日本獣医生命科学大学(私立・東京都武蔵野市)
日本におけるミッション系の建物の数多く手がけた建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ作の校舎があると聞いて、出かけてみた。
JR中央線の武蔵境駅を降りて、にぎやかな駅前を東へ3分。すぐにマンサード屋根の洋館が見えてくる。
日本獣医生命科学大学の1号館だ。
この大学、1881年に東京・小石川で日本初の私立獣医学校「獣医学校」として開校した歴史を持つ、獣医界の名門校だ。
それはさておき、この校舎、どうにもヴォーリズっぽくはない。
あえていえばスパニッシュっぽいといえなくもないクリーム色の壁は、ヴォーリズ的と言えなくもなくはないのだが、全体として、ヴォーリズにしてはクラシックすぎるデザインだ。
スマホでググってみると、この建物はもともと、戦前の旧麻布区役所庁舎だった。1937年に大学が買い取って、武蔵境まで移築してきたんだそうだ。
その際の工事監理を、ヴォーリズが引き受けたという。
というわけで、建物の正体は1909年竣工の明治建築。設計者は東京市営繕の技術者、小林鶴吉とのこと。
下谷区役所や浅草区役所の設計も担当した人だそうだ。
移築前後の写真を見ると、区役所時代は今以上にレトロな洋館だったようだ。
移築の際、ヴォーリズがよりシンプルでモダンな感じに改築したらしい。
現在の1号館の中には、ワイルドライフ・ミュージアムというミニ博物館もしつらえてある。事前予約が必要だが、入場無料だ。
おっと、1号館は違ったが、ヴォーリズが設計した校舎も、ちゃんと存在する。隣の2号棟だ。
が、正直言って、むむむむむ?
地味な建物だ。
移築の仕事を引き受けたついでに、おまけに一棟建てておきました。そんな感じがする。
勝手な想像だが、大学側もこの建物の扱いについては、微妙なところがあるのではないだろうか。
最近はヴォーリズの名前も「建築好き」の狭い世界を超えて、広く知られるようになってきたようだけれど、果たしてこの2号棟、なかなか馬鹿にならない金額をかけて補修し、保存・活用を図るべき価値があるかどうか。
まさに、現役学生とOBにどこまで愛されているのかが、問われるところだろう。
とまあ、偉そうな物言いをしてしまったが、このキャンパスは、ほかにも見どころはある。
本館にあわせてデザインをしつらえたA棟。
強い個性はないが、端正な印象のモダニズム建築と(僕には)感じられるD棟。じわじわと来る。
中央広場のベンチに座り、本館、A棟、D棟を見まわしてみると、とてもいい気分でくつろげる。
そうそう、E棟も忘れてはいけない。
多段式の屋上庭園?を備えた最新鋭の校舎だが、いつも中央線の車窓から見て、その存在が気になっていた。
線路と反対側の道路から見上げても、なかなかだ。
話は変わるが、日本における獣医養成教育は、1878年に札幌農学校(北大の前身)と駒場農学校(東大農学部と東京農工大の前身)でスタートした。
そして官立2校で養成教育が始まった3年後に、日本初の私立獣医学校として発足したのがここだ。
教官は主に、日本陸軍での勤務経験を持つ獣医が務めた。
陸軍は軍馬をケアするため獣医の大量養成を必要しており、民間での獣医養成を後押ししようと思った、というわけだ。
さらにその9年後、駒場農学校から発展した東京農林学校(戦後に東京農工大として拡充)の獣医学部長が作った私学が、ライバルの麻布大学となる。
ちなみに麻布大は馬ではなく、犬猫を中心とした「ペットのお医者さん」の養成に強かったという。
ま、とにかくこの大学、獣医界の名門校というわけだ。
学生数は1800人弱、キャンパスの広さは2万平米もないぐらい。
交通メモ
日本獣医生命科学大学
場所: 東京都武蔵野市境南町
新宿駅から中央線で20分。JR武蔵境駅で下車。にぎやかな駅前を歩いてすぐそこ。この辺り、いたるところに大学があるので、併せて見に行ってもいいし、駅前をぶらぶらするのもいい。丸っこい窓が面白い武蔵野プレイスもおすすめ。図書館を核とした駅前公共施設なのだが、外見だけでなく内装もユニークだ。