小一時間後には、くせ毛の男の注文に従って、パスタやピザ、サラダ、ビールのグラスやワインのフルボトルが、テーブルの上に所狭しと並んだ。
栗毛の少年は、平日昼間のビジネスアワーにふさわしくないアルコール類の陳列を眺め、めまいがしそうになった。
何故こんなことになったのか考えた――サニーベールとの会議が思わぬ方向に転がり、トラブルもあり、そこへ相手方である一見紳士らしいアームに付け込まれ、金髪の同僚がアテにならないせいだった。
やることは沢山あった。くせ毛の男の話を上層部に報告してサニーベールの近年から直近にかけての動向を根掘り葉掘り調査しなければならなかったし、今後の方策を練らなければならなかった。サニーベールの独立の件は、恐らく常務が関係部署に周知済みだろうが、今後の先方との直接のやりとりのために(また、某デスマスク氏が出てくるかもしれない)、こちらの体勢を整えなければならなかった。
そして何より、例によってやらかしてくれた兄を、一刻も早く捜さなければならなかった。某デスマスク氏が、「追跡をやめました」と云ったところで、くせ毛の男の口ぶりでは、サニーベールが兄をマークするのをやめたとは考えにくかったし、別の命令系統がまだ兄を追っている可能性も否定できない。となればなおさら、サニーベールよりも先に兄を見つける必要がある。兄を見つけて、その首に鈴をつけるまで、安心して眠ることもできないだろう。
ベースの片付けは、それだけは、『紫龍』を置いてきたから大丈夫だろうが、とにかく一刻も早く、この暑いばかりの無意味なランチタイムを切り上げなければならなかった。
少年が落ち着かない面持ちで同席の二人を見遣ると、くせ毛の男はすこぶる上機嫌で斜め隣の金髪の彼にしきりと何か話しかけており、その金髪の彼は何食わぬ顔で、ライムを詰め込んだメキシコビールの瓶をラッパ飲みしていた。
「氷河」
栗毛の少年は同僚になるべく優しく呼びかけた。
「早く帰ろう」
「どうして。食事を始めたばかりだ」
くせ毛の男が返事した。
少年は男をジロリと見た。
「彼は未成年です」
「何が?」
「お酒は困ります。店の人は断らないけど、厭そうな顔をしています。通りがかりにジロジロ見て行く人もいるし・・・そうじゃなくても、貴方も彼も目立つのに。氷河、きみも家じゃないんだから、そんなにビールを飲んだらダメだろ。――ていうか、家でもほんとはダメなんだよ」
「だから、何だ?」
「僕は氷河に話しているんです!」
くせ毛の男は片眉を上げた。ゆっくりと首を回らして隣を見た。
「きみに話しているらしいぞ・・・ご友人に、先に帰れと云え」
「先に帰れ」
同僚は九官鳥並みの反応であった。
栗毛の少年は同僚をどうにかするのを諦め、くせ毛の男に向き直った。
「貴方の用事と云うのは何です?」