■駒澤大学(私立・東京都世田谷区)
ビアホールの銀座ライオン・銀座7丁目店の設計などで微妙に知られる菅原栄蔵。
その手による大正建築、「耕雲館」が有名だ。
さてこちら、図面上では5万平米の敷地に中高層の建物が林立し、1万5000人の学生がうごめく、せせこましいキャンパスのはずだ。
が、それをまったく感じさせない。
敷地内の坂が作る高低差をうまく生かし、渡り廊下や空中回廊、屋上テラスを上手に配置。
隣接する駒沢公園も借景として生かしている。
校舎は、大づかみなブロック調模様の建築が多いが、1928年落成の耕雲館が視線を引きつけ、キャンパスの重心となっている。
さて、そんな駒澤大は東急田園都市線駒沢大学駅から、徒歩10分ぐらいだろうか。
入り口には、南国ムード満点な校名札が待ちかまえている。
入ってすぐの図書館。
そのとなり、むしろ奥には、禅研究館なる現代建築型のお寺っぽさを漂わせた建物がある。
駒澤大学は1592年設立、曹洞宗の学寮「学林」に由来する。1904年に大学として認可され、翌年、曹洞宗大学と改名した。
1913年に麻布から現在のキャンパスに移転し、1925年に駒澤大学と改称した。
2004年には大学院法曹養成研究科(法科大学院)を開設したが、曹洞宗と法曹養成は何かが似ている。
さて、研究館の先には9階建ての本部棟と記念講堂。
この二つに挟まれるように入り口からの道は続いていく。
しかしながら、まずは手前で右折し、坂を下ろう。見えてくるのが耕雲館だ。
米国建築の巨匠、ミッドセンチュリー好きにはたまらないフランク・ロイド・ライトの設計と言いたいところだが、そうではない。
ライト風や表現主義など当時の流行を取り入れた、曾禰中條事務所の菅原栄蔵の手によるものだ。
元々は大正14年の大学昇格を記念して作られた図書館だったが、現在は禅文化歴史博物館として使われている。
なんというか、かくかくしていて、ポリゴン感が半端ではない。
自分で写真を撮っておいて言うのもなんだが、実写背景にCGをはめ込み合成したような感じになっているような気がする。
その先には、屋上庭園の「緑の丘テラス」。
上ってみると、背後の種月館がよけいな景色を遮り、前面には自然豊かな駒沢公園が広がる。開放感のあるテラスだ。
下に降りて奥に進むと、今度はレトロな7号館と種月館に挟まれた広場になっている。
細かい説明は省くとして、様々な導線で回遊しやすいキャンバスになっている。
7号館の裏手も、人気のない静かな散歩道。落ち着く。悟りが開けそうだ。
大型校舎には空中回廊や中庭が立体的に配置されており、決して行き止まりになることなく、散策を続けていくことが出来る。
校舎も「単調になりがち」と書いたが、どうして意外に個性的だ。
単なる立方体ではない。幾何学的なブロック集合体のようなおもしろみも感じさせる。
このキャンパス、食堂も大学としては充実していて、銀座スエヒロや丸亀製麺、ヴィ・デ・フランスなどが入っている。ちょっとしたショッピングモール気分だ。
大学グッズにも数珠型のストラップなど、ユニークな物がある。
狭いはずなのに、意外に狭さを感じさせないこのキャンパス。仏の慈悲は広大無辺である。