恭子は編集の残業で遅くまで残り、真夜中のダウンタウンを歩き帰宅していた。
「もう、クラークったら、仕事を人に押し付けて、さっさと帰っちゃうんだから…。地下鉄がおわっちゃったじゃない…。もう!」
彼女が独り言を言いながら歩いていると、なにやら人影が恭子の後をつけていた。
「あ、誰かが後をつけてくるわ。気をつけないと…」
恭子が警戒をしていると1人の男が恭子に声をかけてきた。
「お嬢さん。こんな夜中に1人歩きは危ないよ。送っていこうか?」
「い、いいえ。だいじょうぶよ。自分のことは自分で守るわ。それに並の男なら倒す自信があるわ」
恭子は歩くスピードを早めた。
「くそ。生意気言いやがって…。いいじゃないか。送って行くって言ってるんだからよぉ。少しぐらい付き合えよ!」
男は逃げる恭子を追い掛けた。男は恭子に追い付き、彼女の前に立ちはだかった。彼は、恭子の足を見つめていた。
「おねえちゃん、意外とキレイな足してるねぇ。へっへっへっへ…」
そういうと男は恭子に抱きつこうとした。
「いやん。なにをするの!」
恭子は素早く身をかわし、男の後ろに立っていた。男は目の前から消えた恭子を探しあたりをキョロキョロとみまわしていた。
「おにいさん、こっちよ」
男は恭子の声がする後ろを振り向いた。
「くそ、なんてすばしっこい女だナメやがって…」
男は恭子を捕まえようとしたが、恭子は男から身をかわしかけ出した。
「クソ!まちやがれ!」
恭子はかけ出すと、路地裏に逃げ込んだ。
「ラッキー!自分から人のいない方へ逃げ込んだぜ。しかし、足の速いおんなだな…」
男は全力疾走で恭子を追い掛け、息を切らせ路地裏にかけこんだ。
「ハァハァハァハァ…。おねえちゃん、ずいぶん足が速いな。それにコートの下にずいぶん、いい身体、隠していたじゃないか」
男はそういうと恭子の身体を嘗めまわすように見上げた。が、次の瞬間、男の顔は蒼白になりくちびるを震わせていた。
なぜなら男の目線の先には薄い紫のボディースーツにピンクのブーツとグローブを見につけ、背中には水色のケープが翻る、ウルトラウーマンに変身をした恭子の姿があたのである。
ウルトラウーマンに変身をした恭子は両手を腰に当て笑みを浮かべながら男を見つめていた。
「だから言ったでしょ。自分の身は自分で守れるって。それとも、私に勝てる自信があるの?」
恭子はそういうと、路上に駐車していた乗用車の屋根に手をかけた。乗用車の屋根は見る見るうちにへこんでいった。
“ベコ!”
恭子が腕に少し力を入れると、さらに屋根はへこみ、フロントガラスが割れてしまった。
「あなたも、こうなりたいの?」
「クソ!」
やけになった男は恭子にむかって突進していった。
”フゥゥーーッ!”
「うわぁぁぁーーーっ!」
恭子が男に向い息を吹きつけると、男は木の葉のように舞い上がり表通りに吹き飛ばされた。
恭子は表通りで倒れている男を見下ろし、つぶやいた。
「もう、ムリしちゃうんだかから…。始めからこれで帰ればよかったかな?じゃぁね」
恭子はそういうとケープをひるがえした。すると、そこにはクラークが変身をしたスーパーマンが立っていた。
「ウルトラウーマン。なんでここに?」
「クラーク…じゃなかった、スーパーマンこそ、どうして、ここに?」
「い、いや、若い女性の叫び声が聞こえたんだ。きみ、キョウコっていうジャパニーズの子、見なかったか?」
「彼女なら私が助けたわ。もう、家に戻っているはずよ。でもクラーク、一足遅かったみたいね。暴漢は私が退治したわよ」
恭子はチャメっ気たっぷりに、ウィンクをした。
「き、きみ。おれのことクラークだって?なんで知っているんだ?」
「うふふふ。ロイスから、聞いたわ…。なんちゃって。私はなんでも知っているのよ。クラークはキョウコっていう子が気になっているんでしょ?」
恭子に心の中を見透かされたクラークは絶句していた。
「うふふふ。どうやら図星のようね。あ、そうそう。恭子ちゃんが『クラークの爽やかな笑顔を朝から見たい』って言っていたわよ。じゃぁ、私も行かなくちゃ」
恭子はそういうと水色のケープをひるがえし、星空の中へ飛んでいった。
クラークは星空の中へ消えた恭子の後ろ姿をみつめていた。
「しかし、キョウコの声がしたのに、なんでウルトラウーマンがいたんだ?ま、まさかキョウコがウルトラウーマンなのか?」
…次の日の朝、恭子がデスクに出社すると、すでにクラークがいた。
「おはよう。クラーク。あ、きょうはお酒臭くない!どうしたの?」
「どうしたの?って…。ゆうべ、ウルトラウーマンに『クラークのさわやかな笑顔を朝から見たいってキョウコが言っていたわ』っていわれたから、つい気合をいれちゃったよ」
「あら。私、そんなこと言っていないわ。それにウルトラウーマンとは会ったこともないし。きっと夢でも見ていたんじゃない?でも、一度はウルトラウーマンに会ってみたいわね。あんなにキレイな女性がスーパーマンよりも強いなんて、憧れてしまうわ。ねえ、クラーク、私とウルトラウーマン、どっちが強いかしら?」
恭子はそういうと、飲み干したコーヒーの空き缶を右手で握りつぶし、クラークに手渡した。
「もしかすると、キョウコはウルトラウーマンよりも強いのか?」
ニコリと微笑む恭子の顔と、潰れた空き缶をいつまでも見比べるクラークであった。
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