CINEMA if 5

「願わなかった人生」



得意先とのアポイントが急に飛んだ午後、

ふと時間ができたナカムラさんは、

何も考えずに歩いていた。


すると、妙に懐かしい看板が目に入る。

《CINEMA if〜あなたが選ばなかった人生》


「映画館……?あのカフェの近くに映画館なんてあったっけ?」

何かに引き寄せられるように、その扉を開けた。


場内は静かでこじんまりとしている。

案内人が「お好きな席へどうぞ」と。

(あれ?あの時のカフェのマスター?)と思ったが、口にはしなかった。


空いていた席に座ると、いつの間にかスクリーンが灯る。

映し出されたのは、

【もしものナカムラさん】


スーツはきちんと整っていて、営業成績は悪くない。毎日同じルート、同じ笑顔。


けれど、表情は……なぜか、浅い。


昼休み、同僚に誘われても「いや、いいです」と断り、ひとりで済ませ、定時で会社を出るも、家には直帰。


自炊もせず、趣味もない。

休日もどこへも行かない。


ふと、テレビの音だけが響く部屋で、

ソファに腰掛けた彼がつぶやく。

「こんなもんでいいやろ。別に何か欲しいわけでもないし。夢とか、ないし。」

感情の起伏はなく、ただ静かに時間だけが過ぎていく。



数年後、

会社を辞める彼の背中も映る。誰に惜しまれるでもなく、誰を想うでもない。


長年使った名刺ホルダーだけが、薄い段ボールに収まっている。


スクリーンが暗くなる。

会場が明るくなる気配は、ない。


・・・と、そのとき。


映像がふたたび灯った。



再度映ったのは、

現実【ナカムラさんの未来】

名前も知らない誰かに感謝されている自分。

若手にアドバイスを送る自分。

顧客からのふとしたきっかけで、コンサル会社の経営をしている。


表情は、あのifの世界とは明らかに違っていた。



映画が終わると、

ナカムラさんはふっと深呼吸をして、席を立った。


ロビーの出口で、何かがポケットに触れる。


それは、白紙の名刺だった。


裏に、細い文字でこう書いてあった。

「【まだこれから】と【もう遅い】の境界線は、自分で決めていい。あなたが望みさえすれば、人生はいつだって動き出す。」



外に出ると、あの映画館はもうなかった。


でも、ナカムラさんは白紙の名刺を胸ポケットに入れて、今日の営業先へと歩き出した。


足取りは、なぜか少しだけ軽い。



【CINEMA if】

あなたの物語に、もうひとつの選択肢を。

今、あなたが選ぶ未来が、きっと誰かを照らしていく。




この物語を読んでくださった方へ看板持ち

CINEMA ifシリーズは、今回でひとつの区切りを迎えます。


また違うどこかで、違う形で、

ふと【もしも】に出会うことがあるかもしれません。

そのときはぜひ、またご来館ください。


ここまで読んでくださって、本当にありがとうございましたドキドキ

また、あの小さな映画館の前で会いましょう