■慶應義塾大学・三田キャンパス(私立・東京都港区)

言うまでもない名門校。そして、日本最古の歴史を誇る大学キャンパスだ。
 

でまあ、慶應の三田キャンパスといえば、曾禰中條設計の図書館旧館と、雑誌などに良く出る東門が有名どころ。

 

 

まあとにかく、三田駅に近いのは東門だ。

 

というわけで、ごちゃごちゃとした飲み屋が集まる学生街を抜け、東からキャンパスに入った。

 

 

階段を上ると、図書館旧館が見えてくる。

 

 

丸の内の三菱1号館を彷彿とさせる作りで、1912年建立。

 

 

キャンパス内でも古参の建物だ。

 

その近くには塾監局、つまり事務棟がある。

 

 

こちらもスクラッチタイル張りの、年季の入った建物だ。同じく曾禰中條で1926年。

 

 

シンボルツリーとして知られる大銀杏や第一校舎の脇を抜けて進むと、これまた由緒ありげな重要文化財「三田演説館」がある。1875年。

 

 

なまこ壁が何とも言えない。

 

と、歴史と伝統の風格で出迎えてくれたキャンパスだが、あとの建物はそこそこ新しい。

 

 

そこそこどころか、現代建築だっていろいろと。

 

たとえば図書館新館や大学院棟は槇文彦で、ともに1980年代。

 

 

それはさておき、全体としては狭い敷地にぎゅうぎゅうに詰め込んだという印象だ。

 

これ以上建物の間隔を狭めたら、あるいは高層校舎にしたら、相当な心理的圧迫を感じさせられるだろう。

 

 

3万人近い学生の半分が、わずか5万1000平米の三田キャンパスに通う。

 

土地密度の問題は、相当深刻に違いない。

 

それでいて図書館旧館の奥には、優雅にファカルティクラブが建てられている。

 

 

教員の入る研究棟には、古いながらも品の良い作りの、「倶楽部」と言う表現がぴったりの談話室も用意されている。

 

 

研究棟を誰が設計したのか、どうしても思い出せない。結構有名な建築家だったと思うのだが。

 

学生食堂にも、由緒ありげな色褪せた壁画があしらわれている。

 

 

絵のタイトルは「デモクラシー」。福沢先生に最敬礼、ですかね。

 

上野駅の壁画で有名な猪熊弦一郎の作だ。

 

とにもかくにも、あくまでも「紳士が集う場所」である。そんな矜持を崩さないのが、慶應らしさなのか。

 

さて、人口密度の高いキャンパス中央部を迂回し、南館の裏手に回る階段を上ってみる。

 

 

ちょっとしたテラスが作られ、腰掛が並ぶ。ミシェル・デヴィーニュ設計。

 

静かな高台から見渡す景色は、さっきまでいた場所と同じキャンパス内とは思えない。

 

昔は三田の丘から、品川の海まで一望できたそうだ。

 

その景色を見た世界的マルチアーティストのイサム・ノグチが、「アクロポリス!」と叫んだという。

 

じゃあ我々は、「モエレ沼!」とでも返せば良いのだろうか。

 

そんなことを思いながら後ろを振り返ると、そこにあるのが「ノグチ・ルーム」だ。

 

 

ノグチは父親が慶大教授だった縁があり、谷口吉郎設計で1951年竣工の第2研究棟において、内装やインテリアを担当している。

 

純白のモダニズム建築なのに縦長窓というレトロ感覚のミクスチャーも素敵なこの研究棟、キャンパス再開発で取り壊されるのにあたり、「ノグチ・ルーム」と呼ばれた談話室部分だけ移築保存された。

 

担当したのは案の定?そういうのが得意な隈研吾。当時は慶大教授だったのだ。

 

 

さて、大学の歴史はわざわざ解説するまでもないだろう。

 

福沢諭吉先生が、日本にも「ちゃんとした大学」が必要だ、ということで設立した。

 

実際問題として、帝大は官僚・技官の養成機関で、その他の私大は、司法試験や教員試験といった資格試験の受験予備校として発足した。

 

 

ざっくりいうと、高級官僚になりたい人は帝大、公務員や教員になりたい人は私大、大企業の幹部になりたい人は高等商業(現・一橋)や高等工業(現・東工大)に進学していた。

 

大地主や有力商人といった地域の有力者の子弟が、家業を切り回すための経営学や、地方政治の顔役として求められる政治学の素養を学びに来るところが、慶応と早稲田だった。

 

 

福沢先生は実際、こうおっしゃられた。「今年の入学者は、地方の金持ちの子弟ばっかりだなあ」。

 

とにかく、きちんとした「西欧流の大学」を目指したのは慶應(と早稲田)だけというのは、あながち、でたらめな話ではないのだ。

 

とまあ、いろいろ堪能して、帰りはキャンパス西側の正門から。

 

こちらは2011年落成の南校舎が門代わりになっている。東門側とは、同じ大学とは思えない眺めだ。

 

 

南館には、ちゃんと流行りの屋上テラスが作ってある。

 

 

最後に入り口脇、驚くほど充実したおみやげ物センターがある。

 

ネクタイ、タオル、タイピン、フード付きパーカー。様々なグッズが並ぶ。

 

門を出て右に曲がれば、ラーメン二郎本店の行列だ。左に曲がれば三田駅に続く商店街。

 

商店街で、「慶應御用達」をうたう、由緒ありげなテーラーに行き当たった。

 

ショーウインドーには詰襟の学生服が飾ってあった。

 

大量生産の既製品ではないようだ。

 

ウエストがきゅっとくびれ、オーダー品であること訴えかけてくる。

 

 

  交通メモ

 

慶應大学・三田キャンパス 

 

場所: 東京都港区三田

 

JRまたは都営地下鉄三田線の三田駅から、徒歩10分少々。キャンパスを一通り見たら、二郎本店にチャレンジしてみては?僕はやらないけれど。あとは白金台や広尾方面に散歩を続けるのもいい。山手線の内側の「狭さ」が実感できる。