解 3 | Glaciation Limit

Glaciation Limit

-When a blaze occurs in the driftless area-

「カエ・・・何でしたかな」

 常務の男が脱線した話に付き合った。

「ラムセス2世の息子で賢者だったらしいです。どうでもいいですが」くせ毛の男が答えた。「当時のルーブルの所蔵品でした。今もそうかもしれません。本物を土産に持って帰るわけにいかないので、同僚はよくできたレプリカを手に入れてきましたよ。そんな土産やら、彼が自分で集めてきたものやらで、彼の家のリビングの壁は、デスマスクだらけです」

「あまり気持ちのいいもんじゃないでしょう」

「率直に申し上げて悪趣味の極みですね」

「よもや皆さん、ご存じないことはないでしょうが、我々はいずれ必ず死にます」

 オールバックの男が芝居がかった調子で云った。

「これほど確実なことを、普段は誰も彼もが忘れているというのは、実に奇怪な話だ。他人の死顔を眺めて何が悪いんです。自分の死顔を想像したことがありますか?想像すべきですよ。悪趣味でもなんでもなく、至極まっとうなことだと思いますがね」

「興味深いお話ですが、レポートを拝見してもよろしいですか」

 栗毛の少年は、自分の仕事を忘れなかった。

 オールバックの男が、白衣のドクターたちの方へ顎をしゃくった。

 ドクターの一人がアタッシュケースから分厚いファイルを取り出した。

 栗毛の少年が黙って手を伸ばし、ファイルが手渡された。

「きみはさっきからやたらと口出しするね」オールバックの男が面白くない顔で云った。

「アームなら、せいぜい、会議に邪魔が入らないように黙って見張っていたらどうだね?ドアのところで突っ立っている彼みたいに」

「貴方とそちらの『アンバー』氏もアームでしょう。ミーティングにアームが来るなんて、びっくりしましたよ。話し合いじゃなくて、殺し合いでもする気ですか?」ファイルの頁を送りながら、栗毛の少年が云った。

「成程、確かに我々もアームです。つまり、アームだからと云って、ドンパチばかりが能じゃないということですな」

「――これは一体、何です」

 栗毛の少年の声に苛立ちが滲んだ。

 頁を送る手を止め、ファイルを持ち上げて示して、オールバックの男を見据えた。

「レムナントの無効化と有効化との関係。同一のシステムによる反対の作用。立証データ。ポテンシャルと無効化、有効化システムの発現との関係。カリキュラムへの反映。これは、一体、何のレポートです?」

 繰り返した言葉は詰問調だった。

 問われた男の顔に悪意のある笑いが広がった。

「それは、技術的な質問ですかね?残念ながら私の専門外でして・・・よろしければ、こちらのドクターがお答えします」

「ふざけないでください」

 栗毛の少年が、ファイルを乱暴に机の上に置いた。

 常務の男がファイルを手に取り、ゆっくりと頁をめくった。その眉間に、次第に深いしわが寄った。

「意外でした」

 オールバックの男がゆっくりと机に両肘をつき、組んだ両手の上に顎をのせた。

「その様子では、ひょっとして、今まで何にも知らなかったんですかね。私どもは、とっくにご存じなのではないかと思って、きょうここへ来たんですよ」

「早まったかな」くせ毛の男が云った。

「なぁに、善は急げって云うだろ。早過ぎるってことはなかろうよ」オールバックの男が応じた。