こんなに、いい演技をする人やったんですね(←失礼)
相棒とか、観ていないので、
水谷豊って、どんなもんだろうかと思っていたが、
いやはや、何とも、素晴らしい演技を見せつけて頂いた。
ちなみに、伊藤蘭さまも、素晴らしかった。
空爆があり、街がすべて焼けてしまった後の、
水谷豊演じる、少年Hの父親の、演技は、格別だった。
すべてが一瞬にして失われた喪失感と、虚無感。
息子と再会しても、笑顔はない。
「一体、この戦争は何なのだ?」という、疑問。
音もなく、台詞もない、あの場面の、
水谷豊の眼光が、すべてを表現していた。
さて、物語は、妹尾河童実話を映画化したもの。
昭和初期の神戸が舞台。
紳士服の仕立て屋の父親と、クリスチャンの母親と、妹と暮らしている。
軍国化していく日本の姿と、その変化に巻き込まれていく人々を、
少年H(肇のH)の目を通して、描かれていく。
戦争映画・・・という括りよりは、まさにヒューマンドラマである。
戦争映画特有の暗さはなく、時折、ぷぷぷ・・・と笑ってしまう場面も多い。
戦争と、終戦の劇的な変化に、戸惑いをみせる少年H。
軍国主義であった人間が、終戦になれば、全く別物になっていた。
そんな光景を、少年は「ワカメのようだ」と表現する。
上手に環境の変化に、順応していく人間もあれば、
父親のように、その変化についていけず、虚無感に苛まれる人間。
それが、戦争直後の姿を、描いているんだな・・・と思った。
父親は、日本が、軍国主義へと傾倒していく状況の中、
息子に、
「目立ったことはせず、じっと、この世界に何があるか見ているんだ」という。
「すべてが終わった時、恥じる人間になってはならない」とも言う。
その言葉に、家族を守ろうという父親の、気持ちが伝わってきた。
あの時代、確かに、戦争にすべてを賭けていた人もいたに違いないが、
父親であった人々にとって、
やはり、守るべきは、家族であったと思う。
こんな風に、声を潜めて、
「今は、目立つことはするな。我慢の時」と家族にそう呟いた父親・母親は多かったんじゃないかな・・・と思った。
少年Hの父親は、あのような時代であっても、冷静であった。
正義感だけでは、立ち行かない事もあるということを知っていた。
上手に賢く、この時代を生きていくことも大切であるが、
間違ったことはしてはならない・・・と子どもに教えた。
しかしながら、父親自身も自分に言い聞かせていたように思う。
理不尽であっても、そういう時代を受け入れていくしかない・・・
そんな戸惑いも、非常にリアルだった。
ただ、そんな風に、上手に生きながらも、
信念を守り抜く大切さも伝えている。
あの状況であっても、クリスチャンである妻に、教会通いを止めようとはしない。
「異宗教を邪教と呼ぶなら、あんたの神も、他の宗教からしたら、
邪教になるんとちゃうか?」と優しく妻を諭す。
どんな時も、冷静な目で、物事を考える姿勢に、
学ぶべきことがある。
この父親の存在感は、圧巻だ。
少年Hの少年らしい、素直で純粋な、濁りのない目でみた光景は、
この父親に育てられたからだと、合点がいく。
父親の表情一つ一つ、言葉一つ一つが、
ストンと心に落ちていくようである。
「これからの時代は、あんたらやで。
よく物事を見ておくんや」
混沌とする福島原発問題。
56年振りに沸く、東京オリンピック。
状況は違えど、
あらゆる理不尽さ や、喪失感
喜びや、盛り上がる興奮
様々な情報と その信憑性
などが、錯綜している世の中。
そんな中でも、
冷静に、物事を見るのだ・・・・
そんな風に、感じたのも、事実である。
しかし、ホント、水谷豊良かったな・・・・
いっきに、ファンになってしもた。
あと、子役も良かったねー。少年Hも良かったけど、
妹の良子ちゃんも、良かったし。
ちょい役だったけど、濱田岳が出てた。
彼は、何だか、存在感あるね~。
とにもかくにも、良い映画だったなー。
まるで、
この父親が、仕立てた服にアイロンをかけていくかのように。
丁寧に、
まっすぐに、
じっくりと。
そんな風にして作られた、秀作である。
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