早稲田大学・所沢キャンパス(私立・埼玉県所沢市) 

 

(写真と文章を入れ替えました) 

初回訪問時は特になんとも感じなかった。2回目訪問時は帰りの電車の中で「おや、意外にいいキャンパスだったような気がしてきたぞ?」と首をひねった。

 


  
緑豊かな丘陵という立地条件をうまく生かしたキャンパスだ。周囲に溶け込んでいながら、ドラマ感もある。
 
日吉とか大岡山にこんな感じの高級マンションがあれば、かなりの値段がつくに違いない。 

 


 
設計は早稲田大建築の教授・池原義郎だ。 
 
都の西北からさらに西北に向けて西武池袋線とバスを乗り継ぐこと1時間。緑豊かな丘をしばらく上った先のバスロータリーで降りる。 
 
出迎えるのは、スウェーデンの彫刻家カール・ミレスによる彫像「人とペガサス」の像(8千万円)。 

 


 
大学当局は「そんな予算あるか!」と怒ったが、設計サイドで寄付金を集めたという。 
 
池原氏が当時のいきさつを講演か何かでぶっちゃけているのだが、「お金をめぐる争い」の恐ろしさを痛感させられる。 
 
それはさておき、校舎へと向かうアプローチの橋は緑に覆われ、緑しか見えない。

 



多摩エリアの大学キャンパスは無理やり野山を整地して平地をねん出していることが多いが、ここは割と自然が保存されているし、うまく溶け込んでいる感がある。

というのも、もともと自然保護区域だったのだけど「早稲田大学が来てくれるのなら」という特例で、緑地保護率を高めにとることを条件に開発が認められたそうだ。

で、見えてくるのが100号館。渦巻き状の巨大校舎だ。

 



まずは背が低く、代わりに横に長々と広がる見てくれのエントランス。

ここを抜けて中に入ると、100号館の外壁に沿って渦巻き状に、坪庭のような中庭を右に巻きながら坂を上っていくことになる。

 


100号館はエントランス部でこそ背が低いが、どんどん高さを増してのっぽになって行き、ついには天空に向かって立ち上がる形となる。

 

 

具体的にはエントランス部分は2階建て、最終的には6階建てのシンボルタワー的な作りになる。 

 


 
坂を上っていくと、それ以上の上昇ペースで左手の校舎が高みを増していき、ドキドキわくわく?感を高揚させられるというドラマティックな仕組みだ。 

 


 
途中に生協と食堂もある。 

 

 

建物の中はきれいで居心地が良さそうだ。スポーツ関連の学生が多いキャンパスだから、食事には気を使っているのだろうか。 

 

 

 

さてこのキャンパス、内外装ともに塊感が出ないように留意されている。

 


建物は一塊の箱ではなく渦巻き回廊状だし、外装も一枚板で覆われた箱ではなく、細かく分割された板材の集合体といった見た目になるようにされている。

 

 

内装も同じ。板の集合体としての建物であり、階段も薄い板をジグザグに組み合わせて作ってある。

 


壁と空間がきっちりと分割されるのではなく、相互に侵入しあっている。

 


その結果、entityとしての校舎、遮る分割線としての壁にはならず、周囲の緑、特に中庭と、あるいは空間と溶け合っている、かのように見えなくもない。

 

 

シンボルタワーの部分も、板の集合体が空を目指す形になっている。



一体化した組織ではなく、独立した個人である大学人がそれぞれ、そしてともに高みを目指す。そんなイメージなのだろうか。

当然ながら、こんな面倒なつくりにするにあたって工費は相当な超過を見ただろう。池原氏のぶっちゃけ話によると、大学当局と相当にもめた感があったことが匂わされている。大隈老公も泉下でさぞかし渋い顔をしたであろう。

 



具体的に引用すると、池原教授の家に深夜、大学のお偉いさんから「工費が少ないのにあんな無駄なものは許されない。言うことを聞いてくれないと夜も眠れない」と電話がかかってきて、池原教授は「私のほうこそ、こんな電話をもらっては眠れない」と反論する…といったありさまだったそうだ。

と、そんなことをわざわざ書いたのは、今この文章を某喫茶店で書いているのだが、隣の席のサラリーマン(大手ディベロッパー勤務?)の会話が聞こえてくるからなのだ。



「俺はスター建築家好きだよ。特に谷口吉郎(渋い!)。あと坂茂(これもなかなかのチョイス!)。でも、俺の担当案件で頼もうとは思わない。絶対に予算に収まらないし、とにかく雨漏りするんだよ。スター建築家に頼むと」

 

キャンパスの総面積は学生5000人に対し36万平米と広大だが、ほとんどはスポーツ施設。わりとあっさり、建物は見終わるだろう。あとは郊外の市民公園と同じように、広い敷地をぶらぶらと。


キャンパス内のもう一つの大型建築物、101号館は、その後に建て増しされた竹中工務店謹製のブツだ。 

 



最後に池原義郎について。

1928年生まれで早稲田生え抜き。いったん山下寿郎設計事務所に就職してから大学に戻り、今井謙次に師事。助教授・教授を経て現在は名誉教授。

 



西武遊園地、北九州市立大学本館、富山県総合福祉会館(サンシップ)などを手掛けている。

サンシップはこちら。

 



今井謙次とは違って直線・ガラスのシャープな多用ぶりだが、装飾過剰ともいわれかねないデザインと、全体としての雰囲気感を追うスタイルは似ているかも。

 

  交通メモ

 

早稲田大学・所沢キャンパス


住所: 埼玉県所沢市三ヶ島


池袋駅から西武池袋線急行で30分。小手指駅で下車しバスで20分。大学の専用通学バスのほか、一般の公共バスも結構な本数が出ているので足の心配はない。この地方には中村屋中華まんミュージアムやトトロの森、トーベ・ヤンソン博物館など、いろいろある。が、大学はあんまりない。