レポート試験 | 65歳の芸大生

65歳の芸大生

定年退職後、新しいことにチャレンジしたいと考えて、今まで縁がなかった芸術について学ぼうと思い、京都芸術大学通信教育部芸術教養学科に入学しました。このブログは学習記録としてレポート等の成果を載せています。複製、転載はご遠慮ください。

テキストで取り上げられている作品の中から一つを選び、その作品の様式や技法の特質について、同時代の他の作品と比較しつつ、説明してください。

古典文学は全く分からず、折しもNHK大河ドラマ「光る君へ」で清少納言と紫式部が登場するので、枕草子と源氏物語を比較してみました。

『枕草子』は、平安時代中期に清少納言が著した随筆文学であり、その様式や技法は独特で、多くの文学的特質を備えている。ここでは、その特質を同時代の他の作品と比較しつつ詳述する。

 1.様式と構成 

 『枕草子』は、随筆という形式を用いている。これは、特定のストーリーに縛られず、作者の思索や観察を自由に表現するものである。清少納言は、この形式を活かし、宮廷生活や自然、日常の出来事を細やかに描写している。この多様なトピックは、段ごとにテーマが異なり、リスト形式の「ものづくし」や「日常の美」など、彼女の観察眼と感性が際立つ内容となっている。

  一方、同時代の『源氏物語』(紫式部)は、長編の物語文学である。物語全体を通じた一貫したストーリー展開と、複雑な人間関係を緻密に描くことに重点を置いている。このため、『枕草子』のような断片的で多様な表現とは対照的に、深い心理描写とドラマ性が強調されている。 

2.技法と表現 

 美術概論でも学習したが、『枕草子』の技法として注目すべきは、「をかし」の美学である。これは、物事の趣や面白さ、美しさを見出す感性であり、清少納言は自然や人々、日常の中にこの「をかし」を探求している。彼女の文章には、鮮やかな色彩感覚と生き生きとした描写があり、読者に新鮮な感動を与える。

  これに対し、『源氏物語』では「もののあはれ」という感情の深さを重視している。紫式部は、登場人物の内面を深く掘り下げ、人生の儚さや人間関係の哀愁を描いており、この「もののあはれ」は、『枕草子』の軽快で即興的な「をかし」とは対照的であり、より深淵な感情体験を読者に提供している。 

3.作者の個性と視点  

『枕草子』には、清少納言自身の個性が色濃く反映されている。彼女は知識が豊富で、機知に富んだ文章を通じて宮廷の華やかさや日常の面白さを伝えている。特に、中宮定子との交流を通じて見せる才気やユーモアは、彼女の人柄を感じさせる。

  同時代の『蜻蛉日記』や『更級日記』などの日記文学は、作者の内面的な葛藤や人生の旅路を描くことに重点を置いているが、『枕草子』は、外向的な視点から社会や自然に対する観察を主にしている。これは、清少納言の好奇心旺盛な性格と、宮廷生活への深い関心が反映された結果である。 

4.文体と言語 

 『枕草子』の文体は、簡潔でありながらも豊かな表現力を持っている。彼女は、短い文章で情景を鮮やかに描き、読者の想像力をかき立てている。この簡潔さと鮮やかさは、現代においても多くの読者に新鮮な印象を与え続けている。

  『源氏物語』の文体は、より複雑で流れるような長文が特徴である。紫式部は、細部にわたる心理描写や情景描写を重視し、物語の世界に深く没入させる力を持っている。 

5.結論

  『枕草子』は、その自由で多様な様式、独特の「をかし」の美学、清少納言の個性的な視点により、平安時代の文学に新たな視点を提供した。これらの特質は、同時代の他の作品と比較しても際立っており、特に『源氏物語』との対比において、随筆と物語という異なる文学形式の魅力を再確認させられる。『枕草子』は、時代を超えて愛され続ける文学作品として、その価値を持ち続けている。