【韓国映画】 コンクリートユートピア  | ROUTE8787 サンサクキロク

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コンクリートユートピア/韓国

2021年製作 129分 ☆4.0

2024年36本目 (韓国映画76本目)

世界を襲った未曾有の大災害により一瞬で廃墟と化したソウル。唯一崩落しなかったマンションは、生存者たちで溢れかえっていた。無法地帯となったいま、マンション内でも不法侵入や殺傷、放火が発生。危機を感じた住民たちは主導者を立て、居住者以外を追放し、住民のためのルールを作って“ユートピア”を築き上げることに。

 

なかなか面白かったです。

まずさ、こういう発想が、

そもそも性格の悪い設定で、

人間の嫌な所を、浮き彫りにする気、

満々やね・・・と思う。

 広げた風呂敷を、どうするのか。

 

行くところまでいく胸糞悪い展開か、

更に風呂敷を広げて、劇画チックとなり、

論点をズラして「何だこれ?」って

なる展開かのどちらか。

 

・・・・だろうと、危惧していたけど。

 

ギリギリの所で耐えてくれた。

もう、それだけで、

私は高評価をあげてもいいって思う。

 

そもそも、「何よりも人間が1番怖いのよ」

という題材はよくあるんだけど、

そうなる過程って、けっこう、

端折られてる気がするんだよね。

私は、それが結構不服に感じていたので、

その空白部分を、今回、

埋めてくれたな~という気持ちがある。 

 この作品は、一人の人間・その集団が、

一線を越えるまでの過程が、

非常に興味深かったし、

納得のいくものだった。

 

人間の狡さと、愚かさ。

けれど、それだけでは終わらないリアルさがある。

パニック作品の中では、

頭一つ飛びぬける秀作だと思う。

 

以下、ネタバレです。

特筆すべきは、イ・ビョンホン様の演技力。

毎回毎回、イ・ビョンホン様の

演技には脱帽してしまう。

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ひょんな事から代表になってしまい、

ひょんな事から、

みんなから慕われ、崇められる。

 この時の、ビョンホン様の演技が秀逸で。

人生で初めて知る恍惚感が、

なんとも言えないっていう表情なんですよね。

 脚光を浴びて、ワナワナと震える感じが、

今まで、人の中心にも、

人の上にも立った事がない、

日陰の人間なんだろうな・・・という

その過去まで見えてしまう演技なんです。

 案の定、詐欺に引っ掛かり、

妻や子供にも冷たくされて、

底辺の底辺を這っていた。

 そう、まるでゴキブリみたいな

心情だったかも知れない。

 

それゆえ、この未曾有の災害で、

自分が上に立つ状況に、

高揚している感じが伝わってきた。

彼にとって、人生が逆転した気分

だったに違いない。

だからこそ、失敗は許されない。

住民たちを落胆させたくなかったし、

何としてでも、この地位を守りたかった。

より行動は強固に、

厳罰に傾いていったんだろうな・・・・と思う。

 

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パク・ソジュン様も良かったです。

純朴な男性で、暴力とは無縁でありながら、

徐々に、自身の持つ正義を失っていく。

 この演技の凄い所は、

パクソジュン様が悪い心を持ってる・・・と

思わせなかった所。

 サイコパスでも憑依でもなんでもなく、

家族を愛する普通の一家の大黒柱が、

それゆえ、正気を失っていく・・・

という所なんですよね。

 最後の瞬間まで、

パクソジュン様演じるミンソンを、

責める気にはなれない・・・っていうのがミソ。

 人間は、よほどの自己犠牲の精神がなければ、

こういう状況になると、いとも簡単に、 

正義を手放してしまう。

 でも、それは、自己愛ゆえではなく、

家族を守りたいという愛情や優しさだから、

不憫なもんであるが、

私自身も、そうなるリアルさに、

ゾワゾワするのだ。

  

また・・・パクソジュン様が、オーラを消して、

普通の男っていうのが、うまいんだよね。

 イ・ビョンホン様を引き釣り下ろして、 

新たなリーダーになる!!

っていうキャラではないワケですよ。

 パクソジュン様とイビョンホン様を

対立軸に描いて、

劇画チックに描く事も出来ただろうけど、

あえて、そうせず、リアルさを追求した所が、

この作品の素晴らしい所だし、

そういうカリスマを一滴も感じさせない、

パクソジュンの演技が、

やっぱり、うまいじゃないか・・・

と思わされましたね。

 

そして、1番興味深かったのは、

ミンソンの妻・ミョンファ。

1番の普通人って言いながら、実は、

1番厄介な人なのかも・・・と思う。

 自分は、旦那の庇護のもとにいながら、

正義感を振りかざし、

ミンソンに向ける冷たい視線を、

私は、忘れない。

 

暴力的になっていく夫に、

食べ物とかの強奪にいかないで

・・・・とか言いつつよ。

配給は私の分だけでいいじゃない・・・

とか言いつつよ。

 

いや、それ、結局は他の人が、

強奪してきた食べ物やからね???

って言いたくなるし、

住人以外は、マンションを追い出す事を

批判していたけど、

最後のシーンで、

住人でないヨンタクに出ていけという、

この矛盾!!!

 

この作品の「正義」として、

ミョンファを描いたのかどうか。

どうも、そうではない感じがする。

 とても冷静に、人間の無意識な狡さや、

上辺だけの正義という皮肉を、

描いているようにも見えるんですよね。

 韓ドラでいくなら、ミョンファがもっと

ヒステリー的に夫を責めたり、

もっとミョンファを英雄のように

描きそうだけど。

 そうではなく、ここでも、

リアルな一人の人間なんですよね。

 

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キム・ソニョン様演じる婦人会代表もまた、

うまく立ち回っていましたよね。

 

最後、ミョンファを助けたグループは、

オニギリを差し出す。

 

一緒に観ていた娘が、

「初めから、こうやって、

みんな助け合ったらいいねん」

・・・と言っていた。

 けど、私は心の中で、

この人たちも、

どうなるかなんて分からない・・・って思う。

ひとたび

「生き延びるためには仕方のないことだ」

という考えが入り込めば、

流れは一瞬で変わっていくと思う。

 

結局、すべてが崩れ去った世界では、

正義も法律も倫理も、

何の役にも立たないのかも知れない。

 人間は、ただただ「生きたい」という欲求に、

のまれていくだけ。

 だから、こうして、

色んな法律やルールに支配されている

今の世界が、妙に納得できる。

人間が、1番人間を信じていないのかも(笑)

だから、あらゆる法整備で、

人間を縛り付けているのかも知れない。

 

 

そういえば、

娘に、「お母さんなら、どうする?」

って聞かれたので、

 

「お母さんは、雑魚キャラやから、

こういう時に生き残るとは思えない」

 

・・・と冗談のつもりで言ったら、

 

「ああ、なるほどね」と納得されて、

妙な気分になった。

 

 

大規模なパニック作品の中では、

リアルさがひと際光る秀作だと思います。

とはいえ、

何か答えをくれる作品ではないと思います。

 むしろ、全てから解き放たれた人間の本能は、

そんなに美しくないのかもね・・・

とネガティブな考えに至ってしまいます。

 こういう状況下では、美しい愛情も、

姿を変えてしまう理由の

1つになってしまうのだ。

 

そして、ルールや法律のない世界を

もたらすのは、

未曾有の自然災害だけではなく、

終わらない紛争や戦争もまた同じ。

それを、肝に銘じて置きたいところです。