日曜の銀座シネパトス、その日は冷たい雨、冷たい風が吹き荒れているにも関わらず、席の半数は埋まっていた。さすが、静かな話題となっている映画だけある。昭和天皇ヒロヒトをひとりの人間として描いた映画『太陽』は、実に興味深い映画だったので、ここでちょっと紹介したいと思う。
私はヒロヒト天皇を知らない。
昔、チラッと写真やTVで見た事はあるけれど、口癖とか、独特な口元の動きとか、そういったヒロヒト天皇の日常を知る機会が無かった。ヒロヒト天皇は、教科書の中の人物という認識であって、一個人として見ていなかった。
しかし、こんなにひとりの人間の存在や一挙一動がユーモラスで悲哀に満ち、私たちを切なくさせるのは、かつての国民の太陽であったヒロヒト天皇だからに他ならない。
劇中で、ヒロヒト天皇が、研究用の蟹を天眼鏡でのぞき「素晴らしい!奇跡だ」と言うが、まさにこの映画こそがヒロヒト天皇を研究したソクーロフ監督とイッセー尾形に「素晴らしい!」という言葉を贈りたい。
イッセー尾形が演じた天皇像を見て、ヒロヒト天皇を身近に感じることができた。
「誰も愛してくれない」と嘆く天皇、マッカーサーと英語で会話をし、ハバナ葉巻を私も吸ってみたいと言う天皇、写真撮影で米兵から「チャーリー・チャップリンに似てる!」と言われて、チャーリー風におどけてみせる天皇。昭和天皇について何も知らないからこそ、素直に楽しめた。(途中からヒロヒト天皇の口元がナマズに見えてしまった。)
ユーモラスとシリアスが入り混じり、飽きることなく観ることが出来た。小津のようなカメラワークやアップ、色彩を押さえた映像、エンドロールに美を感じた。
■太陽
評価:★★★★☆
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映画『太陽』オフィシャルブック/アレクサンドル ソクーロフ
