【犬まこ】Kiss
「…い、いくぞ」
「え、えぇ…」
目の前の女の肩に触れる。目を合わせる。相手がゆっくりとまぶたを閉じたら、それが合図。徐々に顔が近づいていき、あと数センチ…。
「よろしくお願いしまーす!」
「のわぁぁぁぁっ!!」
とんでもない力で斜め上に吹っ飛ばされ、俺は板間を転がっていく。
また、このパターン…。
「…何やってんの?犬飼…」
「はは…何だろうな…」
白鳥の心配そうな声に、何故だか妙に傷ついた。
今日は練習のあと、留年のかかったレポートを片付けるため、白鳥の下宿先に転がり込んでいた。
酒が入れば、愚痴っぽくもなるというもの。
「ところで犬飼、今朝はどうしたんだよ?」
「あれか…。聞いてくれるか?」
「おぉ…話してみろよ」
「……出来ないんだ…」
「え?」
コップに残っていた安酒を煽り、一気に言った。
「未だに!…キスも出来ないんだ!」
白鳥は一瞬ポカンとして、それから爆笑した。
「ぶはは!何を言い出すかと思えば!!」
「笑い事じゃねぇだろ!今日だってお前に邪魔されたんだぞ!」
「わりーわりー!ぶはは!でも弓道場で練習前にキス迫る奴があるかよ!」
ぐっと言葉に詰まってしまう。
「部活以外で会えないんだし…しょうがねーじゃん…」
「はぁ?会えるだろ、だって…」
白鳥は何か言いかけ、唐突に話題を変えた。
「いや、何でもねー。それよりさ、春名のどこがいいんだよ?俺ちっともわかんねー。夜久のがよっぽど可愛いし」
酒が入っているせいか、顔が熱い。浮わついた頭であいつのことを考えると、あいつが全部欲しくなってくる。
「真琴は、夜久以上に強がりなんだ。強くて頼られる存在で居ようとする。」
「それで?」
「あいつ、弱ってた俺を抱き締めてくれたんだ。あいつだって弱いくせに、それでも一所懸命に…」
今でも、あの日の温もりは覚えてる。
「俺はあいつをいつでも抱き締められる距離に居たいんだ…あいつだけが俺に気づいてくれたみたいに、俺だけはあいつに寄り添ってやりたい…のに…!」
手に握ったままだった紙コップが潰れる。
「あいつを前にすると、情けねーことにキスもできねぇ…今日だって結局未遂だし…」
「してーの?」
「当たり前だろ!今あいつが目の前に来たら、襲いたいくらいだ。俺のもんだって、見せつけてぇ…」
白鳥がにやにやと笑いながら、玄関へ向かった。
「おーい、犬飼こっちこっち」
「あ?」
手招きされ、ふらつく足取りでついていく。
白鳥は俺の腕を掴んで部屋を出て、すぐ隣の部屋のインターホンを押した。
「おーい!聞こえてただろー?」
ややあって、ドアが静かに開く。
俺は目を疑った。
「白鳥くん…何てこと言わせてるのよ…」
「え…は、春名…?」
出てきたのは、部屋着のままの春名だった。何てこった!
「隣だったのか…?」
「やっぱ知らなかったのかー。春名ガード固そうだしなー」
呆ける俺の背中を押して、白鳥は俺を部屋に押し込む。
「じゃあ春名、その酔っ払いよろしくな!俺今からレポートタイムだから」
「ちょっ…白鳥くん!?」
背中でドアが閉められる。白鳥は部屋に戻ったらしい。隣のドアの音から足音から、白鳥の鼻唄まで聞こえてくる。
「壁薄すぎだろう…」
「そうね…」
俺は、さっき白鳥に言った言葉を思い出して、穴を掘りたくなった。もしかしなくても聞かれてる。やばい…!
「とりあえず、上がって。散らかってるけど」
「お、おう…」
同じ間取りなのに、白鳥とはまるで違う部屋。
女の、部屋だ。
「さっきの…本当?」
「え…」
「さっき、隣で叫んでたことよ」
顔が一気に熱くなる。
「春名…いや、真琴」
真琴の肩を掴んで、見つめる。
「いぬか…」
真琴がこちらを向いた瞬間、抱き締めた。
「俺はお前を抱き締めてたいよ。俺のものだって…見せつけたい」
「直接、言ってくれたらいいのに」
真琴の小さな声が耳に届いて、内容を反芻する。
「それって」
「いつも照れちゃうけど…今は大丈夫…だから、」
ゆっくりと、俺の方を見る。
「……キス、してよ…隆文」
もう、抑えられるわけがなかった。
やり方なんて知らない。
ただ、俺の想いが伝わるように。もっとちかくに行けるように。
「ん……」
「ふっ…」
好きだよ。
すごくすごく。
愛してるよ。
「……ふ」
呼吸の仕方もわからずに、息の限界まで真琴の唇を味わった。
「へへ…」
真琴と目が合うと、思わず目尻が下がってしまう。
「…情けない顔」
「やべー…超嬉しい」
「私も…」
俺はもう一度、真琴を強く抱き締めた。
「愛してる…真琴」
「うん…私も、貴方を愛してる」
「え、えぇ…」
目の前の女の肩に触れる。目を合わせる。相手がゆっくりとまぶたを閉じたら、それが合図。徐々に顔が近づいていき、あと数センチ…。
「よろしくお願いしまーす!」
「のわぁぁぁぁっ!!」
とんでもない力で斜め上に吹っ飛ばされ、俺は板間を転がっていく。
また、このパターン…。
「…何やってんの?犬飼…」
「はは…何だろうな…」
白鳥の心配そうな声に、何故だか妙に傷ついた。
今日は練習のあと、留年のかかったレポートを片付けるため、白鳥の下宿先に転がり込んでいた。
酒が入れば、愚痴っぽくもなるというもの。
「ところで犬飼、今朝はどうしたんだよ?」
「あれか…。聞いてくれるか?」
「おぉ…話してみろよ」
「……出来ないんだ…」
「え?」
コップに残っていた安酒を煽り、一気に言った。
「未だに!…キスも出来ないんだ!」
白鳥は一瞬ポカンとして、それから爆笑した。
「ぶはは!何を言い出すかと思えば!!」
「笑い事じゃねぇだろ!今日だってお前に邪魔されたんだぞ!」
「わりーわりー!ぶはは!でも弓道場で練習前にキス迫る奴があるかよ!」
ぐっと言葉に詰まってしまう。
「部活以外で会えないんだし…しょうがねーじゃん…」
「はぁ?会えるだろ、だって…」
白鳥は何か言いかけ、唐突に話題を変えた。
「いや、何でもねー。それよりさ、春名のどこがいいんだよ?俺ちっともわかんねー。夜久のがよっぽど可愛いし」
酒が入っているせいか、顔が熱い。浮わついた頭であいつのことを考えると、あいつが全部欲しくなってくる。
「真琴は、夜久以上に強がりなんだ。強くて頼られる存在で居ようとする。」
「それで?」
「あいつ、弱ってた俺を抱き締めてくれたんだ。あいつだって弱いくせに、それでも一所懸命に…」
今でも、あの日の温もりは覚えてる。
「俺はあいつをいつでも抱き締められる距離に居たいんだ…あいつだけが俺に気づいてくれたみたいに、俺だけはあいつに寄り添ってやりたい…のに…!」
手に握ったままだった紙コップが潰れる。
「あいつを前にすると、情けねーことにキスもできねぇ…今日だって結局未遂だし…」
「してーの?」
「当たり前だろ!今あいつが目の前に来たら、襲いたいくらいだ。俺のもんだって、見せつけてぇ…」
白鳥がにやにやと笑いながら、玄関へ向かった。
「おーい、犬飼こっちこっち」
「あ?」
手招きされ、ふらつく足取りでついていく。
白鳥は俺の腕を掴んで部屋を出て、すぐ隣の部屋のインターホンを押した。
「おーい!聞こえてただろー?」
ややあって、ドアが静かに開く。
俺は目を疑った。
「白鳥くん…何てこと言わせてるのよ…」
「え…は、春名…?」
出てきたのは、部屋着のままの春名だった。何てこった!
「隣だったのか…?」
「やっぱ知らなかったのかー。春名ガード固そうだしなー」
呆ける俺の背中を押して、白鳥は俺を部屋に押し込む。
「じゃあ春名、その酔っ払いよろしくな!俺今からレポートタイムだから」
「ちょっ…白鳥くん!?」
背中でドアが閉められる。白鳥は部屋に戻ったらしい。隣のドアの音から足音から、白鳥の鼻唄まで聞こえてくる。
「壁薄すぎだろう…」
「そうね…」
俺は、さっき白鳥に言った言葉を思い出して、穴を掘りたくなった。もしかしなくても聞かれてる。やばい…!
「とりあえず、上がって。散らかってるけど」
「お、おう…」
同じ間取りなのに、白鳥とはまるで違う部屋。
女の、部屋だ。
「さっきの…本当?」
「え…」
「さっき、隣で叫んでたことよ」
顔が一気に熱くなる。
「春名…いや、真琴」
真琴の肩を掴んで、見つめる。
「いぬか…」
真琴がこちらを向いた瞬間、抱き締めた。
「俺はお前を抱き締めてたいよ。俺のものだって…見せつけたい」
「直接、言ってくれたらいいのに」
真琴の小さな声が耳に届いて、内容を反芻する。
「それって」
「いつも照れちゃうけど…今は大丈夫…だから、」
ゆっくりと、俺の方を見る。
「……キス、してよ…隆文」
もう、抑えられるわけがなかった。
やり方なんて知らない。
ただ、俺の想いが伝わるように。もっとちかくに行けるように。
「ん……」
「ふっ…」
好きだよ。
すごくすごく。
愛してるよ。
「……ふ」
呼吸の仕方もわからずに、息の限界まで真琴の唇を味わった。
「へへ…」
真琴と目が合うと、思わず目尻が下がってしまう。
「…情けない顔」
「やべー…超嬉しい」
「私も…」
俺はもう一度、真琴を強く抱き締めた。
「愛してる…真琴」
「うん…私も、貴方を愛してる」