1979年10月26日、大韓民国大統領直属の諜報機関である中央情報部(通称:KCIA)部長キム・ギュピョンが大統領を射殺した。大統領に次ぐ強大な権力と情報を握っていたとも言われるKCIAのトップがなぜ?さかのぼること40日前、KCIA 元部長パク・ヨンガクが亡命先であるアメリカの下院議会 聴聞会で韓国大統領の腐敗を告発する証言を行った。更には回顧録を執筆中だともいう。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長は、アメリカに 渡り、かつての友人でもある裏切り者ヨンガクに接触する。それが、やがて自らの運命をも狂わせる哀しき暗闘の幕開けとも知らず・・・。

 

暗殺理由

 正直、イ・ビョンホン様がこれほど演技がうまい事に、

ビビってしまいました。

パク大統領を暗殺する側近で、暗殺を実行する40日前からその日までを

演じています。

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 暗殺の理由は、謎に包まれていて、

①大統領警護室長であるクァク・サンチョンとの対立

このクァク・サンチョンという人が、ホント最低やヤツで、

完全にパク大統領のイエスマンで、デモを力づくで弾圧しようとする輩なんですね。

 

②酒席でKCIAの仕事について叱責された事による、一時的な精神錯乱状態によるもの

 

③自分が大統領になる為

これが理由として、チョン・ドゥファン(後の大統領)に逮捕されたとなっています。

 

④パク大統領のデモ弾圧に反発し、独裁政治をやめさせるため

 

これらの要素が、すべて含まれているような、

絶妙な演技を、イ・ビョンホン様は見せつけてくれます。

 正義だけを追求した理由を強調せず、

人間らしくもある嫉妬や、怒りや、諦めという感情が、

湧き出していた・・・というところ。

名演ですよね。

 だからこそ、キム・ギュピョンの苦悩を肌身で感じる事が出来るし、

その存在をリアルに捉える事が出来るんだと思います。

 

キム・ギュピョンは、ともに生きてきたパク大統領を守りたいと

強く思っていた一人なんですよね。

だからこそ、長年の友人であったのに、元KCIA部長で、

アメリカへ亡命したパク・ヨンガクの殺害を命じたと思うんですね。

 なのに、パク大統領は、その気持ちを汲む所か、

冷たくあしらうんですよね。

 こういう事の繰り返しが、キム・ギュピョンの心をすり減らし、

疲弊させていったんじゃないかな??って思うんですよね。

 

 けれど、それが全てではなく、

やはり、根本は、独裁政治を止めたいという想いが強かったんじゃないかなって

個人的には感じています。

 そういう強い気持ちがあるから、KCIAの部下も、

彼の指示に従ったのではないでしょうか。

 デモを弾圧する上で、自国民を殺す事をいとわない・・と

言い張るパク大統領に、幻滅したんじゃないかな。

 

暗殺シーンも、とてもリアルでした。

途中で、銃が使えなくなるし、

飛び散った血液で、転んでしまったり。

車の中で、血で汚れた手で、飴を食べたり。

 そういう姿は、決して、

正義感溢れるヒーローという描き方ではないんですよね。

 

その辺りが、最後の選択の伏線になるんですよねぇ。

 

なぜ、南山に向かわなかったか・・・・

 暗殺後、南山へと向かう予定だったが、

キム・ギュピョンは、結局、陸軍本部に行くワケです。

そして、陸軍本部で、逮捕され死刑されるんですよね。

 

この車の中での演技が、凄かったですよね。

無言の表情の中に、キム・ギュピョンという人間の器の小ささを、

感じさせてくれるんです。

 自分は、あらゆる感情と、正義感で暗殺したけれど、

その後の韓国を導いていく人間ではない・・・と彼自身が感じていたように

思うんですよね。

「KCIAでは、収拾がつかない」という言葉に、我に返った感じがしました。

 

イ・ビョンホン様の演技の凄さは、大統領暗殺という大それた事をする人間を、

ある種、普通の人間として演じている所かなって

思っています。

 カリスマも、大統領の器を感じさせる雰囲気も、

そういうヒーロー的なオーラを完全に封印しているんですよね。

 

イアーゴの存在

 パク大統領が、側近たちを差し置いて、イアーゴという人間に、

お金の資金洗浄などを依頼している・・・という事でした。

 

これは、最後に明らかになります。

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暗殺の後、パク大統領の金庫を開け、

金やお金を盗み出す人間。

 これが、チョン・ドゥファン。

後にクーデターを起こし、大統領になります。

 

 このチョン・ドゥファンという人間の恐ろしさを感じる展開でした。

高見から事態を眺め、この男の手の平で、

踊らされていたんじゃないかと・・・感じてしまう位でした。

 この時感じた恐怖は、その後の独裁政治へと繋がっていく。

身震いしました。

 

イ・ソンミン様が凄い

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暴君のような非道人間なパク大統領。

なんですけど、一人残された部屋で、

ひっそりと歌を歌うシーンが圧巻でした。

 長年権力の座にいる事の、孤独や哀愁が、

こう感じられるんですよね。

 そして、パク大統領もまた、この座にいる事への、

何とも言えない疲弊を、感じていたんじゃないかな・・・って

感じるんですよね。

 物事を決める事も、投げやりだったり、

人任せにしようとしたり。

 疑心と孤独が、パク大統領を蝕んでいるようにも見えてくるんですよね。

 

この人もまた、精神的に追い詰められていたのかも知れない。

側近に撃たれた瞬間、顔を歪ませていないイ・ソンミン様の演技は、

やっと解放された安堵感のようにも見えた。

 

まとめ

これほど、歴史上の出来事を知る事の面白さを感じたのは、

久しぶりだ。

 感覚としては、ケビン・コスナー主演ケネディ暗殺を描いた

「JFK」を観た時の、興奮に似ている。

 

字で羅列された、無機質な歴史上の出来事の中には、

当然ながら、人間としての感情が存在している事を、

改めて感じさせてくれた。

 

 そんなリアルな人間性を感じさせながらも、

物語は、緊張感を醸し出し、終盤に連れて、

より、鋭くなっていく。

 暗殺シーンから、その最後までは、

息が出来ないほど、観入ってしまった。

 

 そして、最後に用意されたのは、

暗殺犯の肉声。

 その声を聞くと、彼の中には確かに、正義があったのだと

感じて、胸が熱くなる。

 

正義のために暗殺を実行し、自らの命を差し出した。

 けれど、悪夢は再び訪れる。

その恐怖は、金庫を開けるチョン・ドゥファンと重なっていく。

 

本当に、にくい演出だ。

 

演出といえば、

子供たちの劇を観ながら、その裏で、

昔からの友人を殺害する指令を出している所は、

ちょっとゴットファーザーを彷彿とさせてくれましたよね。

 好きなシーンでした。

 

クゥク・ドンウォン様も良かったです

特に、死ぬ場際に、自分の足をじっと見つめる所が、

諦めの境地のようで、井戸にひゅ~って落ちていく感覚がしました。

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派手な銃撃戦など皆無。

絶対的な正義のヒーローとして描いているワケでもない。

時代に翻弄された人たちの人間模様を、

最大級のリアルさと、張り詰めた緊張感で描く。

その中で繰り広げられる役者陣の演技合戦は、

非常に洗練されていて、骨太で繊細。

 終始、目を奪われ、気付けば前のめり。

 歴史の中へと、誘ってくれるのです。

 

歴史を知る面白さの真髄、ここにあり。

・・・・と言える、秀作です。