最近、この街ではスーパーヒロインの噂で持ちきりだった。
事件、事故が起きると颯爽と現れ事件を解決、そしていつのまにか姿を消すのであった。
事件が起き彼女が現れると、次々と逸話が生まれていた。
女子高生のようなポニーテールの髪型とそれに不釣合いな大きくてたくましい身体。
電光石火のスピードで地上を駆け抜け、ジェット機よりも速く空を飛び、拳銃の弾丸を弾き返す不死身の身体。鋼鉄や銃をアメのように簡単にねじ曲げる怪力…。
人々は鋼鉄の美少女と呼んでいた。
いつしか、まだみたことのないスーパーヒロインに憧れを抱き始めていた。
「ジェット機よりも速く空を飛び、拳銃の弾丸を弾き返す不死身の身体。鋼鉄や銃をアメのように簡単にねじ曲げる怪力…か。いったいどんな人なんだろう…。あってみたいなぁ」
僕はそのとき、姉貴の親友、純子さんのスーパーガール姿を想像していた。小さい頃から姉貴となかよしだった純子さんは僕をかわいがってくれ、僕も、いつのまにか純子さんのことを「おねえさん」と呼んでいた。
純子おねえさんは小さい頃から身体が大きくスポーツも万能だった。中学に入ると陸上部に入り、その驚異的身体能力に磨きがかかっていた。彼女が中3のときは校内で男子よりも足が速く、力も強くなっていた。おねえさんはスポーツが得意なだけではなく、頭脳も明晰で僕はおねえさんに家庭教師をしてもらい勉強を教わった。
おかげで僕は、おねえさんと同じ高校に進学した。純子おねえさんは陸上部でキャプテンを務めていた。彼女は部活で身体を鍛え上げ、さらに大きくたくましくなっていた。放課後ジャージに着替え部活をする姿を見ていた同級生たちはいつのまにか彼女のことをスーパーウーマンと呼ぶようになっていた。
それに引きかえ高校に入っても相変わらずチビでひ弱な僕はいつのまにか、イジメの対象になっていた。
「てめぇ、ガキのくせに生意気なんだよ。ほら、カネよこせよ!なんだ?これだけか?…ったく、しょうがねぇな。ガキは…」
放課後、僕は毎日のように不良どもからカツアゲをされていた。
きょうも、不良どもにカツアゲをされていた。しかしこの日は、いつもと展開が違った。
いつものように不良どもにカツアゲをされ、胸倉をつかまれて足をバタつかせ、半ベソかいていると後ろから聞き覚えのある声がした。
「ちょっと、待ちなさい!あなたたち後輩をイジメてそんなに楽しいの?」
後ろにいたはずのおねえさんはいつのまにか、僕を殴ろうとしていた不良の腕をつかんでいた。
「いてててて…」
背が高くたくましいおねえさんは、番長格の不良を見下ろしていた。
「もう、こういうことはしないって約束してくれる?約束できないなら、彼の腕を折ってもいいかな?」
「ちぇっ、スーパーウーマンが用心棒じゃ勝てないな、しかたないか…」
この日以来、僕のイジメはなくなった。
帰宅部の僕は校庭をランニングするおねえさんの姿を横目で見ながら、いつも妄想をしていた。
「純子おねえさんが噂の鋼鉄の美少女なのかな?」
ちょうど、そのころテレビでスーパーガールが主人公ののドラマが始まった。主人公の女子高生は学校のマドンナ的存在でありながら、スーパーガールに変身をし悪者を倒して学園の平和を守るというストーリーだった。僕はいつもドラマを見ながら、その主人公の姿とおねえさんを重ね合わせていた。
ある日の放課後、体育館からおねえさんの声が聞こえてきた。僕は体育館の中をのぞいた。
中では陸上部がウェイト・トレをしていた。
きょうのおねえさんはジャージ姿ではなく制服のブレザー姿だった。
「ほらほら、あんたたち、男でしょ!このぐらいで息を上げないの!ちょっと貸して」
おねえさんはベンチプレスをやっていた男のバーバルをヒョイ!っと片手でつかんだ。
「せ、先輩。そのバーベルのウエイト、120kgですよ!」
「このぐらいで、いちいち驚かないの!さぁ、つぎは誰?私、ちょっと着替えてくるわね」
しばらくすると、おねえさんは体操部のレオタードに着替えていた。
おねえさんは持ち前の驚異的な身体のバネを体操部の顧問の先生に見出され、2年のときから体操部も掛け持ちしていたのだった。
「おねえさん、すごいなぁ…。レオタードになると身体のラインがハッキリしてよけいにたくましく見える…」
体育館の中に入ったおねえさんは5,6歩助走とつけると軽く床を蹴った。彼女の身体はあっというまに天井近くに舞い上がりミーンサルトを決めて着地した。
「まるで、ドラマののスーパーガールだ。空を飛んでいるみたいだ…」
僕にはおねえさんのレオタード姿がスーパーガールのコスチュームに見えていた。
ある日、僕はついに憧れのスーパーヒロインに出会った。
帰り道、工事現場で遊んでいた子供がトラックの荷台から崩れ落ちた鉄骨の下敷きになってしまったのであった。通りには黒山の人だかりができていた。
僕は通りをはさんだ駐車場から現場を見た。
「痛いよう…。たすけてぇー!」
子供の泣き声が聞こえている。崩れた鉄骨で子供の足が下敷きになっていた。
現場にいた男たちが鉄骨をどかそうとしたがビクともしなかった。
「こりゃぁ、レスキューを呼ばないとダメだなぁ…。誰か救急車を呼べ!ボウズ、がんばるんだぞ!」
だが、その瞬間、赤と青の影が鉄骨の前に現れた。
「おい!鋼鉄の美少女だぞ!」
目の前に憧れのスーパーヒロインが現れたのだった。
彼女は僕たちのほうに顔を向けニコリと笑みを浮かべると、崩れた鉄骨の下に手を入れた。
彼女が軽く腰を浮かせると鉄骨がフワリと持ち上がった。
「す、すげぇ…。1トン以上ある鉄骨を片手で簡単に持上げたぞ!」
鋼鉄の美少女は、空いていた右手で子供を抱えだした。
彼女の右手が鉄骨でつぶれた足に触れると右手が淡いオレンジ色に輝いた。
救急車が現場に到着すると、彼女は救急隊に子供を預けた。
「どうやら、骨折はしていないようですね。あとはお願いします」
彼女はそう言うとクルリと背を向け2、3歩助走をすると地面を軽く蹴り飛び上がった。
“ビュン”
風を切る音とともに彼女は目の前から姿を消した。
「あれが噂の鋼鉄の美少女か?あれ?見覚えのある顔だ…。それに聞き覚えのある声だ…」
“ポン”
誰かが僕の肩をたたいた。僕はハッとして振り向くとさっきの鋼鉄の美少女であった。
「あ、おねえちゃん!やっぱりそうだったんだ。でもおねえちゃん、学校にいるはずじゃないの?」
「しぃー!聞こえたらダメよ。学校からここまでなら、ほんの数秒で来れるわ。ねぇ、あのバス、持上げて見せようか?」
彼女の後ろには1台の大型バスが止まっていた。
「あ…」
彼女がリアバンパーに手をかけ、軽々と持上げて見せた。
「でも、このことは誰にもしゃべっちゃダメよ。さぁ、学校に戻らないとじゃぁね
」おねえさんの姿が声とともに目の前から消えた。
あの噂の鋼鉄の美少女は、やっぱり純子おねえさんだった。
この瞬間、僕の妄想は現実の話となった。誰にも話せない、2人だけの秘密の話…。
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