(前回ブログ 第九演奏会③ の続き)
いよいよ「第九」演奏会の本番です。
てんかん発作のあるK君が、有料の演奏会に合唱団として出演すると聞けば、強いご批判もあるでしょう。
当然のご反応だと思います。
ですから、とにかくK君の体調はいつも以上にしっかり管理し、前日含め本番直前までに少しでもK君に異変を感じれば出演を取り消す自主ルールを定めて臨みました。
また運営側からK君の出演に異論が出れば諦めるつもりでした。

本番を控えたK君、前日も含め体調は悪くない、薬もしっかり飲んで、苦手なCBDも今日だけは我慢していつもより頻度多めに服用、あとは体温が上がらないように注意すれば、発作の可能性はほぼゼロにできます。

私自身は、第九演奏会のステージで歌える喜びを味わいたいところですが、今回それは二の次、K君の横で一応は歌うものの、今回はとにかくK君が最後まで歌い切ることに注意を集中させます。
てんかんのために普段から何かと行動が制限されているK君に、できるだけのチャンスを与えてやりたい、この第九演奏会出演の経験は大きな大きな糧になるはず。
合唱のある第4楽章はわずか25分ですが、出演者にしか味わえない感動があります。
それをK君にも感じて欲しい、この先自立して生きていく自信に繋げて欲しい。

いよいよステージに乗ります。
目の前に本物のオーケストラ、その先にプロの指揮者、さらにその先の客席には700人(?)のお客さんがこちらを見ており、私の気持ちも自然と高揚します。
この雰囲気に加え、K君がこのステージに乗るところまでたどり着いたと思うと、余計に気持ちが高ぶります。
左横のK君をチラっと見ると、意外にもクールな表情。
私の方が冷静さを欠いています。

第3楽章の包み込むようなメロディーが優しくフェードアウトして数秒の静止と静寂を挟み、一転して強く指揮棒が振られると、第4楽章の重厚なオーケストラの演奏が始まります。
しばらくはオケを聴き、まもなくしてバリトンソリストが勇ましく歌いあげると、さぁ、合唱の出番です。
横目で見るK君の表情、問題無し、大丈夫、これなら大丈夫。
合唱パートが始まりました。
音楽に包まれているK君の脳はきっと幸福と安寧を感じ、むしろ通常時より脳波の棘波が減っているはず。
横目でK君の動きを見ながら私も歌います。
よしよし、その顔なら大丈夫、この大きな舞台を思いっ切り楽しんでくれー。

後半のソリスト4人による荘厳なかけ合いが終わり、いよいろ最後の駆け抜けるようなクライマックスの合唱に移ります。
よし、K君よく頑張った、クライマックスは1分半、ここまで来ればもう大丈夫、あとは好きなように歌い上げてくれ。
クライマックスでの演奏の高まりと、横で口を全開にして頑張るK君の存在との合算により、私の歌声はもう歌ではなく嗚咽に変わってしまいました。

指揮者が力強く指揮棒を振り切って演奏が終わると、客席からは拍手、私はいろんな感情が入り混じって涙と鼻水がダラダラ。
対照的に横でK君は飄々としています。
まぁ、とにかくK君、最後までよくやり遂げた。

てんかん患者のK君が出演することに理解を示して頂いた関係者の皆様には心から感謝です。

皆様のご理解とご協力により、K君は、お客さんを前にして、オーケストラの伴奏とプロ指揮者の指揮のもと、ベートーベン交響曲第九番を歌い切る、という貴重な経験をすることができました。

これから先、K君の自立に向けてにどんなことができるでしょうか。