上野は抵抗した。
それはそうである。
学校を閉鎖してまで解決を急ぐ案件を、あろうことか未成年の、しかも自分の学校の生徒二人に任せるなんて事ができる訳がない。
上野はここまでの経緯の説明も含めて、言葉の端々に拒絶の意思表示を織り交ぜる。
教育者として、常識ある大人として、心霊現象などと言うもので、神聖な学び舎の日常が侵された事を決して口外出来ないし、世間に知られる事を好ましく思わない事。
同じ理由で、警察の介入が無い様に通報の類はしていない事。
学校閉鎖の一週間で、金輪際何事も起こらない様にケリを付けたい事。
そして、何より今回の依頼が大学側の理事会のたっての希望であり、理事長の指名で有る事をつらつらと説明した後、数字の書き込まれた紙を一枚差し出した。

「理事長からです。前金だと仰っていました。経費として不足が有れば、いくらでも出すとのことです。」
「それと、成功報酬はコレとは別に倍の金額を用意されているそうです。」

しっとり和尚はゴミでも摘むかのように紙を受け取り、しげしげと眺めると、興味なさそうにポイッと宙に投げ捨てる。

「金の問題じゃねぇんだよ!飯食うだけなら充分間に合ってらい、全くあの女の考えそうなこった。おぉ、嫌だ嫌だ!」

そう吐き捨て、紙を持っていた右手をヒラヒラと振って見せる。

傍目にもそれが小切手である事は見て取れた。
床に落ちる寸前、茉奈果の目にはその金額が目に入る。

「ぶうっ!」

思わず仰け反る茉奈果。
その紙面には、茉奈果の両親が35年ローンを組んで建てた茉奈果の実家が二軒建てられる金額が書き込まれていた。

しっとり和尚は、畳に舞い降りた小切手をもう一度拾い上げると、クシャクシャに丸めて上野に投げて渡す。

「上野さん、あの女に伝えてくれ!」

上野校長
「あの女だなんて?!阿闍梨殿、仮にも貴方の元奥様ではないですか!」

しっとり和尚
「今は違う!伝えてくれや、上野さん!俺は行かないんじゃねぇ、行けねぇんだ! それに、この二人に解決出来ないような案件は他の誰にも解決なんて出来やしねぇ!あと、一週間じゃ足りねぇ、どうせ週が明けて2日もすりゃあ夏休みじゃねぇか、このまま夏休みにしちまいな!ってな。 その条件が飲めなければ諦めろって。」
「それと、金はいらねえ!成功したら、たまには公志に顔ぐらい見せてやれ!そう言ってやってくれ!」

そう言うと部屋を出て、ドカドカと本堂へ向かうけたたましい足音を響かせて行ってしまった。

「鬼塚くん‥…」

困り果て、公志を見つめる上野。
公志は、無言で首を横に振る。

従うしかない事を悟った上野は、肩を落として寺を後にした。