■番外・佐賀県庁
46都道府県庁のうちだいたい半分を見たが、現時点ではベストオブベストの県庁だ。
あと一歩でモダニズムに到達する様式建築というか、モダニズムサイドなのだが様式建築を希望する施主に配慮してやるか、的な建物。
いやむしろ、「様式建築っつてもよくわかんねえ。柱を立てときゃいいのか?」的なニュアンスさえも…。
もちろん、第一生命本館的と言ってもいい。
いずれにせよ東北大本部棟と同じぐらい、大変に好みである。
外観は、オーダー付きの入り口とタイル張りボディー、という点で様式建築ライクだが、きわめて抽象化されている。
タイルもスクラッチタイルやレンガ調ではなく、薄味でつるんとしたものだ。
極めて四角い。
内装はどうか。
これがまたいい。
どうもそれなりに最近になって全面改装が行われたと思われるのだが、これがいい。
元がどうだったのかはよくわからないので、何とも言えないのだが、「昔の洋館風」を残しつつも、明るく清潔な現代の建物になっている。
特に廊下。5年以内に建てられた建物ですよと言われても違和感はないが、木造洋館ではお馴染みのミントグリーンをうまくあしらって、「現代人のモダンなレトロ趣味」をうまく表現している。
と、思うのですよ。
これはもう完全に好みの問題なので、どっちが正しいとかいうつもりはないんですが、僕は、「昔の建物」といえば「レトロ感」「年月の蓄積」「味がある」みたいな流れにはいまいち関心がない。
昔の人だって、「ピカピカの新築」を見て「すげー!」「文明開化、最高!」と興奮したはずなんだから、僕もその興奮を共有してみたい。
だから作り立て、ペンキ塗りたてのぴかぴか状態へのリフォームはベリーウェルカムだ。
そういう意味で、佐賀県庁は実にいいと思う。
博物館の展示品の様に、死んだ建物が「そのまま」で保存されているのではない。
今現在、現役のオフィスビルとして、はつらつとした姿で活用されている。
佐賀県庁以外にも、昔の庁舎が保存されているケースは少なくないが、「骨董品を保存」的な方向性で、歴史展示館的な使われをされていることが多い。
もちろん、現役庁舎として活用されているところも少なくないが、なんとなく薄暗く、「ご老体」という印象を感じてしまう。
もちろんそれはそれで悪いとは言わないし、その良さも解るんだけれども、やっぱり佐賀県庁。
はつらつとした姿。文字通り「モダン」な姿が生きている。
というわけで佐賀県庁はいいですよ。
そんな佐賀県庁は1950年、戦後早々の完成だ。
設計は阿部美樹志(1883-1965)。面白い経歴の持ち主で、いわゆる建築畑ではなく、土木技術者だ。
岩手県出身で、札幌農学校土木工学科卒業。鉄道院に入り、鉄道施設設計者として東京-万世橋間の高架橋などを設計。
国費留学で米独にて鉄筋コンクリート工学を学ぶ。
帰国後は独立開業し、阪急系の鉄道高架橋やオフィスビルを多数手掛けた。
竹中土木の初代社長を経て、戦災復興院(国土交通省)の第2代総裁、建設院総務長官(建設事務次官)などを歴任し、日本の鉄筋コンクリート工学の開祖(を名乗る人はいっぱいいるんだけれども)。通称コンクリート博士と呼ばれたという。
そんなわけで、戦災復興院の総裁様が県庁の設計も手掛けてくださったのだろう。
そういえば、同じく土木技術者出身の杉野繁一が設計した杉野服飾大キャンパスも、佐賀県庁につながる独特のにおいがあるような気がする。
これが土木技術者の・・・血?
まあ、純然たる建築畑の人とはちょっと違う感じのする建物ですよね。
ちなみに、隣に新館が立っているけれど、こちらは本館と同じ高さまでは同系色のタイル張り、それより上はラスタータイルを張って、圧迫感を出すのを避けているそうだ。
交通メモ
佐賀県庁
住所: 佐賀市城内
JR佐賀駅からバスで10分少々。周囲には坂倉準三の市村記念体育館や、今井兼次がゲーテアヌムを参考に設計したという大隈重信記念館など、味のある建物が多数。ちなみに、佐賀市の近くからは大物建築家が次々と誕生している(唐津の村野・辰野・曽根と久留米の菊竹清訓)が、佐賀市内からは生まれていない。なぜだ?