生えてきた雑草や植物が建物に絡みついてはびこり、荒廃した街が緑に包まれている、美しいとも言える風景。
藤子・F・不二雄のSF短編「みどりの守り神」を思い出しました。
「みどりの守り神」収録
滅亡後のロンドンの光景は、チェルノブイリの原発事故で住民が全員退去したウクライナのプリピャチという街で、ドローンによる空中撮影で撮られたものだそうです。
なるほど、CGでは出せない実写の迫力がありました。そういえば確かに、東日本大震災後の「人が消えた街」のニュース映像を思い出すところもあります。
そんなに大予算の作品ではないけれど、滅亡後の世界の光景はとても見ごたえがあります。
終盤はSFならではの価値観の転換があります。
常識だと思っていた価値観が、本当にそうか?と問われて揺さぶられる。そういうのも、SFの醍醐味の一つですね。この映画の終盤は、その意味で確かにSFだと思います。
そして何より、オチがある。それまでの価値観がくるっと逆転する、皮肉なラストシーン。
このあたりのブラックな後味が、実にトワイライト・ゾーン的だと思います。
③ライフ
Life(2017 アメリカ)
監督:ダニエル・エスピノーサ
脚本:レット・リース、ポール・ワーニック
ジェイク・ギレンホール、レベッカ・ファーガソン、ライアン・レイノルズ、真田広之
国際宇宙ステーションに回収された火星探査機。サンプルの中から、微生物タイプの地球外生命体が発見される。だが生命体は急速に成長し、国際宇宙ステーション内に解き放たれた生命体はクルーを一人一人殺戮していく…
序盤は宇宙ステーションの描写がリアルで、ハードSFのような見ごたえがあります。
中盤は…ちょっとオリジナリティのない展開になってしまったかな。
閉鎖された宇宙船の中で、潜入した一体の敵と戦う展開は、「エイリアン」の1作目そのまま。
生命体の「単細胞生物」という面白い特徴もあまり生きず、ただ中途半端な大きさ、戦力の生命体になってしまったのがもったいない。
シンプルなSFスリラーとして、とりあえず面白くできているとは思うんですが、この映画ならではの魅力に欠けるのは否めないと思います。
もうちょっとこの作品との差を意識して欲しかったかな…
いや、印象的だったのはラストのオチ。オチがあるんですよね、この映画も。
ベタなオチなんだけど。「トワイライト・ゾーン」的な、どんでん返しのオチです。
そこだけなんか映画のトーンが違っちゃうので、成功してるとは言い難い気もしますが。でも、SFの伝統を守ってきちんとどんでん返しのオチを持ってきてるのは、エラいと感じました。
多少途中の展開でダレるところがあっても、最後スパッと上手いオチで終わってくれると、結構いい印象の映画になったります。
この映画も、決して目新しいオチではないけど、なんだか好感が持てるというか。
A級ではないSFホラーとして、好ましい作りだと感じました。