「会長は、独立を認めないとおっしゃったが、株の話はお分かりですか」
男は続けた。
「御社の株は非公開で、故城戸会長――社長兼会長――の持ち株比率が三分の二です。残りを、専務だったドーバル氏とそちらの常務が持っています。故城戸会長の持ち分を貴女が相続しました。ドーバル氏は失踪扱いですが、今もまだ御社の株主です。『相続人に対する株式の売り渡し請求』の定款があります。ドーバル氏は、株主総会を招集し、貴女に対して株式の買取り請求をすることができます。そのとき、貴女に議決権はありません」
会長の女が隣の栗毛の少年を見ると、少年は眼を瞑って右肘をテーブルにつき、こめかみに右手の指先を当てていた。
女はオールバックの男に視線を戻した。
「独立を認めなければ、会社を乗っ取る、ということですか」
「そうできなくもない、ということです。そちらの常務もなかなか忠誠心に篤い男のようですし、面倒かもしれないですな。ドーバル氏は、割に合わないことはやらない主義です。そこで、取引です――ドーバル氏が保有する御社の株と、御社が保有するサニーベールの株を、互いに売買しましょう。貴女は会社を乗っ取られる心配をしなくて済む。サニーベールは後腐れなく独立できる。お分かりでしょうが、この取引に応じなければ、貴女はサニーベールどころか、全てを失います」
「大変分かりやすいですわ。ブラウンさんは、人を脅すのが専門なんですか?」
女が冷やかに云った。
「交渉と云ってもらいたいですな。無論、専門ではありませんが」
オールバックの男は、作り笑いを顔に張り付けたまま応えた。
「正直、株の話なんぞ知ったことじゃない。だが、上からこの話をどうしてもまとめてこいと云われている。まだるっこいのはお互いさまですよ」
「気に入らない」
栗毛の少年が吐き捨てた。会長の女が隣の少年を少し睨んだ。
「そういう云い方はおよしなさい。――そこまでおっしゃるなら、私たちもあなた方と一緒に仕事はできません。後腐れのない方法できれいに手を切りましょう」
「会長は話の分かる方だ」
オールバックの男がパチパチと手をたたいた。
「一つ条件が」会長の女がすかさず続けた。「『一輝』は無傷で返していただきます。あなた方は、彼にもう用はないのでしょう?」
オールバックの男は考える顔をした。テーブルを指先でトントンと何度か叩き、それからゆっくりと上着のポケットから携帯端末を取り出し、どこかへ発信した。
「『ブラウン』だ。『ブラック』の追跡は終了」と電話に出たらしい相手に告げた。
会長の女は微笑んだ。