【宮月】Sweets!
最近、夜久の様子がおかしい。部活中も、授業中も、一緒に帰っている時でさえ。
「おい、夜久」
「えっ!?」
今も、呆けていた夜久に声をかけると、相当驚いた様子で顔をあげる。
「何をボーッとしてるんだ。お前の番だぞ、集中しろ」
「うん、ごめん…」
夜久は一つ深呼吸して、弓を構える。射場に立てば、いつも通り、凛と張り詰めた緊張感。しかし、射終えて次の部員に順番を変わると、また呆けるのだ。
「何か悩みごとか?」
部活終了後、弦を直している夜久に声をかける。
「えっ、どうして?…元気だよ?」
明るく笑って見せるが、無理してるのは明らかだ。
「見くびるなよ?お前のこと、どれだけ見てきたと思ってるんだ」
言ってから、相当恥ずかしいことを言ったと気付き、目を逸らす。
「と、とにかく!お前の様子が変だったら、当然気になるに決まっている。…一体、どうしたって言うんだ」
夜久はしばらく考えて、ようやく口を開いた。
「そうだよね…ごめんね。実は、最近錫也にね…」
「錫也?」
夜久の口から、俺以外の男の名が出る。
それだけで、俺の中の黒い部分がざわめき出す。
「あっ錫也っていうのは同じ天文科の幼馴染みで…」
「それで?」
すごく言いにくそうに、口を開閉する夜久に、苛立ちは募る。
「えーっと…」
「…もういい。悪いが、先に帰る」
夜久に背を向け、そのまま出口へ向かった。
「み、宮地くん…!」
つまらない嫉妬、かもしれない。
夜久に好意を持ってもらえた、それだけで満足だった筈なのに、夜久のことを知れば知るほど、どんどん欲が出ていた。
日はすでに沈み、少しだけ冷たい風が通り抜ける。
「心を…広く持たないといかんな…」
弓道場を背にして、数メートル進んだ時だった。
「宮地くん…!待って!」
背中に小さな衝撃。後ろから回された手。―夜久だった。
「夜久…」
後ろに視線をやると、夜久はまだ袴のままだった。恐らく、弓も荷物も弓道場に放り出して来たのだろう。
「ごめんなさい、怒らせるつもりはなかったの…!正直に、言うから…」
ゆっくりと俺から離れ、俺の腕を掴んでくる。
「…来て」
「あ、あぁ…」
連れてこられたのは、食堂の炊事場だった。
「錫也はここ、顔パスなの。頼み込んで、私も自由に使わせてもらってたんだ。…今日までの約束で」
夜久は冷蔵庫を開け、小さな箱を取り出す。
「結局、渡せる程のものが出来なかったよ」
「どういうことだ?」
夜久はその箱を俺に差し出し、「食べないでね、気持ちだけね」と前置きして、言った。
「宮地くん、誕生日おめでとう」
「え…?」
開かれた箱の中は、クリームがたくさん乗った小さなケーキ。
「ここ一ヶ月くらい、ずっと錫也にお菓子作りを習ってたの。コソコソしてごめんね」
夜久は、もちろん休むことなく部活に出ていた。恐らく、睡眠時間を削っていたのだろう。最近ボーッとしていたのも、恐らくそれが原因だろう。
「でも、ちっとも美味しく出来なくて。もう店でケーキ買った方がいいかなって悩んでたんだけど…」
「夜久…」
俺は、なんと小さい男か。
「手作り、美味しいの作ってプレゼントしたかったのにな」
そう言って箱を引っ込めようとした夜久の腕を、掴んで止めた。
「…宮地くん?」
「それ、食べさせてくれ」
「ええっ!?ま、不味いよ?」
「いいから、食べたいんだ。例えどんなにおいしくなくても。
一口サイズの小さなケーキを、夜久が口に運んでくる。
「はい…」
それを口に入れ、そのまま夜久を抱き締める。
「ひゃっ…」
「―うまいよ」
「う、嘘」
呑み込んで、夜久の顎に手を添える。
「うまい」
少し上を向かせ、もう片方の手は腰に回して逃がさない。そのまま、夜久に口付けた。
少しだけ口内に残ったクリームが、音を立てて夜久の口内と混ざる。
「ん…ふ…」
夜久が息を漏らす頃、唇を解放してもう一度抱き締めた。
「…悪い。勝手に嫉妬して、不安にさせて…」
夜久が、おずおずと背中に手を回してくれる。
「俺は、このくらい甘いクリームの方がいい。…ありがとう」
「ありがと…宮地くん」
見つめあって、もう一度。
「愛してる、月子」
クリームよりも甘い甘い、お前の唇を貰おう。
「おい、夜久」
「えっ!?」
今も、呆けていた夜久に声をかけると、相当驚いた様子で顔をあげる。
「何をボーッとしてるんだ。お前の番だぞ、集中しろ」
「うん、ごめん…」
夜久は一つ深呼吸して、弓を構える。射場に立てば、いつも通り、凛と張り詰めた緊張感。しかし、射終えて次の部員に順番を変わると、また呆けるのだ。
「何か悩みごとか?」
部活終了後、弦を直している夜久に声をかける。
「えっ、どうして?…元気だよ?」
明るく笑って見せるが、無理してるのは明らかだ。
「見くびるなよ?お前のこと、どれだけ見てきたと思ってるんだ」
言ってから、相当恥ずかしいことを言ったと気付き、目を逸らす。
「と、とにかく!お前の様子が変だったら、当然気になるに決まっている。…一体、どうしたって言うんだ」
夜久はしばらく考えて、ようやく口を開いた。
「そうだよね…ごめんね。実は、最近錫也にね…」
「錫也?」
夜久の口から、俺以外の男の名が出る。
それだけで、俺の中の黒い部分がざわめき出す。
「あっ錫也っていうのは同じ天文科の幼馴染みで…」
「それで?」
すごく言いにくそうに、口を開閉する夜久に、苛立ちは募る。
「えーっと…」
「…もういい。悪いが、先に帰る」
夜久に背を向け、そのまま出口へ向かった。
「み、宮地くん…!」
つまらない嫉妬、かもしれない。
夜久に好意を持ってもらえた、それだけで満足だった筈なのに、夜久のことを知れば知るほど、どんどん欲が出ていた。
日はすでに沈み、少しだけ冷たい風が通り抜ける。
「心を…広く持たないといかんな…」
弓道場を背にして、数メートル進んだ時だった。
「宮地くん…!待って!」
背中に小さな衝撃。後ろから回された手。―夜久だった。
「夜久…」
後ろに視線をやると、夜久はまだ袴のままだった。恐らく、弓も荷物も弓道場に放り出して来たのだろう。
「ごめんなさい、怒らせるつもりはなかったの…!正直に、言うから…」
ゆっくりと俺から離れ、俺の腕を掴んでくる。
「…来て」
「あ、あぁ…」
連れてこられたのは、食堂の炊事場だった。
「錫也はここ、顔パスなの。頼み込んで、私も自由に使わせてもらってたんだ。…今日までの約束で」
夜久は冷蔵庫を開け、小さな箱を取り出す。
「結局、渡せる程のものが出来なかったよ」
「どういうことだ?」
夜久はその箱を俺に差し出し、「食べないでね、気持ちだけね」と前置きして、言った。
「宮地くん、誕生日おめでとう」
「え…?」
開かれた箱の中は、クリームがたくさん乗った小さなケーキ。
「ここ一ヶ月くらい、ずっと錫也にお菓子作りを習ってたの。コソコソしてごめんね」
夜久は、もちろん休むことなく部活に出ていた。恐らく、睡眠時間を削っていたのだろう。最近ボーッとしていたのも、恐らくそれが原因だろう。
「でも、ちっとも美味しく出来なくて。もう店でケーキ買った方がいいかなって悩んでたんだけど…」
「夜久…」
俺は、なんと小さい男か。
「手作り、美味しいの作ってプレゼントしたかったのにな」
そう言って箱を引っ込めようとした夜久の腕を、掴んで止めた。
「…宮地くん?」
「それ、食べさせてくれ」
「ええっ!?ま、不味いよ?」
「いいから、食べたいんだ。例えどんなにおいしくなくても。
一口サイズの小さなケーキを、夜久が口に運んでくる。
「はい…」
それを口に入れ、そのまま夜久を抱き締める。
「ひゃっ…」
「―うまいよ」
「う、嘘」
呑み込んで、夜久の顎に手を添える。
「うまい」
少し上を向かせ、もう片方の手は腰に回して逃がさない。そのまま、夜久に口付けた。
少しだけ口内に残ったクリームが、音を立てて夜久の口内と混ざる。
「ん…ふ…」
夜久が息を漏らす頃、唇を解放してもう一度抱き締めた。
「…悪い。勝手に嫉妬して、不安にさせて…」
夜久が、おずおずと背中に手を回してくれる。
「俺は、このくらい甘いクリームの方がいい。…ありがとう」
「ありがと…宮地くん」
見つめあって、もう一度。
「愛してる、月子」
クリームよりも甘い甘い、お前の唇を貰おう。