■三重大学(三重県津市)

 

何となくの感想だけれども、高等農林学校にルーツを持つ大学には、割と木造校舎が残されているような気がする。

 

三重大学も、そうだ。

 

 

こちらの大学、キャンパス内配置は少し変わっている。

 

教育・人文・生物資源の三学部からなるブロックの右隣に、医学部エリアが横付けされている。

 

その両者の頭の上に乗るような形、奥まった位置に、工学部ゾーンが展開している。

 

 

さらに向こうは、海水浴場だ。

 

散策におすすめのコース取りは、教育学部など三学部があるブロックに入る正門から入構し、ぐるりと時計回りに1周するルートだろうか。

 

キャンパス内には散策お薦めルートの地図も掲示されているので、それを見るのも良いだろう。

 

三重大は学生数7000人に対し、キャンパス面積は約52万平米。

 

ゆったりと土地を使った開放感のある建物配置で、木々もほどよい密度で植えられている。

 

一部の国立大に見られる「密林」ではない。これこそが庭園というものだ。

 

教育と生物資源の両学部の間を抜けてしばらく行くと、生協食堂に着く。木立の間にテラスも設置され、一息入れたくなる。

 

 

 

道を挟んで図書館も見える。壁面には細かく三重大とプリントされたデザイン。

 

 

再び先を急ぐと、グラウンドが見えてくる。その先には三翠ホールと呼ばれる講堂と、工学部ゾーンが広がる。

 

 

講堂が三重大を象徴するモニュメント的存在なんだろう。

 

講堂前の広場と言い、建物自体と言い、なかなかの予算がかかっていると見受けられた。

 

工学部は、まあ、一般的な国立大学風、という所だ。

 

工学部に限らず、基本は白、ベージュ、れんが風タイルの箱形建築でキャンパスは作られている。

 

 

ちょっと違うのは、風車の存在か。工学部は風力発電の研究に力を入れており、キャンパス内にも建てられている。

 

 

その先は医学部。

 

どこの大学でもだいたい同じだが、医学部は他の学部とは独立した配置になっていることが多い。

 

三重大もそうだ。別の大学がたまたまとなりあっているだけ、というのが実態だろうか。

 

それにしても巨大な大学病院だ。医学部はどこの大学でも、やっぱり金を持っている。

 

間違いない。

 

ここの医学部には、医礎の庭と名付けられた、あずま屋付きの庭園がある。

 

献体者にささげた奉安所や、実験動物の慰霊碑もたてられている。

 

よく見ると、木陰に細い石柱がぽつぽつとたてられている。

 

無縁仏か何かか、と思って近づいてみたら、医学部の教授たちの退官記念碑だった。

 

いずれ庭園が記念碑で埋め尽くされる日も来ると思うが、どうするのだろうか。

 

さて、散策コースもそろそろ終わりだ。右に折れて正門を目指すと、三翠会館と号するクラシックな木造建築が見えてくる。

 

冒頭の写真だ。

 

三翠とは、三重大の前身の一つ、三重高等農林学校の校歌にあった、「三重の翠(みどり)」を指す言葉だ。

 

昭和11年に農林学校の同窓会館として建てられた物で、登録有形文化財となっている。

 

解説の看板には、「当時の典型的な木造公共建造物」との記述があった。

 

今の感覚で見ると、公共建築とは思えないこじゃれた作りだが、確かに細部の作りは非常にシンプルで簡素だ。

 

というか、アールデコというか分離派っぽいというか、つまり、幾何学模様を使ったシンプルな装飾デザインが施されている。

 

何というか、都会の最新流行を取り入れたおしゃれ建築として作られた、ということなのだろうか。

 

僕の目には、色もデザインもなかなか端正で、良い建物のように思えた。

 

「典型的な公共建築」というのは、ちょっと冷たすぎる評価ではとも思ったが、でも、そんなものなのかもしれない。

 

たとえば、現代に生きる僕の目からは今ひとつ物足りない、この時代の典型的公共建築物である三重大の現役校舎も、未来の人々には違った印象、「素敵なレトロ感」を与えるのかもしれない、ということだ。

 

 

いずれにせよ、三翠会館はその前に造られた庭園とよくなじんでいる。

 

庭園は手入れの予算が足りないのか、いささか自然に返りつつあるのが気がかりだが。

 

 

さて、青緑色のタイルが印象的な事務棟の前を通って、再び正門に戻る。

 

 

その脇すぐに、バス乗り場がある。10分もかからずに津駅に至る。

 

(追記)

 

後で知ったが、三重大にはミッドセンチュリーカルチャーのカリスマ建築家、フランク・ロイド・ライトの弟子筋にあたるアントニン・レーモンドが設計した「レーモンドホール」と呼ばれる、もう一つの登録有形文化財があるという。

 

全く気づかなかった。