「普段、お仕事はスーツなんですか?」
「え?いやこんな感じ」
「そうですか」

まだ新入りなのだろう。
ややぎこちなさは残るが
一生懸命なひたむきさが伝わってくる。
なにより
いま俺を見てまっすぐに向かってきている気迫を感じる。

様子をうかがいに店長らしくオトコが
遠くを通る。

ポロシャツのつもりが
シャツコーナーで話し込む。

俺がサラリーマンのような一般の勤め人ではないこと
故にほとんどスーツを着ないこと
この店に初めて来てブランドのことについて何も知らないこと

を聞き出すと

簡単にブランドヒストリーを紹介した。

ボタンダウンの発祥のブランドであること
そのシャツをあのアンディー・ウォーホールも愛用していたこと。

ここが俺のアンテナに触れたと見るや

ジャンニアリエッリやルカモンテゼーモロも顧客だと。
ダースでシャツを注文すのだとか。

会話が心地よかった。
一方的でもなく、押し付けるでなく、興味をかきたてるような
そんな口調なのだ。

「じゃあ、俺もダースでもらおうかな?」
「あ、有難うございます!」

薦められるがまま白のボタンダウンシャツを
12枚求めた。

入口まで送ってくれた。
外に出た時
いい風が吹いた。