■東京都立大学・南大沢キャンパス(公立・八王子市)
気が付くと名前が都立大に戻っていた。旧・首都大学東京のメーンキャンパスだ。
京王線南大沢駅で降り、右手に広がるアウトレットモールのさらに向こうに位置する。
尾根線沿いにキャンパスを縦貫する大通りを作り、それに沿う形で校舎や広場を配置した。
1991年に目黒区から移転してきたもので、今でも東急東横線には「都立大学駅」が名を残している。
そのデザインは、1980年代末の時代感にあふれるポストモダン系だ。
駅前の雰囲気も含めて、ミニ筑波シティ、みたいな印象も感じる。向こうは平地だけれども。
さて、モールの向こうに階段が連なり、シンボルタワーが見えてくる。
いよいよキャンパスに突入だ。
まず左手が人文・社会科学系の校舎エリア。
芝生広場を回廊と校舎が囲む。
右手はテーマーパークみたいなアーケード。
さらに進むと、学生会館や食堂・生協などの厚生エリア。
キュービックな窓。縁に飾り。いかにもな「ポストモダン」だ。
さらに進むと、図書館と情報処理棟がミニ広場を挟んで向かい合う。
初見なら、「ココがつくば駅前だ」とか「磯崎新の設計だ」とか言われても、違和感なく信じ込めるのではないだろうか。
情報処理棟、細部まで細かく作られている。
見上げた先の光。
その先は理系ゾーン。多摩ニュータウン、具体的にはオールドスクールエリアではなく、若葉台周辺のニュータウンセクション的な校舎が立ち並ぶ。
ガラスとガラスブロックを張り巡らした、ポストモダンよりさらに新しい現代的デザインの国際交流棟。
さらにちょっと行ったところで、池とミニ広場をつなぐ軸線が大通りに直交する。
池から国際交流棟がちょろり、姿を見せる。
で、立ち止まらずさらにすすむと、スポーツエリア。
体育館は柱?が林立してモニュメンタル。
クラブ棟を経て、やはり柱がオーガニックに林立するオブジェで終点。
いやほんとは、その向こうにグラウンドがあるけれど。
ざっくりいうと、要所要所にランドスケープ的な見せ場を作っている。建物単体としてどうかと言えば、いわゆる「ポストモダン風校舎」が好きかどうかだろう。
僕は嫌いじゃないけど。
デザインについて簡単に説明すると。本当に典型的な1980年代末期風ポストモダンだ。
建築デザインのトレンドを紐解くと、戦前は華麗に飾り立てた「古き良きヨーロッパ風」が主流だったわけですが、戦後は一転、世界的に「モダニズム」が主流になります。
つまり、四角いコンクリート箱。シンプルで機能的な美しさ、すなわちコスパ最強。無印良品の哲学です。
ところが70-80年代に入ると、「モダニズム」は「見た目が退屈だ」という批判が高まってきました。
そこで出てきたのが「ポストモダン」。機能性とは関係ない「装飾」「遊び」を加えることになったわけです。
とはいっても、昔ながらのデザインに戻るだけでは芸がない。
というわけで、伝統的ヨーロッパデザインを幾何学的にアレンジしたり、ガラスやコンクリ、鉄にタイルといった現在素材をこれまで以上に押し出してみたり。
そんな感じです。
日本では、ちょうどポストモダン建築の流行のピークとバブル経済期が重なったため、ポストモダン=バブルの産物、みたいなイメージがあるのではないでしょうか。
それはさておき、尾根線の上に大通りを通しているので、ハイキングコースとしては悪くない。
基本設計は丹下健三門下で、国立京都国際会館などを手掛けた大谷幸夫。
実施設計は、ランドスケープへのこだわりを見せる高橋靗一と、日本設計(池田武邦)だ。ベテランの大物3人衆が集まった成果がこのキャンパスで、それにふさわしい出来ばえだと思う。
わざわざ南大沢くんだり(失礼)まで行く価値あり、ってことだ。
とはいえ、あくまで個人的な好みだけれども、ここ南大沢と東京造形大学八王子の八王子キャンパス、それからつくば駅前広場を、ぜひ見比べてみてほしいと思う。
なお、日本設計は日建設計と間違いがちな名前ではあるが、全く別物だ。
日建は、旧住友財閥本社のオフィスビル設計管理部門。
日本設計は霞が関ビル建設にかかわった各社・各部署の有志が、「会社や部署の縦割りで良い仕事ができない!新しい形の組織を作ろうぜ!」と、作った会社だ。
交通メモ
東京都立大学・南大沢キャンパス
住所: 東京都八王子市南大沢
新宿駅から京王線特急で35分。南大沢駅下車、徒歩5分。こんなに交通の便が良かったとは驚きだ。京王線の高速運行には恐れ入る。大学の真ん前がアウトレットモールだし、二つ隣の多摩センターにはサンリオピューロランドもある。ピューロランドは子供だましではない。目の肥えた大人も楽しめる、本格エンターテインメントだ。