思い出話・・・あるバーディーの話(妄想) | No Graviy fiber works仮店舗営業中?!

No Graviy fiber works仮店舗営業中?!

RF900Rとの生活を中心・・・のつもりでしたが、業務(?)再開したのでここを仮店舗としてあーでもないこーでもないしていきます。
要するにカウル屋さん。

懲りずにまた書きました。なんとなく題材はバーディー。スズキ祭りになっちゃいましたが、どうぞ。



私の名前はスズキ・バーディー。今トラックの荷台で揺られている。
ちょうどいい、少し昔話をしよう。

私の住まいはとある小さな町で新聞屋、木崎新聞店。
店を立ち上げたおじいさん、庭先で野菜を育てるのが好きなおばあさん、豪快に笑うお父さん、井戸端会議大好きお母さん、一人娘のまおちゃんの五人家族。それに何人かの従業員。近くの学校へ通う住み込みの若者が多かったな。おっと犬のコロもいた。こいつはひどい。いつも私をかじってくる。おかげで特にやわらかいレッグシールドは歯型まみれだ。

毎朝・夕、決まった時間に配達の仕事をした。雨の日も雪の日も。私は寒さを感じないからいいが、運転するみなはさぞ大変だったろう。
何台かの仲間がいたが、私だけは配達以外のお手伝いをさせてもらっていた。
はじめのうちはおじいさんがタバコを買いに行ったりお父さんが競馬をしに行ったり、ちょっとした用だった。
それが変わったのは娘のまおちゃんが原付の免許を取ってからだ。動機は実に不純。友人の紹介で知り合ったという隣町の学校へ通う男子に会いに行くためだ。もっともお父さんには家の仕事を手伝いたいと言ったそうだが。
何はともあれ、これを機に私は初めて違う町へと出ることとなった。どこの馬の骨ともわからぬ男子と大切な家族であるまおちゃんが会っている間は気が気じゃなかったが、私に出来ることはちゃんと家に帰れるよう規則正しくエンジンを動かしていくことだけだ。

そんなある日、いつもも逢瀬に使う道の途中でまおちゃんは止まった。目線の先には例の男子、かたわらにはしなだれかかる女子。なんとふしだらな。
そのままエンジンをとめ、私を押しながらとぼとぼと歩き出す。家まで結構な時間がかかったが、一度も乗ることはなかった。
それからまおちゃんが私に乗ることはなかった。
それもそうだ、目的の男子にはもう会う気にならないだろう。会わないのなら乗る理由もなかろう。
仕事とは違った走る楽しみを知ってしまった私としては少し残念だったがしょうがない、自分を納得させた。

雨の続く時期を終え、そろそろセミの声が聞こえそうかという頃、久しぶりにまおちゃんが私に近付いてきた。手には大きな箱を抱えている。おもむろに私へくくりつけた。
それから家族へ出がけの挨拶をし始める。家族の方はやけに念入りに気遣った。
走り出したまおちゃんは止まらなかった。
おじいさんの行くタバコ屋もお父さんの行く競馬場も、あの男子の住む町さへ越えて。

何日も野宿をしながらたくさん走った。
あの日あんなにも落胆して無気力に陥ったのに。失恋とは不思議なものだ。一つの喪失からこんなにも大きなエネルギーを生むなんて。辛かっただろうけど、まおちゃん、今君はとても素敵だよ、そう伝えたかった。

長い旅を終えて日常が戻り、いくつもの季節が流れた。
はじめにコロが死んだ。生きているうちは毎日かじられ迷惑していたが、私によってできる日陰に寝転がる姿を見るのは嫌でなかったと思いかえされる。
それからおじいさんが亡くなった。大きな病気をすることなく最後を迎えられたので、沢山の人が集まりお祝いのようなお葬式だった。
嬉しいこともあった。まおちゃんが結婚したのだ。今度は誠実な男のようで、私も安心した。今では双子のお母さんだ。

本当に安心した。同時に覚悟を決めた。
お父さんが皆を集め店をたたむと、そう伝えた。まおちゃんが嫁に出たらそうすると、以前から決めていたのだ。
誰もが納得済みで、口々にお疲れ様と言い合った。

そして今、揺られている。私ももうだいぶ老いた。
他の大きなバイク達のように磨き上げられ店頭に並ぶということは、もうないだろう。
何か違うものに生まれ変わるか使える箇所だけ外されるのか、今後のことはわからない。
ただ一つ言えることは、私としての生はここでおしまいということだ。
悲しむことはない。私は充分すぎるほど幸せだった。
だからこれでいいのだ。

さて、それじゃあ眠らせてもらうよ。少し話し疲れてしまったようだ。