「きょうはやたらと田舎モンが走ってるな」
振り返ってリアガラス越しに後続の白い二台の車を観察した助手席の男が、前に向き直りながらニヤニヤと笑った。
「どうせ会社の誰かの差し金だ。やっとはっきり動いたな。安心しろ、狙いはお前じゃない」
「そうか。安心した」
気のない返事を聞きながら、助手席の男は、シャツの胸ポケットから煙草を取り出し口にくわえた。
「吸うな」
運転手が前を向いたまま鋭く注意した。
相手は全然取り合わなかった。のんびりとライターを取り出しながらフロントドアガラスを開け、ベンツの排気音と風がごうごうと唸る音が高くなった。
「穏便に処理したいんだろ?そうしてやるから、その前に一服させろ」
運転手はため息をもらした。
「・・・面倒な兄弟だ・・・」
無意識にこぼれた呟きは、騒音が大きくなった車内では聞き取れないほどだったが、助手席の男は聞き逃さなかった。煙草に火をつけようとしていた手が止まった。
「面倒な兄弟ってのは、誰のことだ」
「誰って」
「お前の兄弟か?」
「俺に兄弟はいない」
「じゃ、俺と弟のことか?」
「他にいるか」
まわりくどいやりとりに、運転手は面倒くさくなった。
「兄貴はチンピラで、利口な弟は、その兄貴がからんだとたんに人が変わる。何か問題が起きると思って、俺や紫龍を運転手に使ったな。『穏便に』だと。無理なことを、いつも平気で云う」
「いつもってのは、いつだ?」
金髪の運転手は助手席を一瞥し、微かに眉をしかめた。何も云わずに再び前を見た。
急にアクセルが踏みこまれた。
ライター口元にかざした助手席の男が眼を剥いた。
「おい、待て・・・」
「ふざけるな」
並走する前の二台と百メートルほどあった車間が、あっという間に十メートルを切った。二台のうちの右側を走る紺色の車が、追突される危険に気付いて加速し、グレーの車との並走が乱れた。ベンツが一瞬左側のグレーの車と並んだ。グレーの車のリアドアガラスが開き、そこからいきなりサブマシンガンの銃口が突きだされた。黒のベンツが左側に車体を振った。
連続する発砲音とともにベンツの左サイドの防弾のドアガラスに弾丸が多数めり込み、同時に二台の車のサイドボディ同士が衝突した。金属が盛大にこすれ合う耳障りな不協和音が鳴り響き、火花が散った。グレーの車の右のドアミラーと黒のベンツの左のドアミラーが、粉々になりながら後ろへ飛び去った。
尋常でない振動に、助手席の男はライターの火で指を焼きそうになった。
ベンツに横から体当たりされたグレーの車はコントロールを失った。金髪の運転手はハンドルを左へ切り、グレーの車のフロントにぶつかりながら左車線の前へ出た。バックミラーに、グレーの車が左側のコンクリートの壁に激突するのが映った。
「阿呆。車がボコボコだ」
煙草の煙を窓から吐き出しながら助手席の男が悪態をついた。