ビューティフル・ボーイ

2019年4月公開

☆☆☆☆ 2022年⑬ 

Amazonprim

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  あらすじ

成績優秀でスポーツ万能、将来を期待されていた学生ニックは、ふとしたきっかけで手を出したドラッグに次第にのめり込んでいく。更生施設を抜け出したり、再発を繰り返すニックを、大きな愛と献身で見守り包み込む父親デヴィッド。何度裏切られても、息子を信じ続けることができたのは、すべてをこえて愛している存在だから。父デヴィッドと、ドラッグ依存症だった息子ニックがそれぞれの視点で書いた2冊のベストセラーノンフィクションを原作とした実話に基づく愛と再生の物語。

 

  ネタバレ感想

ティモシー・シャラメが熱望した役で、オーディションを受けて勝ち取ったという話。

その熱意で、(もともと痩せているうえに)8キロの減量でもって、

この役を全うした。

 

その甲斐あって、非常にリアルで、

重く、苦しい作品に仕上がっている。

 

 この作品がいかに恐ろしいかというと、

特段、これといった、劇的な場面がないということ。

 主人公のニックは、これといったキッカケがなく、

気付けば、相当な中毒状態になっていた。

 

 確かに、親の離婚など、あげようと思えば色々な原因があるかも知れない。

勉強も出来て、スポーツも出来て、優秀な自分に漬かれていたのかも知れない。

 けれど、原因として強調出来る材料はなかったんじゃないかな・・・と思う。

 ティモシーシャラメが、自然と、ドラッグに堕ちていくように、

ニックは、不意に経験してしまったドラッグに、

すべてを奪われてしまったんじゃないかな・・・と。

 

 何かを抱えて、手を出したワケではなく。

ニックは家族にも愛され、友人にも囲まれて、

それでも、ドラッグに溺れてしまう。

 それが、日常にドラッグが存在する、恐怖なんだと、しみじみと思ったのだ。

 

 ニック演じるシャラメの凄さは、

ハイになっている時の姿と、クリーンの時の姿を見事に演じ分けて、

どんどんと深みにハマっていくリアルさ。

 自分ではどうにも出来ない葛藤や、欲望のために調子の良い事ばかりを口走る姿や、

ドラッグしか見えていない、そんな様々な心の変動が、

本当に痛々しい。

 

あとね。モーラ・ティアニーが良かった。

義理の母親としての愛と、腹立さしさを、

うまく演じていた。

 

 

 個人的に、私は薬物依存について、

ちょっと想うところがある。

 

 10年ほど前に、私は抗がん剤を経験しているのだが、

その時の副作用が、本当にひどくて、

毎日朝から晩まで嘔吐を繰り返していた時があった。

 とにかく1日が長くて、辛くて。夜も眠れず不眠が続いた。

で、眠剤を処方して貰った。

 それを、夜眠る前でなく、

昼間も飲んで、とにかく1時間でも2時間でも寝て、

嘔気嘔吐から解放されたかった。

 恐ろしいのは、その時、私には2歳の娘がいたこと。

しかも双子・・・。

 常識を考えると、何をするか分からない双子がいるのに、

子供を育てる母親が、昼間っから、眠剤飲んで、何してんねん・・・となるんだけど、

そういう思考すら出来ない状態だった。

 

 それを、ドラッグに置き換えたら・・・・

アメリカのように、ドラッグが簡単に手に入る環境だったら・・と考えると、

本当に背筋が冷たくなる。

 

そういうふと瞬間や、ちょっとした逃げたい衝動があった時に、

それを忘れる事が出来るものが、簡単に手に入ったら。

 私も、ドラッグに深入りしていたかも知れない。

 

そして、更に、そういった時期に、

検査の為に、鎮静剤を注射したのだが、

この注射が強烈で、暖かな浮遊感と眠気が、自分を包むように襲ってきて、

もの凄い恍惚感だった。

 これが、結構な鮮明さでもって、何年たっても記憶している。

正直、その感覚が気持ちよくて、多幸感があった。

 ガンという恐怖とも、嘔気嘔吐・脱毛・口内炎など・・・の副作用を、

忘れさせてくれる事。

 

手元にそんな薬があったら、

繰り返して使ってしまうかも知れない。

 苦しさから逃げようと使ったものが、この多幸感を得るために、

何度も手を出してしまうかも知れない。

 

勿論、医療の上で使っているものだから、

この映画でいうドラッグとは違うのだけど、そういった経験から、

薬に依存してしまう気持ちが、なんとなく、理解出来るのだ。

 

ふとした瞬間や、不意に・・・の瞬間に、

そのドラッグが手に入るかどうか。

 手に入る環境かどうかじゃないかと思う。

 

そう考えると、日本のこの環境を、何とか守って欲しいと

願わずにはいられない。

 親と子が、ドラッグは経験の一つとばかりに話すような環境だけには、

なって欲しくないと思う。

 

主人公ニックは、8年もの間、クリーンでいるというが、

このまま、手を出さずに進んで欲しいと思う。

 そう思う反面、いつの日か、再度手を出してしまったというニュースが流れても、

「やっぱりな」と思ってしまうような気もする。

 

メスからの離脱率は数%

アメリカでの50歳以下の死亡原因の1位は、ドラッグの過剰摂取

 

この現実の中で、クリーンでい続けるのは、奇跡だ。

 

けれど、もし、それを可能にしたならば、

その経験を、もっと広めて欲しいと思う。

そう意味では、この先の実話を知りたい。

 ニックが、どういう気持ちで、クリーンな状態を維持出来ているのか。

それが知りたい。

 

 

そして、やはり、ティモシー・シャラメ様は、

美しかった・・・・

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