■電気通信大学(国立・東京都調布市)

渋谷から井の頭線で明大前へ出て、京王線の急行に乗りかえる。

千歳烏山を過ぎたあたりから、畑や木々が沿線に姿を見せ始める。

20分もたたずに、調布に着く。

にぎわう駅前を5分も歩けば甲州街道。その向こうに電気通信大学がある。
 

 

通称は電通大。

 

広告戦略を学ぶのではない。

 

情報・電子工学系の4学科からなる情報理工学部が置かれた、バリバリの理系単科大学だ。

 

 

キャンパスの面積は約11万5000平米。

 

340メートル四方といったサイズで、ぶらぶらと一回りするのにちょうどいい。

 

正門から入ると、ロータリーと花壇が目に入る。

 

植えられているのは、ニュートンが万有引力を発見したリンゴの木の「本物」だという。

 

正確には枝分けしたものだが、なるほど理系の大学だ。

 

右手には、新古典派というべきか岡田新一風というか、というようなデザインの講堂がある。

 

 

デザインは重々しいが、ネーミングライツが売却されてしまったのか、「アフラックホール」と名付けられている。

 

どうしてもアヒルの声が頭をよぎる。

 

先に進むと生協と食堂、ベンチが置かれた広場が見えてくる。

 

主要校舎が広場を取り囲む。

 

 

ベンチの一帯は結構広いスペースで、周りの建物や木々のおかげで日陰になっている。

 

そこは十字路の交差点でもあり、時折風もそよぐ。何かつまみながら、本でもめくりたい気分だ。

 

 

食堂に、特段奇をてらったものはない。

 

ただ、季節によっては「電通丼」という名物がメニューに登場するそうだ。

 

話のネタに食べてみるのもいいが、文字通り「ネタ」のないどんぶり飯だという。

 

生協も、取り立てて変わった品ぞろえはない。

 

大学のオリジナルグッズも少なく、電通大まんじゅうやロゴ入りボールペンがあったぐらいだろうか。

 

構内の研究棟や講義棟は、いずれも歴史的建造物と言うほど古くはないが、新しくもない。

 

 

1990年ごろの、いわゆる「ポストモダン風」的なデザインだ。

 

「理系の専門大学」っぽさがあって、なかなか似合っている。 

 

 

他の部分は、どちらかというと団地のようなキャンパスだが、武蔵野の雑木林が残っている。

 

というか、むしろ密林ぐらいといえそうな密集状況だ。

 

広場とあずまやも、自然に還りかけている。

 

江戸時代からの古木とは言わないが、一抱えはありそうな幹がいたるところに生えている。

 

その合間に、校舎が姿を見せる。

 

 

その先はサークル棟。中からそれなりの大きさでポップミュージックが聞こえてくるのは、全国の大学で共通しているところだろう。

 

保育園もある。女子学生が増えるようにと、2012年に作られたそうだ。

 

こちらの大学、学生数は約5000人。

 

1918年に港区飯倉に作られた社団法人・無線電信講習所が、源流となる。

 

無線通信のオペレーター、ざっくりいうとモールス信号を極め、トン・ツーの2音で歌うようにしゃべることができる特殊技能者を養成する民間団体で、無線機械メーカーの業界団体が設立した。

 

 

当時の通信オペレーターは現在のIT技術者と同じように、「科学の時代に欠かせない専門技能の持ち主」として引く手あまた。

 

初任給は帝大卒業生の倍だったという。

 

戦争が激しくなると、軍事通信に不可欠な通信オペレーターの役割はますます高まり、その養成を強化するため、42年に逓信省に運営が移管された。

 

戦後の49年には、新制の電気通信大学となった。

 

57年に目黒から調布に移転し、現在に至る。

 

生協前からさらに進むと、謎のパラボラアンテナや集音器的な何かがあった。

 

今は使われていないようだが。

 

 

ちなみに、東京だけでなく各地に電信講習所は作られたが、新制の5年制高等専門学校になったところも少なくないようだ。

 

再び生協前に戻り、今度は西へ進む。公道をはさんで西側キャンパスにたどり着く。

 

構内でもっとも新しい建物とみられる体育館や、テニスコートがある。

 

 

そして様々な研究棟も。

 

 

東側に比べ、校舎のデザインはオーソドックスだ。

 

 

全体として東側キャンパスより人気が少なく、静かな一帯だ。

 

木々の間を静かに歩くベビーカーや、孫連れと見られる老婦人も見かけた。

 

 

疲れたら休憩スペースと自販機、学生食堂分館もある。

 

 

さらに甲州街道を挟んだ南側には、百周年記念キャンパスがある。

 

こちらは学生寮や職員宿舎などに使われており、キャンパスというより、団地と、団地広場のような雰囲気だ。

 

セブンイレブンもある。

 

 

セブンのイートインコーナーでは、学生たちとサラリーマンが席を分け合って、一息ついていた。 

 

再び甲州街道に戻ると、絶えることのない車の流れとその走行音が響いている。

 

「キャンパスの中は別世界」という表現があるが、なるほどその通りだ。

 

 

  交通メモ

 

電気通信大学

 

場所: 東京都調布市調布ヶ丘

 

京王新宿駅から京王線で30分、調布駅で下車。徒歩10分もかからずに到着。キャンパスを散策した後は、にぎやかな調布駅前をぶらぶらしたり、調布市役所を見に行ったりするのもいい。バスに乗って国立天文台へ、という手もある。