「ほう・・・、なにゆえに?」
「おもしろそうなの見つけたんだ。」
「どれどれ・・・」
模擬試験の問題用紙を受け取る。
「!。」
覚えのある文章である。
中学生の頃出会った北杜夫の『幽霊』ではないか。
愛読書であり、わたしに松本行きを決めさせた一冊。
「あるよ。持ってる。」
「・・・?!」
「かなり、古いけどね。」
携帯用にしていた新潮文庫と蔵書用のハードカバーの2冊を出してくる。
「いつの?」
「中学・・・かな。」
「・・・すげ・・・。」
「古いでしょ。昔の文庫本って、活字、小さくて読みにくいよね。」
「こっち(ハードカバーの方)、借りていい?」
「おう、もちろん。」
「感想文書け、なんて言わないよね。」
「お、いいね。添削してやる。ふふふ。」
言葉への感性は遺伝するものなのか。
こんな楽しみも、子育てにはあるのだとしみじみと思った。
そういえば、一緒に向田邦子の話をする時の母は、本当に楽しそうだった。
『往年の文学少女』は『文学少女』の娘をどう見ていたのだろう。
「わたしを越えて、育ちなさい。」
やはり、そう思っていたのだろうか。
幽霊の母にでもいい、聞いてみたい。