今回は擬人化なしでいってみました。読み物のかたちをとっていますが、ほぼ私自身の趣味語りです。
なので画像も織り交ぜてみました。写っているバイクがDFでないのは見て見ぬふりで、どうぞ。
スズキのDF125に乗っている。
きっかけは通勤費用を浮かせるため。若気のいたりで峠なんかを攻めて痛い目に遭って以来、バイクには載っていなかった。けれどあの頃よりリッターあたり数十円も高いガソリン代には嫌気がさした。
DFはマイナー車だ。基本設計は同じスズキのジェベルとほぼ同じらしいのだが、どういうわけか旅するオフローダーはジェベルを取るようだ。
俺が選んだ理由は、まず偶然。たまたまそこにあったから。それから店員の口車。
「オーストラリアだとかニュージーランドだとかそっちのほうで羊追っかけるのに使うらしいですよ。」
本当かよ。けどフロントフェンダーはゴム板で延長してあるし、ヘッドライトの上にはちょっとしたものを挟めるバネつきの荷台もある。それが本当に羊を追うために必要なのかは知らないが、のどかな丘の上で羊たちを前にしている自分が浮かんだ。
色は緑。軍用品によくあるあれだ。あの色は実用性の象徴のように思えて好きだ。
こうして何年かぶりかのバイクを手にした俺は、DFの特性に流されて通勤以外の用途へも使うようになった。
一番目立ったのはツーリングだ。峠小僧だったため今までしたことがなかった。
煙臭い長いトンネルを回避するために入った古い道には、苔生した道祖神がいた。
田舎の一時間に一本くるかどうかのバス停にはよく雨宿りで世話になった。
林道なんてようするにただの作業道だろ、その程度の認識だった。けどそれまで予想通りの鬱蒼とした森だったのが突如開けたと思ったら、思いもよらないものが待っていた。
真っ青な空に白い雲、眼下には静かに佇む湖に刈り取り間近の稲が黄金色に広がっている。あまりに引き込まれ自分の実体を忘れ、大気と一体になって眺めている感覚にさえ陥った。

大層気に入った俺は、数日後またその場所へ行った。どうしても写真におさめたかったから。
何枚か撮影し一服ついていると人の声がした。ふもとの県道から遊歩道を使って来ることも出来るから、珍しいことでもないのだろう。
登って来たのは若い男女。透き通るような白い肌の女の子に、人の良さそうな青年。気持ちはわかる。俺も彼女がいたらここへつれてくるつもりさ。
そうこうしているうちに女の子は感極まった様子で泣き出した。よかったな青年。この後もうまくやれよ。こっそり二人を一枚撮り、エンジンをかけずにそっと立ち去った。
こうした出会いの中、今一番のブームは森の中の人工物巡りだ。
自然に対し人工物というのは悪のような扱いをよく受ける。特に山奥にあるそういったものの大半は鉱山で、森を切り開き施設を作り、必要な物質を精製するのに有害な薬品を使う。時にそれらは山を痛めつける。そして閉山後何十年も経った今でも中和施設が稼働していたりする。
けれどかつては沢山の人が働き生計を立て、集まった人々で出来た村では皆が家族のように暮らした。花見に祭りに野球大会、当時の写真を見たがとても華やかだった。
それが今ではほとんど取り壊され、自然に帰ろうとしている。
間逃れてわずかに残る人工物。木々の隙間から入る陽に照らされたコンクリート構造物たち。
繁栄と終焉。自然と人工。相反するものがここまで調和して魅了させてくるなんて思いもよらなかった。

こうして今まで知らなかった沢山のことを教えてくれるこのDF125と、この夏旅に出てみることにした。
なるべく野宿をして日常にはない不便を味わいたい。
行き先は北海道。
きっとあの日浮かべたニュージーランドの羊飼いの絵柄にも近付ける、そんな気がした。