このSSはアメリカのテレビ映画「ロイス&クラーク」のオマージュです。
…日の傾きかけた午後、メトロポリスのバスターミナルに1台の長距離バスが到着した。そのバスから降りる乗客の中に1人の日本人女性がいた。彼女は、まだ少女といってもおかしくないような、あどけなさが残っていた。
「やっとついたわ。ここがメトロポリスね」
彼女はコートの中から地図を取り出し、広げた。
「え~っと、いま、ここだから…。あ、意外と近いわ。さすが一流新聞社。街の真ん中にあるのね」
彼女は新しい勤務先、デイリープラネットに向かい歩き出した。細い裏通りを抜け、表通りに出たとき彼女の耳に何かが聞こえてきた。
「…うわぁ~、ブ、ブレーキが…」
彼女は耳を澄まし、声がする方を見た。彼女の目には坂の上から転げ落ちる路線バスの姿が目に入った。小さな声はバスの運転手の絶叫だったのである。
バスは信号が黄色から赤に変わる瞬間を1つ、2つとすりぬけ、3つ目の信号にかかったとき信号は赤にかわろうとしていた。
「あ!大変!危ない!」
彼女はそういうとその場にスーツケースを放り出しバスにむかってかけだした。
通りをはさんだ彼女の反対側には1人の男がいた。
彼も小さな悲鳴を聞きつけ、やってきたのであった。
彼にも坂を暴走するバスの姿が目に入った。
「ん?いかん。急がないと…」
男は裏通りに駆け込み服を脱ぎ捨てた。彼はスーパーマンだったのである。
横断歩道の信号が「WALK」に変わった。
信号が変わるのをまっていた雑踏は横断歩道を渡り始めた。
そこへバスが突っ込もうとしていた。
暴走するバスを見つけた彼女は雑踏の中から抜け出し、突進してくるバスの前に立ちはだかった。そして彼女は右手を前に突き出した。
”ドーン!”
次の瞬間、衝撃音が交差点に響いた。
「キャー!」
その様子を見ていた群集から悲鳴が上がった。が、そこにはスーパーマンが現れ、バスを止めたのである。…ように見えた。彼は女の子を抱き声をかけた。
「お嬢さん。だいじょうぶかい?」
「え、えぇ。ありがとう。スーパーマン。助かったわ」
彼女はそういうと、クルリとスーパーマンに背を向け、放り出した荷物の方へ歩き出した。
スーパーマンは彼女の後ろ姿を見ながらつぶやいていた。
「おかしいな。俺の手には衝撃がなかったぞ。ま、まさか、あの女の子が…?」
スーパーマンは物陰に隠れ元の男、クラーク・ケントの姿に戻った。彼は事故現場を振り返りながら、つぶやいた。
「まずは、目撃者を差が捜さないとな」
彼は事故現場の交差点へ歩き出した。
警察ではバスの運転手の事情聴取が行われていた。
「…何度も言ってるだろ?坂の上から降りるときにスピードが出すぎてブレーキを踏んだんだ。だけどブレーキが効かなくなって信号を2つぐらい黄色で通過したんだ。だけど、3つ目の信号が赤になっちまって『もう、ダメだ!』って思ったんだ。そうしたら横断歩道の直前でスーパーマンが現れて…。いや、違う。女の子が、そうジャパニーズの子っぽかったな。彼女が現れてバスを止めたんだ。間違いないよ。それとほとんど同時にスーパーマンが現れたってわけさ。あのこは誰だい?スーパーガールか?でも、綺麗な目をしていたな。まるで人形のようだった…」
そのバスを止めた女はなにもなかったかのように雑踏の中を歩いていた。彼女はデイリープラネット社の前についた。
「あ、ここね」
彼女は編集局のある26Fに通された。
そこは戦場のような忙しさで、誰もがフロアを走り回っていた。彼女は通りかかったカメラマンらしき青年に声をかけた。
「あのう…」
「なんだい?忙しいんだ。保険の勧誘ならあとで、あとで!」
「そうじゃなくて!」
彼女は青年の腕をつかんだ。
「うわぁ、いてぇ!」
青年はあまりの痛さに立ち止まった。
「あのう、編集長はいますか?」
「あ、あぁ。ボスかい?あそこの奥のデスクにいるよ。しかし、なんて力なんだ?きみは。腕はちぎれたかと思ったよ」
「あ、すみません。だいじょうぶですか?」
彼女は青年にペコリとお辞儀をすると編集長のところへいった。
「あのう、私、きょうからお世話になる、キョウコ・フカザワです」
彼女の声に編集長は振り向き、彼女の顔をマジマジと見つめた。
「ん?フカザワ?あ、あぁきみだね。イリノイ支局からきた女の子って。おい!クラークはどこ行った?」
編集長は大声で怒鳴った。
「あ、クラークならさっき出ていきましたよ。路線バスがブレーキ故障で事故に遭ったって言って」
「ん?そんなの聞いてないぞ。また、あいつわけのわからんこと言ってサボリやがって…。もう、きょうは戻らんな。仕方ない。あしただ」
「編集長。クラークって?」
「あ、あぁ。きみのパートナーだ。しばらくきみには彼の手伝いをやってもらうよ。キョウコ。きょうは長旅で疲れてるだろ?きょうはこれでいいから、あしたからがんばるんだぞ。あ、クラークは、あした改めて紹介するよ」
編集長は恭子に右手を指し出した。
「あ、はい。よろしくおねがいします」
恭子は編集長の手を握った。
「うわぁ、いてぇ!こんなにかわいい顔をして、なんて力が強いんだ…。こんどから気をつけないと…」
「あ、すいません。つい力が入っちゃって…」
そのころ、クラークはバスを止めた恭子の目撃者をさがしていた。
そのとき、現場を目撃した者たちは口をそろえて、スーパーマンがひかれそうになった少女を間一髪で救ったと言っていた。
「これはラチが開かないな。まあ、絶妙のタイミングだったからな。普通の人たちには、そう見えるだろうな。それに、まさかあの子がスーパーガールだなんて、誰も思わないどろうし…。やっぱり警察へ行くか…」
クラークは警察へ行った。ちょうど、バスの運転手の事情聴取が終わったところだった。
「なぁ、クラーク。あのバスの運ちゃん、スーパーガールがバスを止めたって聞かないんだ。少し話相手になってくれないか?突然起きたできごとにパニックになったんだろうな。おまえさんと話せば多少は落ち着くんじゃないか?」
「刑事さん、スーパーガールの話ですか?おれ、きいてみたいですねぇ」
「よっしゃ、商談成立だ。たのんだよ」
クラークは興奮した運転手の話に耳を傾けていた。
「…刑事さんにも言ったんだけどさぁ。坂の上から降りるときにスピードが出すぎてブレーキを踏んだんだ。だけどブレーキが効かなくなって信号を2つぐらい黄色で通過したんだ。だけど、3つ目の信号が赤になっちまって『もう、ダメだ!』って思ったんだ。そうしたら横断歩道の直前でスーパーマンが現れて…。いや、違う。女の子が、そうジャパニーズの子っぽかったな。彼女が現れてバスを止めたんだ。間違いないよ。それとほとんど
同時にスーパーマーンが現れたってわけさ。あのこは誰だい?スーパーガールか?でも、綺麗な目をしていたな。丸で人形のようだった…」
「へぇ。そいつはすごい女の子だねぇ。スーパーマンよりも早く現場に来て暴走するバスを救ったスーパーガールの話かい。これはスクープだね。おれも会ってみたかったな」
クラークの恋人ロイスが地方支局の編集長として転勤してはや数ヶ月、ロイスへの思いを断ち切れないクラークは行きつけの飲み屋で飲んだくれる日々を送っていた。
「てやんでぇ…。おれだってスーパーマンじゃなかったら、いい仕事してたんだぞ。あいつには随分手柄をあげてやったのに、そのお礼が編集局長になって栄転かよ…。やってらんねぇや」
しかし、クラークの頭の中にはもう1人の女性の姿がよみがえっていた。あのバスの事故現場で出会った女だった。
「しかし、俺以外にあんなことができる人間がいたなんて…。しかも、女性だ。彼女はいったい何者なんだろう…」
クラークはロイス以外の気になる女性の出現に戸惑いを見せていた。彼がウィスキーをがぶ飲みしていると飲み屋のテレビには火事の現場からの中継が映し出されていた。クラークのとなりで酒を飲んでいたオヤジがテレビを見て突然、大声をあげた。
「お、おい。あれはウルトラウーマンじゃないか?しかし、スーパーマンはどうしてるんだ?最近は彼女に仕事をまかせて、全然出てこないじゃないか」
すると、いっしょに酒を飲んでいた男が答えた。
「なんでも、ウルトラウーマンにふられて、どっかでヤケ酒を飲んでるって噂を聞いたぞ。まったく、なさけねぇ男だな。よう、お兄さんも彼女にふられてヤケ酒かい?ハッハッハッハ」
クラークのとなりで酒を飲んでいたオヤジは彼の方をポン!とたたいた。
「まぁ、お兄さんも元気だしな。これ飲めよ。おれのおごりだよ」
“ハッ”
その声にクラークは酔いが醒め、画面を食い入るように見入っていた。
「う、うそだろ…。なんでロイスがいるんだ?マスター、つけといて!」
クラークはそういうと店を飛び出しスーパーマンに変身をした。
「うぅ~。頭が…」
クラークは頭を抱えながら空を飛びコンビナートの火事現場についた。
すると彼の顔を見つけた、1人の女性が現れた。
「もう、終わったわよ。ちょっと遅かったみたいね。あ、お酒臭い。もう!しっかりしてよ!」
「き、きみは…?」
「ロイスの代わりに日本からきたの。よろしくね」
彼女はそういうと水色のケープをひるがえし、空へ飛んでいった。
…次の日、クラークが出社すると見知らぬ女性がオフィースにいた。
「誰だ?…うぅー頭が痛い…。ゆうべ飲みすぎたなぁ…。おまけに酔ったまま空を飛んじゃったし…。しかし、あの子、誰なんだ?」
クラークが頭を抱えているとデスクから大声がした。
「おい、どうした?また、二日酔いか?こっちへこい!」
クラークは編集長のデスクへ歩き出した。
「きょうからクラークのサポートをやってもらう、ミス・キョウコだ。彼女は日本からオックスフォードへ留学をして、その後、うちの会社経理に入ったんだ。彼女はどうしても報道をやりたいということで、きてもらった。ロイスがいなくなって久しいし、そろそろおまえにも復活してほしいからな。まあ、仲良くな」
クラークは恭子の顔をマジマジと見つめていた。
「きみは、この前の…」
「え?私、クラークと会うのは初めてよ。誰かと勘違いしているわ。それよりクラーク、よろしくね」
恭子はそういうと、クラークの手を握った。
「い、いてっ!」
「あ、ごめんなさい。つい力が入っちゃって…(でもクラークがスーパーマンでよかったわ。普通の人だったら手の骨が粉々だったわね。気をつけないと…)」
「…この子、なんて力が強いんだ?まるで、ウルトラウーマンになったときのロイスみたいだ…」
「クラーク、どうかしたの?」
「ん?あ、い、いや…」
恭子の存在が気になりつつも、どこか惹かれ始めていたクラークであった。
Android携帯からの投稿