The Normal Heart | ROUTE8787 サンサクキロク

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完全ネタバレで、お送りしております。




昨日は、珍しく、
家でゆっくりと過ごしていたので、
DVD邦画「MONSTER」1本を昼間、夫と一緒に、
夜は、洗濯をたたみながら、「The Normal Heart」を一人で観た。
 もちろん、洗濯たたむなんて事、出来なかったけど。

 
 一夜明けての感想。

「同じ日に、最低の作品と最高の作品を観るという経験は、そう、無いなぁ」

・・・というものだった。

もちろん、最高は後者。
最低は、前者。

 どちらも、全く違う意味で、感想文を10枚くらいは書けそうだが(笑)
あいにく、その時間もなくて・・・・。

 とりあえずの感想を、走り書きしておきたい。

ええ、勿論、時間をかけてでもUPしたい作品のレビューは、

「The Normal Heart」




私は、数多くのHIV関連の映画や本を読んできたけれど、
この作品は、HIVが出始めた頃の混乱と恐怖と、悲しみを、
リアルに描くことの出来た作品だと思う。
 HIVに感染したゲイ患者だけを描くのではなく、
その時代のゲイ社会のあり方、怒りを存分に表現している。

 そして、それだけではなく、
同性愛者の中にある、様々な愛の形。
 その錯綜とした性は、同性愛と何ら変わりがないことに気付かされる。

乱交パーティーや、激しい性描写の中にあって、

ネッドとフェリックスの愛が、どれほど美しくみえることか。

 試行錯誤を繰り返し、本当の愛に出会った時の、
あの満ち足りた空間は、異性でもあって同性であっても、
全く同じであり、それを無意識に感じさせられる。

だからこそ、
ネッドが兄に訴えかける一言に、衝撃を受けるのだ。
 衝撃を受け、爽快なぐらい、合点がいく。
 自分には偏見がないという自負が、揺らいだ瞬間だ。

The Normal Heart 

「俺たちは、同じだ。同じなんだ」

 そんな簡単な答えが、ストンと胸におちてくる。

シンプルでありながら、見落としそうになる真実が、
フェリックスとネッドの中に、見付けることが出来るのだ。




同じで立場にありながら、ブルースとネッドの関係性もまた、
興味深く描かれていく。
 怒りをあらわに、訴えていくネッドと、
穏健派のブルース。
 常に、自分は、他と何も変わらない・・とし、
強気の発言をするネッド。
 けれど、ブルースは、穏便に、補助金を得ようとする。
 その姿には、
自分たちは、「人と違うから、仕方がない」という諦めが見え隠れする。
 世間に対して、下手にでる・・・という感じだろうか。

ゲイ社会と一括りにされそうなところだが、
そうではなかった。
 ネッドの怒りも、ブルースの臆病さも、理解できる。
 
差別と迫害の中にあって、
それぞれの精神でもって、助けを求めていた。
 そして、その助けに反応しない人間に、どれほど、苛立ちを感じたことだろう。

 これが、たかだか30年前の出来事である。

現代社会では、アメリカのゲイ社会は、30年前と状況が違っている。
社会に馴染み、ゲイであることを、公に出来る。
 そして、HIVの抗ウィルス薬なども開発され、
この時代の、「必ず死ぬ病気」ではなくなってきている。


 30年前の差別と迫害の出来事は、若者の中には記憶として残らず、
HIVはそれほど怖い病気ではない・・という認識が生まれているのかも知れない。
  辛く暗い過去があるからこそ、それぞれの中に生まれた予防法の必要性を
失いつつあるのかも知れない。

フェリックスは、死の床で、ネッドに伝える。
「戦え」と。

 その言葉は、現代社会へ向けられた、
強いメッセージなのかも知れない。
 HIVの戦いは、今なお続いている。
 決して、過去の話ではないのだと。


 このタイミングで、このようなドラマが作成された意味。

それを考えるにつけ、
ライアン・マーフィーはやはり、その時代を読む天才なのかも知れないと、
脱帽するしかない。


 脱帽といえば、勿論、出演者の演技は、まさにそれに尽きる。

エイズ発病からその死まで、減量して演じきったマット・ボーマー。
場面の切り替わりで変貌する姿に、息をのんだ。
のんだと同時に、この病気の恐ろしさを知る。
 「ホワイト・カラー」だけでない・・・って充分に証明した感じか。

マーク・ラファロの、怒りと、苛立ちの演技の迫力。

そして、この2人が織り成す、互いに互いを愛しぬく姿に、
涙がとまらない。

ジム・パーソンズも、静かないい演技だった。
「ビッグバン・セオリー」の彼。
 淡々として演技の中に、悲しみを感じ取ることができる。

そして、ジュリア・ロバーツ。
 多くの若者の死を目の当たりにしながら、物事がうまくいかない苛立ちを、
演じる。
 化粧っけもなく、華やかさもない彼女が、
車椅子の信念ある女医を、全くの違和感なく、演じている。


 HIV発覚前後。
正体不明の疫病に、恐怖を混乱を抱くゲイ社会。
 ネッドとエマは、怒りと苛立ち、そして強い信念を。
 フェリックスは、HIVで死んでいく無念さを。
 ブルースは、自分がゲイであることから生まれる臆病さを。
 トミーは、仲間が死んでいくことの静かな悲しみを。

 差別と迫害の中で、
ガラスのように、彼らは、生きていたんだな・・・と思う。

 この時代の出来事を、忘れてはいけないし、
まず、何があったのか・・を知らなければならない。
 どういった出来事の上に、今が成り立っているのか。

 抗ウィルス薬が生まれ、死と直結しなくなった今。

若者が観るべき作品であり、知るべき歴史の一つであると思う。

そして、それだけではなく、
シンプルでありながらも、深い愛が描かれた、
珠玉の恋愛作品・・・という側面も持っている。

 あああ、これが、本当の愛なんだ・・と。
一途であり、無償。
 互いに互いを失うのを恐れながら、信頼していくしかない。
 なんて、美しくて、切ないのだろう。
 



 という事で、このドラマ・・・ドラマというには、
勿体無いというか(笑)
 映画なら、確実にオスカーを手にしていたと思うのだけれど。

素晴らしい作品でした。




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