プロ野球 コンバート論
著者:赤坂英一
表紙を見て最初に思ったことは
「これ、糸井選手(オリックス)かな?」
ということです。
表紙に描かれている背番号7の選手。
高いジャンプでボールを捕っているその姿はオリックスに居る「超人・糸井義男選手」を彷彿とさせます。
むしろ、それ以外の人に見えません。
「はじめに」という前書きに「コンバートされて「死のうか」と思った選手」として
糸井選手がコンバートのときに語った言葉をあげています。
この本自体は「コンバート」を通して「プロ野球選手という仕事を続けること」の難しさが書かれています。
プロ野球選手のなかで、コンバートをされた選手は糸井選手以外にもたくさんいます。
本書は一人の選手だけにスポットをあててかかれたのではなく、コンバートを経験した多くの選手のことが書かれています。
しかし、「はじめに」と「おわりに」という最初と最後をかざる文章には「糸井選手」が登場します。
重要なところで出てきているのを考えると、表紙はやはり糸井選手を元に描かれたものではないのだろうか、と推測できます。
赤坂さんの著書で「2番打者論」「最後のクジラ――大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」を私は読んだことがありますが、
どちらの本も多くの人にスポットを当てていらっしゃいます。
章ごとに物語が丁寧に書かれていて、本は最後まで読むと「つながっている」という感じがします。
ベタな表現ですが、一つ一つの章がそれぞれのパズルのピースで・・・最終的に一つの絵になるような・・・という。
と、書いていて気がついたんですが、それとはまた違うような、うーむ。
私はまとめて本を読む時間がとれなくて、どうしても一つの章を読んだら次の章を読むまでに時間があいてしまいます。
そのため、小刻みにしてでも、なるべく早く全体を読んでしまおうと思って努力はしているのですが・・・どうしても長い物語のようなものは敬遠してしまいます。
短編集がたくさんのっている本を選んでしまう傾向があります。
この本も、章の単位では独立しているので比較的時間がまとまってとれないときにひとつの章だけ読むということができます。
独立しているので好きな章から読めますしね。
「はじめに」と「さいごに」はちゃんと順番どおりよむんですが・・・。
ただ、ばらばらに読んでいても・・・出てくる人物がどこかでつながっているな・・・という感じがして、
頭の中でしっかりと考えて「さいごに」を読むと「あぁ、こういうことだったのか」と納得させられます。
赤坂さんの本はこの「納得」というか「腑に落ちる」(という表現でよいのかな?)部分が多いなーと思います。
この構成の仕方は個人的にはとても好きです。点と点が線になるという感覚。
小説にもよく使われる構成なのかもしれないですが、スポーツ系ドキュメントの話ではとても珍しいかと思います。
事実を時系列に載せていくだけではない、物語としての構成の妙ですかね・・・。
コンバートは実際にあったことなのに、まるで筋書きのあるドラマのように思わされます。
そのぐらい、点と点がうまく線になっています。
ただ、書かれていることはノンフィクションなので・・・筋書きというものはないのですが。
文章の感覚的なおもしろさの以外にも、ドキュメントとしてのおもしろさも本書には満載です。
私が好きなエピソードは糸井選手です。いろいろなところで「宇宙人」やら「超人」といわれていますが、やっぱり糸井選手の言動がおもしろいです。
良いコーチにめぐまれたなーと思いますが・・・気になった箇所が。
コーチがいくら口でバッティングを説明しても糸井選手には理解できず、諦めかけていたコーチが目の前でやって見せたら・・・糸井選手はあっという間にバッティングができるようになったというところです。
糸井選手が視覚優位なのではないだろうか、と思ってしまうエピソードですね。
耳で聞く言葉は頭の中でうまく処理できないが、見て覚えるものは頭の中で体の動きに変換することが楽なのでは・・・と。
人によって「理論から入る」か「動作から入る」かというのはあるのですが、
まぁ、今の世の中は教えてもらうときにだいたい「言葉で説明してもらう」ほうが多いですものね。
それができる(もしくは苦手だけど、訓練の末かろうじてできるようになっている)人が多いので、そのまま他人にも口で教えてしまいますよね。
「こうやってこう」とやってみせるほうがいいのか・・・というのは教える側が観察しないといけないのだな・・・と改めて思わされます。
(教わる側が「自分にはこう説明してほしい」といえればいいのかもしれませんが、教わる側が教える側に注文をつけるのは難しいですよね。上下関係的にな意味で)
人になにかを教えるというときは自分の中でたくさんの手法をもっていることは大切なことなのだな、と感じます。
その手法は必ずしも同じジャンルではない、ということはコーチが犬の飼い方の本を参考にしたというエピソードから読み取れます。
(もちろん、コーチが糸井選手を犬扱いしたわけではありません)
さまざまな意見を受け入れる柔軟性というものを少しだけ考えてみたくなる本でした。
意見を受け入れるのは、なかなか簡単なことではないですが。
(エネルギー使いますからね・・・)
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