■番外・宝塚市役所(兵庫県)

 

例の歌劇団で有名な宝塚市。その市役所もその名にふさわしく、欧州風味・宮殿風味が加味されている。

 

 

設計は村野藤吾。1980年の竣工で、村野89歳、最晩年の作となる。

 

L字型の行政セクション棟の上に、円筒形の議場が乗る構成。

 

 

 

 

予算の都合もあったのだろうか。基本はコンクリート打ちっぱなしで、村野にしては、つるっとした印象だ。

 

それでも、L字部にはバルコニーを巡らせ、議場部の円筒はルスティカ仕上げというほどではないにせよ、石積み感を出してある。

 

 

一階の回廊部はレンガと擬石の柱。煉瓦の目地は極めて浅い。

 

 

打ちっぱなしの表面と合わせたのだろうか。

 

 

 

 

屋内の階段が「見もの」の一つということになっているが、うーん、目黒区役所を見た後にみるとね、って感じ。

 

こう言っては何だが、新古典派が作ったお墓、みたいな印象を受けた。枯淡の境地というかなんというか。

 

近所のN宮市役所が、墓地を取り潰して建てたものだから、というわけじゃないけれど。

 

ところでバルコニー。

 

本音では「つるりとした四角い豆腐はイヤだ」という建築家の好みでつけられた「デザイン上のもの」なのだろうけれど、建前的には「火災時の避難通路」ということになっている。

 

ちなみにだが、取り壊しの決まった東京海上本社(前川国男設計)も高層ビルなのにバルコニー付きなのは、同じく「避難用」という名目だ。

 

もちろん、世の中の大勢は「そんなの必要ない」と考えており、今や、バルコニーが巡っているオフィスビルなんて見たことがない感じだ。

 

ところが意外なことに、このバルコニー、役に立った。

 

2013年に、市役所の対応に激昂した住民が、ポリタンクで市民課のカウンター周辺にガソリンをまいて火をつける事件があった。

 

濛々と黒煙が立ち込め、火が広がるが、ガソリン火災はそうそう消し止められるものではない。

 

しかし市職員は、カウンターの向こうにある通路から避難することができない。

 

そこでバルコニーが役立った!というわけだそうだ。

 

さらにちなみにだが、「宝塚市役所」「放火」でググると、「1階で放火」と出てくるが、これがまた正しくもあり、正しくもない。

 

宝塚市役所、さすがはおしゃれさんなことに、1階は「G階」、2階を「1階」と呼ぶ、英国流の階数表示なのだ。

 

つまり、火元は2階だったのだ。

 

と思っていたのだが、行ってみると、どうも「英国かぶれだから」というわけばかりでもなさそうだ。

 

この市役所、西側と北側の入り口から入ると「1階」に通じているのだが、東側駐車場からは「G階」に入る構造になっている。

 

その辺のややこしさもあって、英国風味の微妙な階数表示になったのだろうか。誰か教えて。