今朝の穏やか


今朝のコーヒーには たっぷりミルクを入れる

夕べ 素敵だったから

トーストも とろけるチーズも

いつもより よそ行きの 感じだ

カーテンだって 思い切り開けてみる

最後の瞳が 温かだったし

ハミングしている自分が可愛い

晴れの日には希望と誓いを

曇りの日には落ち着きと優しさを

雨の日には労わりと感謝を

いつだって

コーヒーやミルクはあるし

卵やハムだって手に入る

どんな天気も素敵に思える

グレープ・フルーツか それともリンゴか

ジュースを選ぶ 些細な 迷い

細い指にカップを渡すとき

君の好きな曲が流れていた

いとしさが ダイニング周りを

ゆったり満たして

不安はシンクの向こうに流れていった

大丈夫だね

大丈夫だよ

回廊の木霊



カーテンに遮断された朝の光

ミディアム・グレーの秋の部屋で

不承不承(ふしょうぶしょう)に身体を起す

落ち着きの無い苛立ちと 

ぬぐいきれない不安と哀しみに

ここ幾夜かで重くなった 枕が冷たい

とっておきの石鹸でシャワーを浴び

鼻歌も歌ってみた

優しく軽快なボサノバをかけ

快活にバナナも食べてみた

それでも 出るのは溜息ばかり

手応えの割には自棄(やけ)に重たいドアを開け

マンションの廊下に出てみれば

もう日常は 他人事のように始まっていて

憎らしいほど 穏やか朝じゃないか

光がボケて溜まっている 廊下の角で

管理人さんが掃除をしてる

伏し目がちにした会釈に

温和な顔をほころばせ 静かに返す朝の挨拶は

「ドナタサマモ オ独リジャ ゴザイマセン」

そんな風に耳に聞こえた

エレベーターを使わずに ゆっくり階段を

降りることにする

そっと背中を押されるように 

もう一度 聞こえたような気がした

「ドナタサマモ オ独リジャ ゴザイマセン」

小さくスキップをしながら 階段を降りた

群星(ぐんじょう)に誓う

冷たく雨に打たれ

うねりに天地を失い

風に左右を奪われ

闇に前後を逸(いっ)

やっと身体を支えるだけの

(いびつ)な流木にしがみ付いて

すがるように 無光の空をみつめる

怒涛(どとう)の中の 渡りの鳥よ

無慈悲に重く立ち込める雲の上には

常に無辺の星空が

永劫 輝き続けていることを 忘れるな

天頂高く白鳥座のデネブが

南西に鷲座のアルタイルが

あの明星こそが 渡りの標(しるべ)

(はる)か約束の南の地に

お前を誘い(いざない)続けている

そのことを

疲労の底から痛みに堪えて 

打ち震える その羽の一振りは

光に満ちた青空を

(いろど)られた花々を

甘味に熟した木々の実を

必ず与えてくれるもの

さぁ しずかに眼を閉じ 息を整え

今は見えぬ郡星(ぐんじょう)に認めよ

止まぬ雨は無いことを

途絶えぬ風が無いことを

明けぬ夜がないことを 

星座のコンダクト

あんなに活躍していた 
網戸の隙間から
寂しく吹き寄る 秋の夜風
すまない気持ちで 戸を閉めようと
窓辺に寄れば 思い掛けず 
仕舞い忘れた 風鈴に当る

駄々を捏ねては いけないよ

ベランダのジョウロが
昨夜の風で
枯れ花のプランターの上に転がっている

これも片付けなくちゃいけない

わずかな一歩にも
思い切りが必要な 10月の夜寒
不精にサンダルを踏みながら
手を伸ばして 見上げれば
冴え渡る漆黒の夜空に
満天の星々

凛として荘厳なオリオンが
情を持って遠く囁く

ピアニッシモからの変化こそ
フォルテに行き着く妙技だと
優しい応え・哀しい応え

人気(ひとけ)の途絶えた夕暮れの
里のはずれの四辻(よつつじ)で
一つ目小僧が泣いていた。

沈む夕日が眩(まぶ)しいと
稼いだ小銭を失くしたと

銀のお月さん昇る間に
家にもどらにゃならないと

きれいな優しい 母さんの
喜ぶ顔が見られぬと。

しゃくる その子が不憫(ふびん)だと
もう、お帰りと声をかけ
わずかなお金を手渡した。

峠に向かう小径(しょうけい)を
何度も何度も振り返り

チロリと赤い舌を出し
可愛く会釈(えしゃく)を繰り返し

雑木林(ぞうきばやし)の陽の影に
解(と)け入るように消えてった。

ある朝 家の軒下(のきした)に
「ありがとう」の幼字(おさなじ)と
一羽の兎が 吊るしてあった。

そのあくる日も 次の日も
その翌朝も 今日とても

「もう充分」と書きしめた
私の手紙を読まいでか

増える兎に手をやいて
朝の来るのが疎(うと)ましい。

次元移動

裏になり 表になり
右に曲がり 大きく左に迂回し
何かの揺れに底まで落ちて
意識もせずに また這い登る
高さを知らず
広さを知らず
ただひたすらの1次元の道程
それでも時々 やや重たげに
もたげた頭を左右に振るのは
わずかに不安を感じるからか

ある日 DNAの奥底で
刹那の光が暗示する
何処からともないその声に
抗うことなく身を硬くする
「さあ 立ち止まれ、点となれ」
遥か見知らぬ 祖先の声か
核酸に共鳴する神の囁き

         うららかな陽光の中 春の風を優しくうけて
                    一羽の蝶が羽ばたいた
                    眼下に見える一珠のキャベツ
                    葉脈に沿った幾筋の食い跡
                    それが彼の全てだった
                    いま無限に広がる空へ 空へ
                    高さを感じ
                    広さを感じ


ああ
昨夜までいた あの青虫は
一体 何処へ行ったのだろう?

昨夜までいた あの青虫は
死んじまったに違いない
冥土に行ったに違いない
いつまでも・かくれんぼ

隠れ上手のコウちゃんは
誰にも見つけられたことがない

息を殺して 一人きり
笑いを噛みしめ 時を待つ
柱に止まった 蝿だけだ
妙に大きく見えている
自分を呼ぶ声 聞こえても
そんな手には乗るもんか
捜し疲れた 友達が
夕陽に追われて帰っても
ホントは心細くても
明日はみんなに囲まれて
隠れ上手を褒められる

でも
もうとっぷりと日は暮れて
見つけてくれる人もない
隠れ上手のコウちゃんは
誰かに見つけてもらいたい
電球

この華奢な
薄いガラスの球だけが
私の外殻 全てなのです
わずかに流れる曲線を
美しいと手に取って
使ってくれる貴方には
幾たび 感謝を覚えたか


何もないように見えますか?

いつ 誰が入れたやら
アルゴンガスが混沌と
わたしの中に満ちていて
自分の小さな熱情を
光に換える フィラメント

20ワットのわたしには
部屋の数多(あまた)を照らせない
貴方の手元を照らせれば
どれほど わたしが幸せか

200ワットの照度をと
貴方が望んでいようとは

悔やんでみても詮の無い
それではわたしが壊れます
下弦の月に

喉の渇いた旅人が
一気に食べたスイカの残り皮

           袖のボタンが一つ取れていた。

疲れ切った老狩人の
肩から落ちそうな鳥打弓

             ロバも疲れているみたい。

天の川から流れ来た
黄金色のゴンドラ
 
          誰か舫(もや)うのを忘れたんだ。  


そんな今夜のお月さん
 
                 だぁれにあげる?
だから・ね

貴方が恋しくて     溜息
貴方に逢いたくて    虚ろ
貴方が大切で      感謝
貴方が悲しくて      涙


とってもいとしくて    髪
とっても切なくて     指
とっても可愛くて     胸
とっても優しくて     背中


だからいつまでも    いま
だから何処までも    ここ
だから誰よりも      そこ
だからなによりも

だからなによりも    あなた